【レビュー】ペイン・アンド・グローリー(ネタバレあり)
人間誰しも年を重ねるごとに人生経験を積んでいくものです。
それと同時に、体にガタが来るようにもなります。
そんな体の痛みを抱える主人公をスペインの名優アントニオ・バンデラスが演じたのが、今回レビューする『ペイン・アンド・グローリー』です。
<h3>【感想】過去と向き合い、痛みと向き合う</h3>
本作は、30年前に『風味』という映画でヒットを収めた映画監督サルバドール・マヨの姿を追った作品です。(グローリー=gloria=栄光)
しかし、彼の体には様々な問題がありました。
肉体的痛みから神経痛、精神的ダメージまで、ありとあらゆる痛みを伴う病を患っていました。(ペイン=Dolor=悲しみを伴う痛み)
この、2つを合わせて『ペイン・アンド・グローリー』(原題:Dolor y gloria)となっています。
そんなわけで、本編開始時からサルバドールの体はボロボロ。その痛々しい姿は見ているだけでも不安を煽りました。
そんなサルバドールを演じたのはアントニオ・バンデラス。彼はかなり味のある演技をしていました。
どこか物憂げで、苦しみを噛み締めているかのような渋い顔はそれだけでも彼の痛みが伝わってくるかのようでした。
作中でサルバドールが「本当のいい役者は涙を見せるような派手な演技はしない」というようなセリフがありましたが、まさにそれを体現しているかのような素晴らしい演技だったと思います。
衣装のマッチがまた絶妙で、普通なら奇抜なハズのファッションでも着こなせるのは彼の魅力があればこそだと思います。
あれほどまでに緑のジャケットを着こなせる俳優もなかなかいないでしょう。
そんな俳優としての魅力が大きいですが、作中のサルバドール自身もなかなか個性的でした。
映画監督として妥協することを許さないために俳優のアルベルトと30年来仲違いをしていたり、あらゆる約束を取り付けてはドタキャンしたり、母親と少なからず確執を持っていたりと、一筋縄では行かない性格をしていました。
そうした謎多きサルバドールの痛みは過去の思い出からきているものでした。
中でも体を支える脊椎が一番の痛む箇所とし、彼を支える軸の危うさを表していたのは面白い表現だったと思います。
そんな痛みを癒す方法は過去と向き合い、清算すべき過去を振り払うことでした。
現代パートと回想パートとを繰り返すことで、彼が心の痛みをひとつずつ取り除いていくのはもどかしいです。
しかし、母親とのすれ違い、アルベルトとの不和、同姓の恋人との若気の至り、同性愛に目覚めたきっかけなど、刺激的なエピソードの数々はサルバドールという男への吸引材ともなりました。
まるで、パズルのピースを埋めていくような感覚は見応えがありです。
そのピースがすべて埋まった時、サルバドールは心の痛み、体の痛み両方に向き合うラストへ向かっていく展開含めて楽しめました。
そんな痛みを和らげたサルバドールは、自身の体験を組み込んだ新作を監督します。
回想シーンが実はサルバドールの新作へのインスピレーションとなっていたことがまた巧妙なサプライズでした。
なぜだか、見終わった後に達成感に満たされる、そんなラストでした。
誰しも心の痛み、肉体的な痛みは抱えているものです。
しかし痛みとは本来、限界を迎えた時に鳴るアラートのようなものです。
本作は、そんな限界を迎えた自身と向き合うことを教えてくれる作品でした。