【レビュー】栄光のマイヨジョーヌ
感想
勝手にドラマ形式のスポーツ(サイクリング)映画だと思っていたらドキュメンタリーで面食らいました。
とはいえ、見てみるととても楽しい作品でした。
サイクリングにおけるチームの重要性、個人の調子の良し悪しにおける苦しみ、競技の危険性など、これまで知らなかった世界が描かれていました。
特に過酷さについては他のスポーツよりずっと危険だということを痛感させられました。
さらに面白いのが本作で密着しているオーストラリア発のサイクリングチーム「グリーンエッジ(現ミッチェルトン・スコット)」が魅力的だったことです。
このチーム、普通にレースに参加するだけではなく、ファンとのつながりを持つようにしていました。
選手のプライベートを動画で配信していたり、交流イベントを行ったり、グッズを無料で配布したりと、本作で取り上げられている活動を見るだけでも好感度が上がるようでした。
動画内で見られるチームの絆の強さが競技においても生かされているのも感慨深かったです。
特に印象的であったのが、本作のタイトルにもなっている「マイヨジョーヌ」(ツール・ド・フランスでの優勝者に送られる黄色いジャージ)をゲランスがチームメイトに譲る話でした。
口だけで「チームの助けがあったから優勝できた」と言うのは簡単ですが、自身の得たマイヨジョーヌをチームメイトに譲るというのは本当に感謝が無くてはできないことです。本当の意味での絆を感じる話でした。
これは何もゲオマンだけに限った話ではありません。
終盤でのパリ~ルーべの大会。ここでもチームのつながりの深さを感じさせるシーンがありました。
この大会において、チームの一人、ヘイマンが長年の悲願でもあった優勝を成し遂げます。
それを耳にした瞬間、チームの皆が自分のことのように狂喜乱舞して喜んでいるんですね。ケガをした選手までも自分のことより優勝したヘイマンを祝福していました。
チームメイトの優勝を自分たちの喜びとして祝福できるのは羨ましい限りでした。
そして、本作で一番盛り上がったのが今挙げたパリ~ルーべの大会での熱いレースシーンです。
別に迫力が出るように再現シーンが追加されていたわけでもないのですが、劇的で盛り上がりました。
おそらく実際のレースシーンの映像と実況を用いることで、その場で見ていた人の興奮を味わうことができたからなのだと思います。
ドキュメンタリーゆえに、作られていないリアルな映像やリアクションは、そのまま見ている自分たちにも興奮を与えてくれました。
実話を基にした作品で熱い展開というのはよくありますが、ドキュメンタリーでここまで熱い展開を見れるというのは珍しいです。
それは本当の人間たちが本気で挑んでいるのをリアルに感じ取れるからなのかもしれませんね。
豆知識
本作で監督、脚本を務めたマーカス・コブレディック(ダン・ジョーンズと共同)は、2015年に『Fairless』という44分の短編ドキュメンタリーを監督しています。(こちらは単独)
内容は、1988年のソウルオリンピックに出場したオーストラリアの元サイクリストであるスティーブン・フェアレス(Stephen Fairless)が再びサイクリストとして復活を遂げるまでを辿ったドキュメンタリーとなっています。
(ちなみに『栄光のマイヨジョーヌ』の次に手がけた監督作品はフットボールチームの短編ドキュメンタリー『Collingwood: From the Inside Out』(2019))