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【コラム】クリストファー・プラマーという俳優の凄さと思い出!

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2021年2月5日で一人の俳優の訃報が流れました。
それはクリストファー・プラマーが亡くなったというもの。
大御所の俳優であっただけにショックを受けた方は多いのではないかと思います。
今回は、そんなクリストファー・プラマーがいかに凄い人物であったのかのまとめと、個人的な思い出について書いていきます。

クリストファー・プラマーの凄さ

出演作品

まず彼の凄いのが出演作品の数です。
彼は全体で215作品に出演(映画119作品、テレビ79作品、舞台17作品)しました。
1953年にブロードウェイでデビュー、1958年に映画デビューを果たします。(デビュー作は、ヘンリー・フォンダ主演の『女優志願』)
しかし、彼は1929年生まれなので、53年時には24歳、58年時には29歳と、決して早熟であったわけではありませんでした。

そんな彼の転機となるのが1965年の『サウンド・オブ・ミュージック』です。(撮影時は64年で35歳)
ここで一躍有名になった彼は様々な作品に出演。
『サンセット物語』(1965)や『王になろうとした男』(1975)、『サイレント・パートナー』(1978)、『ある日どこかで』(1980)などで活躍しました。
また、他にも1979年には『名探偵ホームズ・黒馬車の影』でシャーロック・ホームズ役を、1991年の『スタートレックVI 未知の世界』ではチャン将軍役を演じるなど、キャラクター性のあるキャッチーな役もこなしていました。
デビューから現在に至るまで、ほぼ毎年テレビシリーズ、あるいは映画に何かしら出演してきたというのは彼の役者魂を感じさせますね。

そんな彼の役どころとして多いのが、主人公ではなく、主人公と強い関わりを持つ助演でした。
それは『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐役からも顕れていますね。
また、ナレーターやアニメーション映画の声優としての活躍も多く、中でも2009年のピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』は、記憶に残っている方も多いのではないかと思います。

そうした数多くの作品に出演してきたクリストファー・プラマー
続いては、彼の俳優としての功績を見ていきます。

受賞経歴

ここで見ていきたいのが、クリストファー・プラマーが俳優として得た賞についてです。
ひとつの指標とも言えるアカデミー賞
この賞にプラマーは助演男優賞として3度ノミネートされています。

1度目が2009年の『終着駅 トルストイ最後の旅』(授賞式は2010年)
2度目が2010年の『人生はビギナーズ』(授賞式は2012年)
3度目が2017年の『ゲティ家の身代金』(授賞式は2018年)

この内、『人生はビギナーズ』で助演男優賞を獲得しました。
この時、彼は82歳。当時、アカデミー賞最高齢の受賞者として多くの人々を沸かせました。(現在はジェームズ・アイヴォリーの89歳が最高齢)
また、『ゲティ家の身代金』でのノミネートは、助演男優賞の中では最高齢ノミネート、さらに9日間での撮影による最短ノミネート記録も更新しました。(ケビン・スペイシーの代役としてキャスティングされたため)


こうした、アカデミー賞だけ見ても多くの逸話を残しているプラマー。
しかし、彼の凄さは他の賞を見るとさらに分かることに。

ブロードウェイの最高の賞「トニー賞」を2度受賞(1974年の『Cyrano』、1997年の『Barrymore』)
テレビドラマの最高の賞「エミー賞」を2度受賞(1977年の『The Big Event』、1994年の『マドレーヌ』)
アカデミー賞の前哨戦でもある「ゴールデングローブ賞」を1度受賞(『人生はビギナーズ』)

アカデミー賞トニー賞エミー賞の演技三冠を獲得したのは、史上19人目。
カナダ人俳優としては初の偉業を果たしました。
もちろん、他の賞も数多く獲得しており、彼の俳優としてのレベルの高さを表していると言えるでしょう。

クリストファー・プラマーの思い出

ここからは個人的なクリストファー・プラマーに対する思い出を書き連ねていきます。
そもそも、私が彼の存在を知ったのは割と最近。
2016年の『手紙は憶えいる』でした。
それ以前にも『サウンド・オブ・ミュージック』や『王になろうとした男』、『12モンキーズ』などで見ていたハズなのですが、特に気に止めていませんでした。
しかし『手紙は~』を見た私は衝撃を受けました。
「ここまで演技力の高い俳優がいるのか!」と。
そこで調べてみたら今までにも見ていたことに気づき『サウンド・オブ・ミュージック』を見直したんですね。
そこからはもう虜に。
2019年に「午前十時の映画祭10-FINAL」にて再び鑑賞する機会がありましたが、もうトラップ大佐中心に見ていました。

そんなワケですっかりクリストファー・プラマーのファンになった私はその後、17年の『偽りの忠誠 ナチスが愛した女』、18年の『Merry Christmas! 〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』、『ゲティ家の身代金』、20年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』を劇場で鑑賞。他にも過去作を幾つか見ました。
直近で見たのは『ある日どこかで
役どころとしては、主人公の恋路を邪魔する男。
しかし、ヒロインの将来を案じ、恋心以上の熱意を見せる姿はどこか憎むことが出来ません。
そこまで出番が多いわけでもないのですが、記憶に残る人間らしさを感じさせていたと思います。

このように、彼が演じる役どころは皮肉屋であったり偏屈であったりと、どこかひと癖あることが多いです。
しかし、大抵その場合は裏にどこか憎めない点があります。
その、一見面倒くさそうな男が持つ人間味を引き出すのがプラマーは非常に巧かったんですね。
どんな役であっても個性を引き出す、それは彼の表現力があるからこそできることではないかと思います。

今年の3月には、主演ではないものの彼の遺作となる『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』が公開予定。(こちらはピーター・フォンダの遺作ともなっています)
公開館が少ないため、地方では見れるか分かりませんが、ディスクリリース後になっても必ず見たい一作です。

【ネタバレあり・レビュー】パリに見出だされたピアニスト | 今の時代に生まれるピアニストのサクセスストーリー!

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ストーリー

フランス・パリ郊外で暮らすマチュー・マリンスキーは、ピアノの才能がありながらも燻った生活を送っていた。
ある日、彼は駅に置かれたピアノを演奏しているところを国立高等音楽院のプロデューサーであるピエール・ゲイトナーに才能を見出だされる。
乗り気ではないマチューであったが、警察に逮捕されたことから、ゲイトナーに助けを乞うこととなる。
そんな彼に課されたのはゲイトナーのいる音楽院での公益奉仕であった。

感想

チャンスに恵まれて来なかった才能ある青年がチャンスを手にするという絵にかいたようなサクセスストーリーであったこの作品。
努力して、恋をして、師弟関係を築いてと、それこそ王道を行く展開は非常に見易い内容でした。

しかし、本作にも当然ながらオリジナリティはあります。
そのひとつがマチューの生活する環境でした。
マチューの暮らす郊外の都市はお世辞にも整った環境とは言えません。
常日頃から悪ガキ共がたむろしており、犯罪の計画であったり、バイクの曲乗りであったりと危険な香りを漂わせています。
一方、マチューが通うようになるコンセルヴァトワールブルジョアが通う学校です。
外観のオシャレさや洗練された態度を見せる生徒たちからもそれは顕著と言えるでしょう。
そんなわけでマチューにとっては非常に居心地の悪い場所であるコンセルヴァトワール
そこで彼が才能と努力でのしあがろうとするのが、この作品の面白さでした。

とはいえ、一筋縄で行かないのが思春期の厄介な所。
女伯爵(ラ・コンテス)ことエリザベスに叱られてふて腐れたり、自分の代わりがいると知ってコンテストに出るのを辞めると騒いだりと、なかなかの問題児っぷりを発揮していました。
確かにマチューの視点だけから見ると、大人たちのお節介、あるいはプロデューサーとしての力の誇示としてしか写りません。
しかし、実際にはその裏でゲイトナーが己の進退を懸けてマチューの将来を推していました。
そうした、ゲイトナーたちとの関係が少しずつ良好なものへと変化していくのも本作の楽しみのひとつであったと言えるのでしょうね。

そんな本作の最大の見せ場が、やはりピアノの演奏シーンでした。
ハンガリー狂詩曲」やラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」など、美しい曲の数々は思わず聞き入ってしまいます。
それをマチューの高速かつ性格な連弾で弾くのですから演奏シーンは常に鳥肌モノでした。
特にラストのコンテストで見せるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」は、それまでマチューが練習していたものをフルで聞けるということもあって圧巻の一言。才能に満ちた彼がいかに努力をしてきたのか、数ヶ月間の練習描写はなかったもののそれを感じ取れるものとなっていました。


才能ある青年が努力をして成功するまでを描いていた本作。
才能が見出だされるのがストリートピアノであったり、フランスの実情を取り入れていたりと、王道なサクセスストーリーにも新しさがありました。
今の時代に見るからこそ、受け入れやすい作品でした。

【ネタバレあり・レビュー】クリスタル殺人事件 | 安楽椅子探偵を映画化する面白さ!

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ストーリー

1953年イングランド
片田舎のセント・メアリ・ミードにハリウッドからの映画隊が訪れていた。
それを率いる監督のジェイソン・ラッドと、その妻であり女優のマリーナ・クレッグはそこでパーティーを開く。
近隣に住んでいた女性ミス・マープルもまたそのパーティーに参加をしていた。
しかし、彼女はパーティー中、足を痛めて帰宅することに。
同じ頃、邸宅では一人の女性がお酒を口にして死亡する事件が起きていた。

感想

ミス・マープルといえばアガサ・クリスティの小説の登場人物であり、安楽椅子探偵……すなわち現場にいかず伝聞により事件の真相に近づいていく探偵というイメージが強いです。
本作もその例に漏れず、マープルはほとんどを自宅で過ごし、伝聞で事件を解決するというのが見所となっていました。

こうなると問題となるのが映画としての見栄えです。
個人的にですが、安楽椅子探偵モノは面白いものの映画向きではないと思います。基本、動きませんからね。
では本作はその問題をどのように解決していたかといえば映像の美しさで乗り越えていました。
ジェイソンとマリーナが暮らしている邸宅の内装であったり、彼らが撮影現場として使う映画のセットであったりは、1950年代という時代も見えることから視覚的に楽しめるんですね。

ただ、それだけだと「テレビでもいいのでは?」という疑問が生まれてきます。
実際、このミス・マープルのシリーズはドラマ化されており、シーズン6まで制作されている人気シリーズですからね。
では本作を映画化したことの利点がどこにあったかというと、壮大さにあったと思います。
本作、冒頭のパーティーシーン~殺害シーン、マリーナの映画撮影現場など、なにかとエキストラが多いです。
そこから見えてくるのは、撮影規模の大きさ……だけでなく犯人の大胆不敵さ。
人が多い中でも、犯行へと踏み切る犯人の行動力は、ドラマの枠では収まりきらない恐ろしさを感じさせています。
さらに、容疑者も絞りきれないという状況。まさに、映画スケールの展開であったと言えるでしょう。

さて、そんな本作が取り扱う事件がパーティー中に起きた毒殺事件。
基本的にマープルは家におり、聞き込みなどは彼女の甥ダーモット(ロンドン警視庁の警部)がやってくれます。
このダーモットがまたなかなかのキレ者かつユーモラスな性格をしているんですね。
そのため、聞き込みシーンであっても効率よく情報収集しますし、マープルとの何気ない会話でもちょっとした楽しさがあったりと小気味良いテンポで話を進めめくれます。
そんなダーモットの聞き込み結果を得てマープルが推理をするわけですが、これまた驚きの連続。
犯人こそ予測はつきましたがその動機がまさか序盤から明らかになっていたとは思いもしませんでした。
この動機が明かされる回想シーンも映像があるからこそ呑み込めるものとなっていたのが良かったですね。
で、さらに衝撃がラストシーン。
犯人が自殺するという展開は珍しくはありませんが、あそこまで美しい幕引きというのはなかなか見れません。
予測はできても驚きのある内容は見ごたえのあるものでした。


ミス・マープル作品の中でも屈指の名作と言われている本作。
マープルを演じたアンジェラ・ランズベリーのハマり役っぷりや映画だからこそ楽しめる要素はその名作をより面白くしていたと思います。
ミステリー小説を映画化するお手本のような作品でした。

【ネタバレあり・レビュー】フィールド・オブ・ドリームス

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ストーリー

アリゾナの片田舎でレイ・キンセラは妻子と暮らし、農場を営んでいた。
ある日、彼はどこからともなく聞こえてきた声から「畑を潰して野球場を作る」という使命に突き動かされる。
「夢を諦めた父親と違う生き方をしたい」という説得により、妻からも了承を得たレイは野球場を作り上げた。
やがてそこに死んだハズの野球選手シューレスジョー・ジャクソンが現れる。

感想

これほどジャンルを形容するのに困る作品はありません。
スポーツ?ヒューマンドラマ?ファンタジー
なんにしても言えるのはひとつ。素晴らしい作品でした。
その「素晴らしい作品」という結論に至ったのには理由が2つあります。

まず1つ目が、本作が野球への愛に満ちていた事です。
そもそもこの作品、野球をしているシーンはほとんどありません。
上映時間107分中、正味10分もないのではないかと思います。
しかし、プレーをするだけが野球ではないのです。
本作では、過去の野球選手の経歴や思い出を通して野球の在り方を説いていました。
その中心人物となるのが、実在した野球選手シューレスジョー・ジャクソンでした。
作中でも語られますが、彼は1919年に起きた「ブラックソックス事件」により野球界を追放された悲しき過去を持つ選手です。
そんな彼の逸話を作品では盛り込みつつ、純粋に野球好きである様子を描いていました。
そうしたシーンは本当に何気ないのですが、野球界を追放されたという彼の経歴を知るとかなり心に来るものがあります。
仲間を連れてきて野球に没頭する姿は、それだけでも感動モノでした。

本作においてもう一人、印象的な野球選手がムーンライト・グラハムです。
彼も実在していた野球選手であり、メジャーリーグでの出場1試合、打席なしという経歴も現実に沿っています。
そんな彼に1打席の機会を与えるのがまた素敵な話。
晩年期のグラハムを演じるのはバート・ランカスター。この人がまた味のある演技を見せており、シューレス・ジョーに「いいプレーだったぞルーキー」と言われるシーンはなんともグッとくるものがありました。(バート・ランカスターは本作が劇場公開作で出演するのは最後となりました。ちなみにテレビ映画には後3作ほど出演したようです)
ムーンライト・グラハムという選手の存在は、それまでコアなファン(あるいは原作『シューレス・ジョー』の読者)しか知らない選手でしたが、本作を通して一躍有名な人物になりました。
シューレス・ジョー、ムーンライト・グラハム、二人の実在した野球選手に対するリスペクトは、多くの人の記憶に残ったと言えるのでしょう。


素晴らしい作品であった2つ目の理由が、ノスタルジーでした。
本作はアイオワ州の田舎町が舞台となっているのですが、その畑が広がるだだっ広い景色だけでもなんだか懐かしさがこみ上げてきます。
さらに、夕暮れから夜にかけての美しい風景、少年のように野球を楽しむ選手たち、それを眺めるレイやその家族たち。
そうした光景は、自分の記憶にない事であるにも関わらず、なぜか懐かしさを感じさせるんですね。
そして、ラストには親子でキャッチボール。自然と涙が出そうになる光景でした。
それもそのハズで、このキャッチボールに至るまでにレイは長い旅路を歩んでいました。
その出会いや出来事は、彼が抱いてきた父親との確執、それを解消できなかった後悔を思い出すことにつながっています。
レイのキャラクターを通して感情移入してた私としては、ラストのキャッチボールはとても懐かしく、とても感動的でした。
おそらく本作で感じられるノスタルジーはレイが感じている懐かしさそのままなのでしょう。


野球に対する愛とノスタルジーに満ちていた本作。
あらすじだけ聞くと「天からの声を聞いて野球場を作ったら幽霊たちがやってきた」というなんとも馬鹿げたものに思えますが、実際に見てみるとスポーツ(野球)映画の中でも屈指の名作でした。
それは、映像や音楽の美しさ、キャラクターの魅力、それを演じる俳優など、様々な要素が合わさることで、そのトンデモ設定がとても神秘的で尊いもののように感じられたからなのでしょう。
いつかアイオワのトウモロコシ畑を訪れて「ここは天国かい?」と言ってみたいものです。

【ネタバレあり・レビュー】ダブルボーダー | 譲らない、譲れない、男たちの闘い!

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ストーリー

メキシコの近くテキサス州の町ウバルデ。
そこでレンジャーとして町を守るジャックは、メキシコから輸入されてくる麻薬を追っていた。
その麻薬ビジネスを牛耳っているのはジャックの過去の友人ベイリーであった。
その頃、町には元軍人たちが貸金庫に眠るある物を狙い暗躍していた。

感想

一人のテキサス・レンジャーと六人の元軍人、一人の悪漢の計九人の男たちが集まったなんともむさ苦しいヴィジュアルが印象的であったこの作品。
それはなにも男たちが集まっているからというだけでなく、彼らが常に汗だくであったからでした。
それもそのハズ、本作の舞台となるのはテキサス州とメキシコという、温暖な地域。
そこを走り回ったり、銃撃戦を展開したりすれば当然汗だくになってしまいます。
また、常に命のやり取りが付きまとっているため、皆の間に緊張感が漂っているのも汗だくであった一因なのかもしれません。

そんな本作、冒頭は元軍人たちの紹介から始まります。
正直、ここでは彼らが書類上は死んでいるという情報しか入ってこず「一体、何が始まろうとしてるんだ?」という状態でした。
この後、急にテキサス・レンジャーのジャックの視点に切り替わり、ベイリー追跡の話に変わったりして疑問の多い序盤だった印象です。

面白くなってくるのは中盤から。
ハケット少佐率いる元軍人たちが銀行強盗のための下準備を始め、ジャックはベイリーを追う内に相棒を亡くすなど、だんだんと物語が加速していきます。
そして元軍人たちによる銀行強盗シーンは臨場感抜群。一筋縄には行かない展開含め、ハラハラドキドキとさせられる展開の連続に惹きこまれました。
この銀行強盗シーンでレンジャーたちを陽動させるため倉庫を爆破させるシーンがあるのですが、そのシーンの迫力が凄い!
80年代の映画でいったいどうやってあそこまでの爆発を出せたのか……
あのシーンを見るだけでも本作への力の入れようが窺えました。

そんな心をがっちり掴むのがウォルター・ヒル監督の手腕であったと思います。
無関係であったハズのレンジャーと元軍人たちが手を組むという熱い展開。
まるで西部劇のようなジャックとベイリーとの決闘。
銃撃戦に次ぐ銃撃戦のロマン。
気づけば手に汗握り、食い入るように画面を見ている自分がいました。
最高のロマンと迫力、男臭さを詰め込んでいたと思います。

個人的にヒットしたのがここで挙げた西部劇のような展開でした。
舞台がテキサス州であることもあり、常に西部劇風味ではあるのですが、ジャックらの生き様もそうなんですよね。
ジャックは町を守るために、ベイリーは己の私欲を満たすために、元軍人たちは任務のために行動をしていました。
善悪問わず、それぞれが抱いた信念を貫く。
それは西部劇でよく見る光景だと思います。

そうした中でも、主人公であるジャックが正義の位置にいるのがポイントでした。
ベイリーを今なお友人と信じ救おうとし、得体の知れない元軍人を信用して共に行動する、それはひとえに町を守るという正義を果たすためです。
そのために命を賭けた戦いへと踏み入れていく姿は、まさに漢。
西武時代を生きた誇り高きガンマンのようなカッコよさを持っていたと思います。
とはいえ、それでも悪が完全に根絶やしにされることがないラストシーンは、どこか皮肉めいたものを感じました。


テキサス州を舞台に、レンジャーの誇り高き戦いを描いていた本作。
その内容は、公開当時1987年の時代を感じさせるものであったと思います。(1982年のレーガン大統領による麻薬掃討作戦が成功し、別ルートであるメキシコからの輸入が横行し始めたのだとか)
そんなアメリカの歴史を感じさせる作品でもありました。

【ネタバレあり・レビュー】マネートレイン

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ストーリー

鉄道保安官であり、義兄弟であるジョンとチャーリーは、おとり捜査により窃盗犯を捕まえる日々を送っていた。
ある日、逃走した窃盗犯が、上司のパターソンの管理するマネートレインの警備により射殺されてしまう。
あまりの傍若無人さに憤りを感じる二人であったが、パターソンはそれを一蹴した。
納得のいかない二人であったが、鉄道局員に火を点けようとした異常者が現れたことから、二人はその犯人を追うことになる。

感想

ウェズリー・スナイプスウディ・ハレルソンのW主演。
どちらも映画界の第一線を走る俳優ということもあって、これだけでもワクワクさせられました。
唯一、心配であったのは二人が噛み合うのかどうか。バディムービーでもっとも大切な要素とも言えますね。
で、これが完璧なくらいハマっていました。
本作でウェズリー演じるジョンとウディ演じるチャーリーは、血こそ繋がっていないものの共に育ってきた義兄弟という設定でした。
その義兄弟というのを信じてしまうくらい、時に仲良く、時にケンカする関係を見せていました。
その息のピッタリさは名コンビと呼ぶにふさわしいものであったと思います。
で、調べてみるとこの二人、本作の3年前に制作されたスポーツ映画『ハード・プレイ』でもタッグを組んでいたんですね。(見たことはありません)
こちらの作品にも興味を抱くくらいの名コンビっぷりを本作で見ることが出来ました。

そんな二人が演じるジョンとチャーリーは鉄道保安官の役でした。
地下鉄の駅で囮捜査をして酔っ払いから金品を盗む小悪党を捕まえる地味ーな仕事……かと思いきや、バリバリ派手な展開が多かったです。
小悪党を捕まえようとすれば踏切に降りて全力疾走、マネートレインの警護に着けば大喧嘩、放火魔を追えば電車の行きかう線路をジャンプと、とにかく大暴れ。
ウェズリーとウディを持て余すことのないハラハラドキドキする展開の数々は見応えがありました。

そのハラハラドキドキをさらに煽るのが悪党の多さ。
放火魔、マフィア、二人の上司パターソンと三人もいます。
放火魔は人にガソリンをぶちまけて火を付けたり、人を地下鉄のホームから突き落したりととにかくサイコ。
しかもそれを恨みや利益のためではなく、ただ楽しむためにやっているのですからヤバいヤツです。
マフィアは、チャーリーが彼らに借金をしていた事を考えると、二人を狙うのはそこまでおかしくないことだと思います。
とはいえ、殺しをチラつかせるやり方は極悪非道。ぶち切れたジョンが単身、乗り込んでいきボスまで全員叩きのめすのは爽快な展開でした。(「あんなことして大丈夫なのか?」と思いましたが)
そして、一番の敵となるのが上司のパターソンです。
この人、初登場時から悪役臭が凄かった。
ジョンたちが窃盗犯を追って線路上にいるのを知っていながらも「電車を止めるな」と言ったり、それがきっかけで起きたゴタゴタを二人のせいにしたり、とにかく目の敵にしていました。
彼が大切にしているのが、タイトルにもあるマネートレイン。駅での売上金を運ぶ輸送列車です。
そんな悪役が大切にしているマネートレインがラストを飾る舞台となるのは当然っちゃ当然。しかしまさか最終的に脱線にまで行きつくとは思いませんでした。つくづく、エンタメ性の高い内容です。
とくにパターソンとは肉弾戦になるわけでも、銃撃戦になるわけでもありませんでしたが、きっちりと作品のラストを締めくくる悪党として不足なしだったのは良かったと思います。
ひとえに、嫌味なキャラクターの作りとロバート・ブレイクのハマり役っぷりがあったからこそ成立した悪党だったと言えるでしょう。

その他にも見どころは多く、ジェニファー・ロペス演じる美しい捜査官グレースをジョンとチャーリーが取り合ったり、街の強盗犯に銃を突き付けられた二人が喧嘩を装って危機を脱したりと、103分という本編時間に面白さがしっかりと詰まっていたと思います。


ウェズリー・スナイプスウディ・ハレルソンのコンビが活躍していた本作。
アクションあり、ドラマあり、ロマンスありで、シンプルに楽しめる映画であったと思います。
ぜひともまた二人の共演作を見たいですね。

【ネタバレあり・レビュー】人面魚 THE DEVIL FISH

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ストーリー

ある日、悪霊に取り憑かれた中年男が家族一家を殺害するという事件が起きた。 霊媒師であるリンはその男から悪霊を取り出し、魚へと憑依させる。 しかし、その除霊の様子を見ていたジャハオが好奇心から魚を家へと連れ帰ってしまう。 悪霊は、精神的に不安定なジャハオの母ヤーフェイに取り憑こうと目論む。

感想

タイトルからしシーマン的なやつが出てくるオカルトチックなB級映画を期待していた本作。 蓋を開けてみれば、魚に魔神が取り憑いて人を襲うという予想外なものでした。

まあ台湾の都市伝説をベースに、シリアス&真面目なホラーを展開しているため、駄作というわけではないのですが、色々と物足りなさすぎる…… そもそも物語があまり盛り上がりません。 過去に数々の悪霊を退治してきた虎爺(フーイエ)の力を憑依させられる霊媒師リンが、悪霊の痕跡を地道に追っていたり、悪霊の被害者となるシングルマザーのヤーフェイとその息子ジャハオの関係をじっくりと描いたり…… とにかく地味です。

盛り上がるとすれば後半部からなわけですが、こちらもなかなか独特。 ピアノで呪いを振りまき、人を衰弱させたり、悪霊が乗り移って人間をゾンビ化させたりと、ホラーなのですがファンタジー染みています。 最終的には、虎爺(フーイエ)の力を使ったリンが虎を召喚して魔人を倒してしまいますし「一体なにが起きているんだ……」と、置いきぼりにされた心地でした。 台湾の人ならあるいは納得のいく内容なのかもしれませんね。軽くカルチャーギャップを感じました。

そんな本作ですが、分かりやすかったのは解決方法です。 悪霊に取りつかれたヤーフェイを助けようとするジャハオ、魔神を前に死にかけていたリンを救ったのは、共通して"家族愛"でした。 「愛は〇〇を救う」というフレーズはよく聞きますが、どうやらそれは世界共通なようで、愛によって魔神の目論見は失敗に終わってしまうという展開を見せていたんですね。 個人的にはこうしたこてこてな感動パート嫌いではありません。 父親と離ればなれになったジャハオと、妻を亡くしたリンがそれぞれ"家族愛"を取り戻すというテーマに共通点も見られましたしね。

盛り上がるシーンがファンタジックであったり、ハートフルであったりしますが、この作品はあくまでホラーです。 そのため、ホラー要素にも少し触れておきますが、これは正直イマイチでした。 基本的にビックリ系で驚かそうとしてくるのは、お約束でもあるため目をつぶるとして、怖いキャラがいなかったというのが致命的です。 一応、本作では魔神とそれに利用されて悪霊にされた少年(体が魚のように鱗に覆われる病気であった)の2人がいるのですが、どちらも脅威も怖さも特にありませんでした。 その理由としては、先にも挙げたビックリ系の脅かし方しか出来ないのと、あまり登場する機会がないから。 このせいでホラーなのかファンタジーなのかよく分からないジャンルと化していたのは損している感じがしましたね。


台湾の伝説をテーマに、作られていた本作。 台湾の伝承を下敷きにしていることもあり、独特な雰囲気がそのまま作風に表れていたように思えました。 面白さはそこそこですが、雰囲気は新鮮で目を惹く作品でした。