【レビュー】ハリエット(ネタバレあり)
今でこそ1862年9月まで耐えれば、リンカーンによる奴隷解放宣言が発令されることが分かっているため希望が持てますが、当時の人たちにとっては奴隷制は先行きの見えない絶望でした。
そのため、奴隷制から逃げ出すために行動を起こす人も少なくなかったでしょう。
今回レビューする『ハリエット』は、自らが奴隷でありながらも奴隷解放のために奔走した一人の女性の物語です。
<h3>【感想】奴隷解放を率いた完璧な黒人女性主人公</h3>
舞台は1849年。
奴隷制度に契約期限があることを知ったハリエットは、奴隷主に直談判します。
しかしさすがは奴隷主「お前は一生俺たちのものだ!」と、契約書をビリビリに破いてしまいます。
そんなことをされたハリエットは、逃亡を決意。たった一人での無謀な旅に出ます。
面白いのはここからで、彼女は神との対話なる未来予知のような力で、追跡をかわしていくんですね。
しかし、奴隷主たちも容赦がありません。
馬+数に追い込まれていく追跡劇は、捕まれば容赦ない仕打ちが待っていることが分かっているだけに緊迫感バリバリでした。
これが話の本筋かと思いきや、これでまだまだ始まったばかりなのですから驚きです。
なんと、窮地を脱したハリエットは自由人として生きられるにも関わらず、家族や奴隷仲間たちを助けるために再び奴隷農場に戻ると言うのです。
そこからは、怒濤の展開でハリエットが自身の能力(?)を駆使して次から次へと奴隷を解放していきます。
初めは傲慢な態度を取っていた奴隷主たちも、だんだんと余裕がなくなりイラついていく流れは痛快でした。
結局、最後までハリエットがミスも犯さず数多くの奴隷を解放していくのは、ヒーローらしさすら感じられましたね。
そんな、ハリエット役を演じたのがシンシア・エリヴォでした。
彼女は現役歌手でありながら、本作で映画初主演を果たしています。
しかし、初主演とは思えぬその力強い演技には圧倒されました。
命がけで奴隷解放に挑むハリエットの気迫がそのまま伝わってくるかのようです。
おまけに、本作の主題歌である「スタンドアップ」も歌っており、本作の面白さを2倍にも3倍にも高めてくれていました。
黒人で女性という、ジェンダーも人種も超越したヒーローというのは、さまざまな差別問題が課題となる今の時代にはピッタリな主人公であったと思います。
それでいて奴隷解放活動としても人間性としてもパーフェクトなのですからカッコいいです。
また、本作で彼女は奴隷主であっても誰一人殺していないのですから100%ヒーローに仕立てていたと言えるでしょう。
それだけに、アカデミー賞などの賞レースで高く評価されていたのも納得でした。
奴隷解放運動の話となると、リンカーンがいるためか自然と男性の活躍が思い浮かぶもの。
そんなイメージがあるだけに、ハリエットの活躍は新鮮な思いで見ることができました。