【レビュー】テンタクルズ(ネタバレあり)
近年、溢れかえっている海洋生物が暴れまくるパニックホラー。
今でこそ、CGによってその場に怪物がいなくても成り立ちますが、それが出来ない時代もありました。
今回レビューする『テンタクルズ』は、そんな時代に苦心するスタッフの努力が見えるパニックホラーです。
と、耳障りのいいことを書きましたが、ぶっちゃけつまらないです。
そもそも話の核である巨大なタコがほとんど登場しないのですからそりゃ面白くもなりません。
CGが使えないという事は、すなわち怪物をハリボテのようなものでも作る必要があるわけですから当然といえば当然なのでしょう。
そんなスタッフが生み出した苦肉の策が「いないけどいるように見せる」手法でした。
例えば、被害者を映して不穏なBGMをつけ足したり、「何か」が被害者を海中から見ているアングルが取り入れられたりといった感じです。
「今から襲われるぞ。逃げろ逃げろ!」と煽ることでパニックホラーを成り立たせていました。
音楽がまたいい感じなホラーテイストで、海上と海中とで使い分けているのが面白かったです。
こうした演出は、素直にいいものであったと思います。
で、こうした手法はかの有名なサメ映画『ジョーズ』でも結構見られます。
そもそも『テンタクルズ』は『ジョーズ』に影響を受けた感がバリバリなんですよね。
手法にしてもそうですし、公開時期なんかも『ジョーズ』が1975年で『テンタクルズ』が1977年と、完全にヒットに乗っかろうとした感じがあります。
しかし、内容は天地ほども差がある結果に。
ただ、これは予算を見ると当然の結果でもあります。
『ジョーズ』が700万ドルで制作されたのに対して、『テンタクルズ』は75万ドルで制作されているんですね。
『ジョーズ』を見ている人は分かるかと思いますが、あちらもサメが登場するのは限られたシーンのみ、その造形はしっかりとしているものの、やはり低予算感はぬぐえません。
それのおよそ10分の1の予算なのですから、小規模な表現になってしまうのも致し方ないのでしょう。
とはいえ、パニックホラーを見たい現代の人間からすれば物足りなさはやはりあります。
特に中盤すぎたヨットレース辺りからの引き延ばしにしか思えないシーンは、まともに見ようと思うと苦痛すら感じられました。
そうなんです。本作はシリアスな雰囲気に流されて真面目に見てしまいそうになりますが、ツッコミを入れつつ見るとネタ映画素晴らしい出来なんですね。
海底につき刺さるマグロの大群、スケキヨ状態(海中逆立ち)で移動する死体、アホみたいに長いカット、特に活躍しない記者……
全てが愛おしく思えてきます。
そんな本作の結末は、巨大タコvsシャチ2頭という人間そっちのけの展開。(一応、人間管理下のシャチでしたが)
結果は、シャチ2頭がリンチ状態で巨大タコを食い殺してしまいました。
あんな負け方するようじゃ、いずれか自然淘汰されていたでしょうね。
とはいえ、『ジョーズ』にならって爆破ENDとならなかったのはオリジナリティがあってよかったと思います。
シャチが戦って終わるパニックホラーなんてなかなかありませんからね。
いろいろと思う所のあるパニックホラーであった本作。
しかし、ネタ映画としては記憶に残るシーンが多いのも事実。カルト的な人気があるというのも少し納得でした。
本作の監督オリヴァー・ヘルマンはこうしたキワモノ映画でメガホンを取っていることが多いようですし、他の作品も見てみたくなりました。