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【レビュー】ザ・ピーナッツバター・ファルコン(ネタバレあり)

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アメリカといったらピーナッツバターです。
良質のたんぱく源ともなるそれは、映画の食事シーンでも時々見かけます。
これまで私の中でのベストピーナッツバタームービーは、トム・クルーズ主演作『宇宙戦争』(2005)か『セルフレス/覚醒した記憶』(2015)のいずれかでした。(『宇宙戦争』では、主人公レイがたっぷりとピーナッツバターを塗った食パンを窓に叩きつけるシーン。『セルフレス/覚醒した記憶』では、新しい身体を手に入れたダミアンが、アレルギーでそれまで食べれなかったピーナッツバターを味わうシーン)
そんなベストピーナッツバタームービーに待ったをかけたのが本作『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』です。


なんとタイトルに「ピーナッツバター」。これだけでもなかなかのインパクトでした。

内容としては、兄を亡くし仕事を追われた人生の負け組タイラーが、プロレスラーに憧れるダウン症の少年ザックとアメリカを旅をするというもの。
劇的感動ドラマ!ということはありませんが、破天荒な性格のタイラーがザックに影響を与え、強さや自由を教えていく様子は心温まる光景でした。

もちろん一方通行な関係ではなく、ザックの優しさがタイラーのささくれ立っていた心を癒すのも微笑ましいです。
どちらかが優れているわけでなく、互いが互いを必要としている対等な関係、という所が個人的にグッときました。

 

そんな二人の大冒険が本作の見所です。
通信機器も交通網も発達しているこのご時世、ヒッチハイクや歩きのみで目的地に向かうというのは逆に新鮮。
泳いだり、船を作ったり、魚を素手で取ったり、ショオトガンをぶっ放したり、野生児顔負けの経験を積んでいく二人の姿は笑えました。
旅の途中で現地の人間と出会うのも旅の醍醐味です。
タイラーとザックがフランクに接するからか、お酒をくれたり、いかだを作る材料を提供してくれたりと、コミュニケーションの大切さを思い知らされます。


こうした、学ぶ要素はタイラーの因縁にもありました。
彼は、自身の行いが原因で、追われる身となっていました。
そこには理不尽さはなく、まさに払うべき代償を払わされる因果応報の図でした。
けれど、その逃走がザックやエレノアとの出会いを作り出し、自らの人生を悔い改める機会を得られたのですから素晴らしい事だと思います。
一期一会の出会い、偶然の出会いが生み出す奇跡、そうした人とのつながりの大切さが感じられるのが良かったですね。

 

本作を語るうえで欠かせないのはキャスティングの絶妙さです。
荒くれ者でタイラー役には、荒くれ者で痛みを抱えているタイラー役には、シャイア・ラブーフが起用。彼のこれまでの奇行と、近年それを反省する姿は、タイラーと重なる部分が多いと思います。
ザック役には、本当にダウン症であるザック・が起用。
本当にダウン症であるが故に、困難に立ち向かう姿、自由を勝ち取ろうとする姿にはエネルギッシュさを感じられ力を貰えます。
そのコンビの素晴らしさは冒頭にも書いた通り。相棒と呼ぶにふさわしい関係性は、キャラクターと演者のマッチがあってこそだと思います。

 

そして肝心の「ピーナッツバター」要素。
これは、ザックがプロレスラーとして名乗る二つ目の名前として使われていました。
命名由来は、たまたまピーナッツバターを買っていたからでした。(衣装に塗りたくったりしていましたが)
ただ、タイトルに採用されているだけあってこの名前は重要。ザックがそれまでエレノア初め、施設の人々に言いなりであった人生から脱却するための、もう一人の強い自分を認識させていました。
要は、強そうな名前であればなんでもいいわけなのですが、そこでただの「ザ・ファルコン」とかにならず「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」となる所が良かったです。
本作のハチャメチャさと温かさを兼ね備えたセンスある命名でした。

 

本作のタイトルに「ピーナッツバター」が入っていることに私は衝撃を受けました。
けれど、調べてみると他にも「ピーナッツバター」がタイトルに含まれている映画は幾つかある事が分かりました。(例えば『ザ・ピーナッツ・バター・ソリューション』(1985))
過去、現在、そして未来。愛されてきて、愛され続ける「ピーナッツバター」。
まだまだベストピーナッツバタームービーを決めるには時間が掛かりそうです。