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【レビュー】冬時間のパリ(ネタバレあり)

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「日本には四季がある」
こんなフレーズをよく耳にしますが、当然のことながら外国にも四季はあります。
ただし、日本は四季による天候がハッキリと分かれているんですね。そうした意味合いから四季があるというフレーズなんだとか。
そんなうんちくはさておき、今回レビューするのが『冬時間のパリ』です。

 

聞いての通り、舞台は冬のパリ。雪が降ったりしているわけではありませんが、服装は冬仕様。セーターなどの厚着が印象的でした。そんな冬のパリで巻き起こるのは、編集者アランとその妻セレナ、作家レオナールとその妻ヴァレリー、二組の夫婦をめぐる不倫物語です。
男女の関係が交差する展開は、実にフランスの恋愛映画らしいと思います。
レオナールが仕事仲間(アラン)の妻(セレナ)と浮気してるなんて、日本じゃまず考えられませんからね。しかも長年関係を続けてきたというから驚きです。
さらにレオナールの書く小説は、そうした実話をベースにした作品だというのですからひどい話。さすがはフランス人的感性……というよりも、単にレオナールがそういう性格なだけだったように思えました。

 

こうした男女のいざこざはフランスのラブロマンス映画ではお馴染みです。
では、本作の特徴はどこにあったかというと、アラン(編集者)とレオナール(作家)の職業にありました。
彼らは職業柄、ある問題に悩まされていました。それは「本は紙であるべきかデジタル化するべきか」という問題です。
近年、散々議論されている話題ですが、それをテーマに全編に渡って論争がなされているというのは新鮮でした。(すごい早口+情報量で畳みかけてきて疲れますが……)
編集者であるアランは当然、紙媒体が残ることを推進しているのですが、落ち目であったレオナールが電子書籍で成功したことなど、時代の流れを汲み取り、最終的には電子書籍の世界に踏み出すことを決意していました。
その決意に至る過程で、アランがルキノ・ヴィスコンティ監督作『山猫』から「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」という言葉を引用したシーンは印象的でした。
このセリフ、彼らの浮気関係にも当てはまっていて、本作を象徴しているとも言えるでしょう。

 

二組の夫婦のラブロマンスと、現代の書籍が抱えている課題点の両方を並行して描いていた本作。
持論を展開する会話の押収には、人間の面倒くささを感じさせる一方で、変化を受け入れるには言葉を交わすことが一番であることも感じさせました。
面倒くさくて愛おしい、そんな人間たちをフランス流に描いた作品でした。