スキマ時間 DE 映画レビュー

【レビュー】ドクター・スリープ

前作『シャイニング』から40年。おそらく監督スタンリー・キューブリックも予想していなかったであろう続編が公開された。
それもスピンオフや設定だけ引き継いだわけではなく、正当な続編である。
そんな期待と不安が入り混じる作品が、今回レビューする『ドクター・スリープ』だ。
原作はもちろんホラー小説の巨匠スティーヴン・キング

 

大まかなあらすじは、"オーバールックホテル"で九死に一生 を経たダン(ダニー)が、自分と同じ特別な力"シャイニング"(かがやき)を持つ少女アブラを殺人鬼集団<真結族>(トゥルー・ノット)から守る、というものだ。
これだけ聞くと、普通の追いつ追われつのホラーのように思えるが、キング原作ということもあってか話はかなりしっかりとしていた。
ダン、アブラ、トゥルーノット、それぞれの視点から数年に渡って展開されるストーリーは見ごたえ十分。本編時間が152分とかなり長いにも関わらず、駆け足気味に感じるくらい内容が濃い。
中でも目を惹いたのがトゥルーノットの視点だ。
ホラー映画でありながらも恐怖の対象を視点としているというのは斬新。さらに、最初こそ得体の知れない恐怖があったのに、だんだんと人間味が露わになるのだから面白い。
純粋に仲間の死を嘆き、自らの死に恐怖を感じる様は、彼らもまた人間であることを感じさせた。こういう所がスティーヴン・キング原作らしさなのだろう。

 

とはいえ、今作は原作とはかなり違う結末となっている。
中盤、ダンがスネークバイト・アンディらを罠にかけ、クロウを殺害するまでの流れはほぼ原作通りなのだが、そこからは分岐しているのだ。
そうした分岐が生まれたのは『シャイニング』の結末が影響していた。
有名な話であるが『シャイニング』の結末は映画と原作で大きく異なる。

 

映画:ダンの父ジャックが暴走の末、凍死。
原作:ダンの父ジャックが、ホテルの幽霊を道連れに爆死。

 

そのため『ドクター・スリープ』でも―――

 

映画:ホテルが現存。
原作:ホテルの代わりに展望台が設立。

 

このような状況になっている。
つまり、原作ではオーバールックホテル(実物)は登場しないのだ。

 

ただ、この変更が悪かったかというと一概にそうとも言えない。
ダンがホテル内を歩く様子を映した一連のシーケンスは『シャイニング』ファンには堪らない演出。映画という視覚的に楽しむ媒体を最大限生かしていたと言える。
また、原作『シャイニング』の意図を汲み取っているのも驚きだ。
ダンの最期をジャックと重ね合わせることで、40年越しのキングの無念を晴らした。これだけでも拍手を送りたくなるものである。
全体的には原作を、視覚や聴覚情報は映画をリスペクトした作りには感服せざるを得なかった。