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【ネタバレあり・レビュー】太陽の中の対決 | 白人として生まれ、インディアンとして生きた男の孤独な戦いを描いた西部劇!

インディアンと白人というのは相容れない存在です。
そうした対立の模様は、西部劇ではもはやお約束の展開だと言えるでしょう。
今回レビューする『太陽の中の対決』は、白人がインディアンに育てられたという設定の作品です。

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ストーリー

19世紀後半のアリゾナ州
アパッチ族に育てられた白人男性ジョン・ラッセルは、養父が亡くなったことから遺産として宿屋を手にした。
その宿屋を売ることにしたラッセルは、経営者であるジェシーと衝突しながらも宿屋を売り払い大金を手にした。
新天地へと向かうことにしたラッセルは、ジェシーと共に駅馬車に乗るが、そこでグライムス率いる強盗団と遭遇する。
ラッセルは遺産を守るためグライムスと敵対する。

感想

西部劇の主人公といえば大抵がローンウルフ。一匹狼です。
けれど、本作の主人公ジョン・ラッセルアウトローを気取っている訳でもなく、本当の意味で一匹狼でした。
というのも、彼は白人として生まれながらもアパッチ族(インディアン)に育てられたという過去を持っているんですね。
たしかにインディアンの仲間たちとは意気投合しているのですが、ひとたび白人社会に出れば彼は異質の存在に。
「野蛮で危険」という偏見を向けられるラッセルの姿は、そのままインディアンに対する偏見を表しているようでした。

そんな偏見を受けるのがラッセルなわけですが、彼がまたカッコいいんです。
駅馬車強盗に襲われようが、銃撃戦に、なろうがいつも冷静沈着。
駅馬車に乗り合わせた一行が彼を頼りにし、道中を共にするのも頷けるクールさを持ち合わせた男らしい男でした。
そんなラッセルを演じるのはポール・ニューマン
初登場時にはインディアンらしい服装とロン毛で登場し、その後からは髪を短くしカウボーイハットを被ったいかにもなガンマンスタイルで登場します。白人であり、インディアンに育てられたというの設定が分かりやすいです。
冷静沈着で口数も少ないけれど、主人公であることを忘れさせない風格はさすがの存在感でした。
決して多くはありませんが、銃撃戦を繰り広げるシーンもあり、確実に相手を仕留める手腕でガンマンとしてのカッコよさも見せていました。

そんな本作はラストがとにかく切なかったです。
それまでインディアンとして育てられ、白人に対する情などまったくなかったラッセルが、ジェシーらの姿を見て助け合うという選択肢を見出だすんですね。
インディアンとして育ってきた彼の中にも白人の魂が宿っていたということを表していました。
しかし、彼はグライムス一味と刺し違える形で命を落としてしまいます。
この白人の魂を賭けた戦いに孤独ながらも挑むラッセルの姿と、ジェシー以外はその尊い犠牲を知らないという切なさはなかなか心に刺さるラストシーンでした。
最後の最後まで孤高の男として居続けるのは、カッコいい反面、儚さも感じさせました。


【ネタバレあり・レビュー】インベージョン | 眠ったら発症の激やばウイルス映画!

人が人を認識するのに第一に見るのが外見です。
見知った顔であればまず疑う余地もなく知り合いだと認識するでしょう。
しかし、もしその中身が違ったとしたら?
そんな人間の内部が侵略される恐ろしさを描いたのが、今回レビューする『インベージョン』です。

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ストーリー

ある夜、宇宙探査を行っていたスペースシャトルが墜落する。
その船体には宇宙に漂う未知のウイルスが付着していた。

その頃、精神科医であるキャロルは患者からの相談で自身の夫がまるで別人のようだという相談を受けていた。
初めの内はそれが精神的な問題であると考えていたキャロルであったが、やがて自分の周りにも同じような不気味な人間がいることに気づく。
キャロルは元夫に連れていかれた息子オリバーを取り返し、街を出ることを決意する。

感想

最近のコロナ禍な情勢を受けて「ウイルスパンデミックものでも見てみよう」と思い立ち、探した結果見ることとなったこの作品。
「未知のウイルスが人間の細胞を半分乗っ取り別人のようにしてしまう」というのは、果たしてウイルスパンデミックものなのか?という疑問が沸きますが、体液で感染者が増えるという設定でしたし、広義の意味でウイルスパンデミックものなのでしょう。(その方法がゲロを吐いて直接口に注ぎ込むというダイナミックさには笑いました)
なんにしても面白い作品でした。
知人が本物か疑心暗鬼になる緊張感、次々と増えていく感染者たちに追われる焦燥感など、頭脳戦やチェイスなどエンタメ性に優れた内容となっていました。

中でも秀逸だったのが、感染と発症は別物であったことです。
上にも書いたように、本作での感染の仕方はゲロを口移しされるというものでした。
ただ、これだけだと人体には特に問題がなく、発症するのはREM睡眠状態に入ったらなんですね。
そのため、感染してからも行動可能であることが本作の面白さを生み出していたと思います。
感染者に捕まればアウトなのはもちろん、安全な場所に辿り着いても油断したら眠ってしまうという、常にハラハラさせられる状況は見ていて面白かったです。

そうしたハラハラする展開に拍車をかけていたのが俳優です。
本作の主演はニコール・キッドマン。演技派俳優という事もあって、異常事態に陥りながらも母親として息子を救おうとする、脆くありながらも大切なもののために強くあろうとする繊細な演技を見事に表現していました。
感染者の中を感情を殺して歩く(そうしないと感染者に察知されるため)というシーンもあり、その演技の幅の広さには驚かされるばかりでした。

キャロルのパートナー役ベンを演じたダニエル・クレイグもまたいい味を出していました。
冷静沈着で常にキャロルの味方でいる頼もしさは唯一無二の存在。
キャロルを引っ張りながらも出過ぎたマネをしないという渋い立ち回りはクレイグの魅力ありきのキャラクターであったと思います。
それだけに、ベンが感染していると分かった時の絶望は凄まじいものでした。
キャロルと一緒に驚愕してしまうくらいには感所移入できるキャラクターであったと思います。

こうしたエンタメ色の強い作品ではありますが、根底にあるテーマは意外と社会派で面白かったです。
そのテーマとは「人間らしさがどこにあるか」
本作で現れたウイルスは全てが一つの"個"であるため、人間のように、"個"と"個"が衝突して争いが起こることが決してないと言っているんですね。
現に、作中では北朝鮮が友好的な交渉をしているというニュースが流れていたりもしました。
では、ウイルスがワクチンによって駆逐されたらどうなったのかというと、再び争いが起き始めていました。
皮肉なことに、争いをすることが人間らしさであることを体現してしまっていたのですね。
その事実にキャロルが気づいたシーンで作品が終わるのですからなんとも考えさせられるラストでした。

これは、現実世界にも言えることのように思えます。
現状、コロナウイルスの蔓延により、戦争の勃発などは起こっていません。
しかし、ニュースではコロナ後に米中戦争が勃発するのではないかと取り沙汰されているのも事実です。
果たして現実ではどうなるのか、それはコロナウイルスのワクチンができて根絶されてからしか分かりませんね。


ウイルス映画とはいうものの、ほぼほぼパニック映画であった本作。
エンタメ色が強いながらも、その中に人間の本質を描いていたのは面白かったです。
設定も斬新で見ごたえのある作品でした。

【ネタバレあり・レビュー】マルタの鷹 | これぞハードボイルド!ハンフリー・ボガートが魅せるフィルム・ノワール!

ハードボイルドな主人公というと、冷静沈着で無口な人物というイメージがあります。
しかしハードボイルドとは、ゆで卵などが固くゆでられた状態=そうした感情に流されたりしない固い意志を指しています。
そのため、意志を曲げない強さを持っていればそれはハードボイルドだと言えるんですね。
今回レビューする『マルタの鷹』は、口がよく回り感情豊かな主人公が見せるハードボイルドさが印象的な作品です。

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ストーリー

相棒マイルズと共に探偵事務所を営むサム・スペードは、女性ブリジッド・オショーネシーから駆け落ちした妹をサースビーという男から取り戻してほしいと依頼してくる。
その依頼をマイルズが担当することとなったが、その夜彼は殺されてしまった。
スペードはマイルズを殺した犯人を追い始めるが、警察は彼を犯人に仕立て挙げようと躍起になっていた。
窮地に追い込まれながらも捜査を続けるスペードは、やがて「マルタの鷹」という1つの像の存在に行き着く。

感想

タイトルは幾度か見たことがあったけれど、昔の映画ということもあって見るのを後回しにしていた作品です。(なぜかアルフレッド・ヒッチコック監督作とかんちがいしていましたが、ジョン・ヒューストン監督作でした)
今回、シネマトゥデイのサイトで1週間(11月20日~27日)無料放送があったために鑑賞。これが個人的にはヒットしました。

まず、ハンフリー・ボガートがカッコいい!
彼といえば自分の中では『カサブランカ』(公開は本作の翌年1942年)が真っ先に浮かびます。
あちらの作品での紳士でうっとりとさせてくれるようなボガートも魅力的なのですが、本作では探偵としての威信を賭けて捜査に挑む仕事人なボガートをみせてくれるんですね。
中折れ帽とハンチングコートをトレードマークに、あらゆる人物を疑い、常に余裕を持ったその振る舞いはまさにハードボイルドな探偵でした。

そんなボガート演じるスペードのセリフ量はハンパなものではありませんでした。
話が進んでいくに連れて登場人物が増えていき、そのすべての人間と接するのですから当然です。
依頼主のブリジッド、警察、謎の存在"大男"、元相棒の妻らと、次々にやり取りを交わしていました。
スペードの弁の立つ会話は小気味よくて、見ていて退屈しないというのが作品の強みになっていたと思います。

そして、スペードや"大男"らが追うのが「マルタの鷹」です。
宝石が埋め込まれた鷹の像ということもあって、それを巡り殺しまで起きてしまうのが人間の欲望の汚さを浮き彫りにしていたと思います。
そんな争いの引き金となった像を差して、ラストシーンにスペードは「(「マルタの鷹」は)欲望の固まりさ」と言い放っていました。
(余談ですが、ここのセリフは翻訳家によって訳が違うのかもしれません。私が見た際は「欲望の固まりさ」となっていましたが、本来のセリフは「The stuff that dreams made of. 」であり、翻訳家によっては「夢が詰まっているのさ」と訳しているらしいです。夢を追い求める欲望によって起きた事件について言及したセリフなので意訳として「欲望」となったのかもしれませんね)
まさに、本作の騒動のすべてを指し示しており、「言い得て妙」という言葉を送りたくなるセリフでした。

さて、そんなラストシーンですが、もうひとつ印象的であったのがブリジッドの扱いでした。
本作、スペードは彼女を疑いながらもことあるごとに惹かれていく描写がありました。
その美しいロマンスを見せられれば、おそらく誰もが彼女はヒロインであり最後にスペードと結ばれるのだろうなと思うでしょう。
しかし、ラストで相棒を殺していたことを暴いたスペードは彼女を警察に突き出すんですね。
その際に語る「自分の相棒が殺されたら男は黙っちゃいない」というハードボイルドなセリフは心に刺さりました。
一方で、そこになんの情もなかったかと言えばそうでもないように見受けられました。
最後まで愛を語るブリジッドに「忘れないし忘れられないだろう」と心を乱されながらも、自らの探偵としての職務を全うする姿は、彼の意志の強さを感じさせます。
ハンフリー・ボガートの繊細な演技も相まって、見た者にも忘れられないような名シーンを生み出したラストとなっていました。


ハードボイルドな探偵映画であった本作。
その魅力をハンフリー・ボガートが最大限に表現しており、改めて彼の凄さを思い知らされました。
時代の経過や白黒映画であることを感じさせない探偵モノの魅力を持った作品でした。

【ネタバレあり・レビュー】エンド・オブ・カリフォルニア | アサイラムが送る地震よりも恐ろしいB級映画!


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ストーリー

カリフォルニア州ロサンゼルスが地震により、大きな被害を受けた。
地震学者であるヤンは、それがまだ前震であり、12時間後にさらなる巨大地震が起きることを突き止める。
それを回避するためヤンは、元妻デボラが開発した「地震砲」を使うため、彼女との再会を決意する。

感想

B級映画の大手とも言えるアサイラム制作のディザスタームービーということで、だいたい察しが付きながらも見ました。
まさに安定のアサイラムクオリティ!裏切りません。
CGの酷さは言うまでもなく、設定のぶっとび具合や全力の手抜きシーン、とにかく詰め込んどけと言わんばかりのストーリーなど、ある意味見所のある作品でした。

そんな本作は冒頭いきなり大地震の描写から始まります。
もうこの時点で安っぽさ全開なわけなのですが、下手にくどくどと変な展開を見せられるよりかは本筋にすぐ入る方が良かったのではないかと思います。
これまでのアサイラム映画でもユーモラスな会話劇とかあんまし見たことありませんし。

そんな地震が引き金となって数字間後に起こる最大級の地震を回避するのが主人公ヤンと元妻デボラの目標となるわけなのですが、このヤンがなかなかにひどいヤツです。
瓦礫に下敷きになっている人がいるのに特に確かめもせず手遅れだと判断して助けなかったり、娘を早く助けにいきたいからと軍のパイロットの邪魔をしてヘリを墜落させたりと、なかなかのエゴイスト。
デボラが冷静沈着に働いている分より無能さが際立っている印象があり、終始受け入れられないキャラクターでした。(アサイラム映画だからネタとして「次は何やらかしてくれるんだ?」と笑って見られましたが)

このようにキャラクターを適当に扱うのもアサイラム映画ならでは。
一度、重傷を負って死にかけていたスタッフの一人が即復活したかと思えば地震の亀裂に落ちて結局死ぬという酷な扱いを見せていました。
しかし、彼はまだ死に際は看取るシーンがあるからまだマシ。
軍のパイロットが主人公たちを助けた直後にいきなり溶岩に落ちて断末魔も上げずに死ぬシーンはあまりの酷さに笑いました。
溶岩に溶けていく頭蓋骨を見せたのはアサイラムなりの敬意なのかは分かりませんが、ネタ感ハンパなかったです。

そうしたクオリティの低さは本編の至るところに見られました。
例えば、車内で災害に合うシーンがありましたが、まさかの窓が真っ白。外の風景がまったく見えません。
おそらく、CG作るのが面倒だったかあるいは間に合わなかったかでそうなったのでしょうが、ヤンとデボラが「地震がヤバい状況だ」と話しているのに外の風景が一切見えないのはシュールな光景でした。
他にも粗を探すと、崩れたハズの建物が反射したガラスの中ではまったく無傷であったり、無人となったハズのロサンゼルスなのに後ろの方で普通に車が通行していたりとガバカバ。
まあ、こうした粗を探すのがまた醍醐味のひとつなのですから、楽しめたには楽しめたと言えるのでしょう。

そしてラストは亀裂に溶岩を流し込んで塞ぐというトンでもない発想でした。
どうやって凝固するのかなど、いろいろと疑問がありますが、出来てしまうのですから言ったもの勝ちですよ。
マグマが流れ込んだのを見届けたら一気にエンディングという潔さが「文句あるか?」と言わんばかりの威圧感を放っていました。

作品の鍵を握るのが、地震と同じ周波の波をぶつける「地震砲」(すぐ壊れる機械)であったりと、最初から最後までネタに事欠かない作品でした。


アサイラム制作のディザスタームービーであった本作。
この会社は、近い時期に『ジオディザスター』なる展開も似通った映画を作っていましたが、あちらはつまらない+ツッコミどころも薄いという地獄のような作品だっただけに本作の方が数倍面白かったと思います。
しかし、いつもアサイラム映画を見た後は「なんで見たんだろう」と思わされますね。

【レビュー】アクセレーション(ネタバレあり)

ドルフ・ラングレンといえば、知る人ぞ知るアクション俳優です。
近年では年を取ったこともあってか、あまりアクションをする姿を見なくなってきています。
しかし彼の存在感は凄まじく、出演すれば必ずその存在に気づくほどの風格をいつも漂わせています。
そんな彼が挑む(現状日本で見られる作品の)最新作が、今回レビューする『アクセラレーション』です。

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ストーリー

女殺し屋であるローナは、銃を売り捌く仕事が失敗に終わったことから裏切りの容疑を掛けられる。
クライアントであったマフィアのボスヴラディクは、落とし前を着けさせるために彼女の息子を誘拐し、5つの仕事を強要した。
リミットは夜明けまでの7時間。ローナは息子を救うために動き始める。

感想

ドルフ・ラングレン目当てで見たこの作品。
ドルフ・ラングレンあんまり活躍してないじゃん……」というツッコミはさておき、全体的にあまり楽しめる作品ではありませんでした。
そもそも掴みが酷すぎました。
いきなりアクションシーンから始まって、事の発端へと遡っていくのはよくある手法なので許せます。
けれど、遡ったのに結局話が途中からっていったい何がしたいのか……
「ヴラディク(ラングレン)に息子が攫われて5つの仕事を果たすように言い渡されている」と、状況説明はされますが、経緯や動機、ヴラディクとの関係についてはノータッチ。
その癖、展開は早送りのごとく次々に進んでいくのですからついていけません。「アクセラレーション」(加速)するのはいいですけど、それで見る側を置いてけぼりにするのは如何なものかと思います。

全てが判明したらしたでわけが分からないのもガッカリ要素です。
そもそもローナが息子との生活のためにお金と密輸する銃を盗む→ヴラディクが息子を誘拐する、という流れは分かりますが、それでなぜ5つの仕事を頼む話になるのか……
借金で首が回らない(すぐに返さないと殺される)状況なのに勢力の拡大とかやってる場合なのかと謎でしたね。

これらの話が分かりづらかったのが、視点のごちゃごちゃさにありました。
本作、主人公こそローナなわけですがヴラディクの視点であったり、悪党ケインの視点であったりと、目まぐるしく変わっていきます。
これがもし、後々事情が分かってくるタイプの作品でなければまだ分かりやすかったのかもしれません。
しかし、ローナが何をしたのか、ヴラディクがローナに何をやらせたいのかがすぐに分からいない本作だといたずらに話をややこしくしているんですよね。
ストーリーの幅を広げるためのストーリー構成が逆に伝わりづらい辛くなるという残念なことになってしまっていたように思えました。

そんな中でも見所を見いだせるとすればアクションなのでしょう。
やたらカット割りが多かったり、肝心のトドメを刺すシーンが物陰に隠れていたりと不満点は多いものの、本作を最後まで見れたのはアクションシーンで刺激を入れていたからだと思います。
基本的には生身のアクションが多く、ちゃんとしている印象がありました。
むしろ銃撃戦が酷すぎたから生身のアクションがマシに見えたのかもしれません。
撃ち合いなのに同じ空間にいるとは思えないアングルであったり、物陰に隠れず撃ち合っていたりと、ガバガバなことこの上なかったですからね。
逆にそれが楽しかったのもありましたが。

そして、本作肝心のドルフ・ラングレンは、冒頭に書いたように活躍シーンが少なかったです。
銃撃戦も上に書いたように酷いもので魅力がまったく伝わってきません。
アクションシーンは……なんというかすごく辛そうでした。
その場にいるだけでも強そうなオーラは放っているので、下手にアクションはしなくてもいいのかもしれませんね。
その点『クリード 炎の宿敵』は、彼の使い方を分かっていたのだなと改めて思いました。


ドルフ・ラングレン目当てで見た本作。
面白いとは言えませんが、多彩なネオンでオシャレな裏社会を見せていたり、早回しでテンポよく見せようとしたりと、演出の努力が見えるのは評価したいところでした。
ドルフ・ラングレン出演というだけで、多くのアクション映画ファンを釣ることは出来ますし、ラングレンさまさまな作品でした。

【レビュー】ロイヤルネイビー 米軍最強兵器を破壊せよ!(ネタバレあり)

B級映画を輸入する際、配給会社はまず第1に多くの人に見てもらうことを意識しなくてはなりません。
そのためには、多少の脚色は厭わないとさえ言えるでしょう。
そんな脚色をしまくった邦題がつけられたB級映画が、今回レビューする『ロイヤルネイビー 米軍最強兵器を破壊せよ!』です。

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ストーリー

元軍人であったサムは、ある日生後八ヶ月の子供が熱を出したことから薬を買うため外出をする。
その道中、何者かに拉致されたサムは、目覚めると無人の工場に閉じ込められていた。
脱出を試みるサムであったが、彼女は目に見えない何者かからの攻撃を受ける。

感想

タイトルからして戦争モノかと勝手に思っていたのですが、まさかのSFモノ。しかも駄作というダブルショックを受けさせられました。
そもそもの話、邦題がオリジナリティを出し過ぎているんですよね。
原題は『Stalked』(ストーカー)となっており、作中に登場する悪役の異常性を表していて納得出来ます。
一方、邦題は『アメリカ最強兵器を破壊せよ!』。いや、間違ってはいないのですがそんな壮大なストーリーには思えないんですよね。
犯人の目的は私利私欲のためで軍事利用とか特に考えている感じでもなさそうでしたし、ステルススーツが最強兵器であることは変わりありませんが、そこに脅威は感じられません。
でも見たくなる邦題であるのは確かなわけで……「見るための興味を惹く」という点では有能なタイトルなのかもしれません。後々ヘイトが溜まりますが。

とはいえ、本作のクオリティそのものが低かったのも事実。
設定のあいまいさ、スケールの小ささ、展開の少なさ……全てにおいてガッカリな内容でした。
まあ「人を痛めつけることが趣味な男がステルススーツを使って主人公たちをいたぶる」というのがストーリーの大半を占めている時点で面白くなる要素がほぼほぼないと言えるでしょう。
しかしそれを加味しても本作の退屈さは凄まじかった……
サムが拉致され目覚めてからの10分近くを探索するだけの時間に裂いたり、緊迫感を演出するためのカットの連続(例えばサムと犯人の距離が縮まっていくのをカットをだんだん短くしていく表現)がくどいくらい連続して使用されたりと、とにかく尺伸ばしのような演出が多すぎでした。
特に必要のないキャラクターが登場して無駄死にするという扱いなんかもあって、途中までは何故この作品を作ったのか謎なくらいでした。

で、その理由がおそらくステルススーツの存在なのでしょう。
後半あたりから、このステルススーツがスマホのカメラに映る(理論はよく分かりません)という特性を生かしてサムと犯人とのかくれんぼ的なのが始まります。
設定はガバガバですが、正直「スマホで見えるようになる」という発想は面白いなと思いました。
とはいえ、ただただカメラで犯人を追いかけつつ隙が出来たところで攻撃→ステルス機能が切れるという発展のしなさにはガッカリしました。
あと、この戦闘シーンの迫力のなさはある意味本作のベストシーンだと思います。
もっさりとした動きなのに効果音(パンチを繰り出した時の風切り音とか)はしっかり加えられているチグハグさは真面目に作ってあるだけに笑えてしまいました。

他にも、殺人ドローンをレンガ一発当てただけで破壊してしまったり、後日談もなく犯人を倒したら即エンディングなど、B級映画のお約束でもなぞっているかのような展開の数々は悪くなかったと思います。
序盤の退屈な時間さえ凌げば、ツッコミ所もあって楽しめたというのが最終的な感想ですね。駄作という事実は覆りようがありませんが。

余談となりますが、ステルススーツを着た透明人間が襲ってくるという展開は、最近見た『透明人間』(2020)を思い起こさせました。
評価は天と地ほどの差がありますが、本作の方が先に公開されているというのはなんだか面白い話だなと思いました。


いかにも壮大なタイトルをつけておいて超スケールの小さい作品であった本作。
メインヴィジュアル(記事冒頭の画像)には「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスタッフが放つ」と書いてあるのに関わっているスタッフは2人しかいないなど、拡大解釈をしまくっていました。
ある意味、配給会社の愛が見える作品でした。

【レビュー】セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦(ネタバレあり)

レニングラード包囲戦
それは第二次世界大戦時に起きたドイツ、ソ連間で行われた戦闘のひとつです。
名前の通りドイツ軍がソ連の都市レニングラードを包囲したという出来事で、レニングラードは900日近くを耐え抜き都市を守ったという歴史を持っています。
そんな包囲戦が起きる直前、レニングラードから多くの人々を救ったエピソードを映画化した作品が『セイビング・レニングラード 奇跡の脱出作戦』です。

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ストーリー

1941年4月。
ソ連第2の都市レニングラードはドイツ軍に包囲されていた。
200万人の市民が食料危機に見回れる中、唯一の逃げ道はラドガ湖を渡ることであった。
しかし、湖を渡れるのは一隻の古い船だけであった。

感想

戦争映画とはたいてい、史実をもとにしているからか長丁場となってしまうのが常です。
しかし、本作は90分弱。「薄っぺらい内容になるのでは?」と思いつつ鑑賞しました。
たしかに内容はレニングラードナチスにより包囲される直前の話(1941年)で、戦場よりも市民の脱出がメインとなっていました。
しかし、戦火が迫る市民の恐怖をしっかりと描いていたのは面白かったと思います。
国vs国の大きな戦いなんかは、これまでの作品でも多く描かれてきました。
それだけに、こうした制作国(ロシア)で起きた事象をテーマに据えた作品というのは、珍しくて新鮮な気持ちで鑑賞できたわけです。
レニングラード包囲戦そのものは知っていても、その影響で市民がどうなったのかなんてあまり考えませんからね。

本作ではそうした市民の様子を3つの視点から描いていました。
1つ目は唯一の逃げ道である湖からの脱出船、2つ目は襲い来るナチス兵を食い止める戦場、3つ目は戦火の迫る街中でした。
面白いのがこれら3つの視点で登場する人物たちは、つながりを持っていることです。
例えば、脱出船に乗るコースチャとナースチャのカップルは、戦場でキーパーソンとなるナースチャの父親と砲兵隊の曹長とつながりを持っています。
戦火の迫る街では、戦場にいる夫と船に乗った娘(ナースチャ)の母親が街を捨てられず思い出に浸る様子が描かれています。
このような登場人物同士のつながりは、視点の切り替えが多用されていてもストーリーを追いやすく効果的でした。
レニングラード包囲戦直前にレニングラードで生きてきた人々がどのような思いでどのような運命を辿ったかがしっかりと伝わってきました。

さて、そんな本作ですがメインストーリーはコースチャとナースチャの波乱に満ちた恋路でした。
序盤から入れ違いになって片方が船を乗り過ごしそうになったりと、前途多難な雰囲気を醸し出していましたが、案の定、話が進むにつれてこじれていきます。
コースチャが大佐の息子であることから戦場から逃げたと非難されたり、内務人民委員部に所属するペトルーチクに目を付けられ軍法会議に掛けられそうになったりと、狭い船上をフルに活用したドラマを展開していました。
で、これなにかに似ていると思ったら『タイタニック』に少し似ているんですね。シチュエーションといい、シリアス展開といい。
そのため、ドラマも面白くないわけがありません。人の感情がぶつかり合い、こじれていく様を上手く描写していました。
最後には、ナチス軍からの攻撃を打破することによって、それらの人間ドラマに決着を着けるのですから綺麗にまとめていたと思います。(ナチスの戦闘機を撃墜してからトントン拍子に全てが丸く収まるのは若干都合が良かったですが、だらだらと続けるよりはいいまとめ方だったかと)
戦争をきっかけとしつつ、人間ドラマをメインに置いていたのは取っつきやすく良かったです。


実際に起こったレニングラード包囲戦をベースにそこから逃れる人々のドラマを見せていた本作。
戦争描写もしっかりとされており、公開当時に公開館が少なかったのがもったいない作品でした。(おそらく東京と大阪しか公開されてないと思います)