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【レビュー】ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男(ネタバレあり)

テニスは野球やサッカーと異なり紳士のスポーツというイメージがあります。
しかし、スポーツであるからには負ければ悔しいのは当たり前のこと。誰しもが負けたくないでしょう。
そんな負けず嫌いの二人が、歴史に残る試合を繰り広げた実話を元にした作品が、今回レビューする『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』です。

 


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ウィンブルドン5連覇の偉業達成を目指すビヨン・ボルグと、悪童と呼ばれるほど試合態度の悪いジョン・マッケンローによるウィンドブルドン決勝戦の模様を描いた作品となっています。
もちろん、ウィンドブルドン決勝戦だけで2時間近くも持つはずがありません。
そんなわけで、本作は大きく分けると「1980年のウィンドブルドン1回戦から決勝まで」、「ボルグの過去から現在」、「マッケンローの過去から現在」を描いています。

で、注目なのが二人の関係です。
この二人、ボルグは冷静、マッケンローは激情という正反対の性格をしています。
しかし、勝ちに貪欲であるという点においては似通ったところがあるんですね。
では、なぜ真逆の性格になったかというと、支えとなる人に出会ったか否かの差があったからです。
特に、ボルグはレナートと出会ったことで、怒りを試合にぶつける事や、1ポイントの重みを学んでいました。
それが、決勝戦での試合を左右することになるのですから、影響があったと言うしかありません。
また、婚約者であるマリアナと話し、思いを吐き出すことで自身を安定させていた感じもありました。
一見、衝突してばかりで悪いように思えますが、彼らがいたことによってボルグは自身を振り返り、怒りを発散出来ているようにも感じられました。
一方、マッケンローは父親が試合を見に来たり、友人がいたりするものの、どこか一歩距離をおいている感じがしました。
そのためか、審判や観客に当たり散らし、嫌われ者の役割でもそれを貫き通す頑固さを見せていました。
要は彼らの違いは、止めるブレーキがあったかなかったかの違いなわけですね。

ただ、皮肉なのが互いが互いを羨ましく思っていたことでしょう。
ボルグはマッケンローの怒りを溜め込まず、自分のプレーを出来ていることを。
マッケンローはボルグの冷静で人気者であることを羨ましく思っていることが窺えました。
そうした似た境遇にいながらも、相手の持っている物を羨む思いがあったからこそ、彼らは互いに親近感を抱いていたのかも知れませんね。

こうして彼らの関係を羅列していくと、いかにも2人がやり取りを交わしているように見られます。
しかし、本作において2人が対面するシーンは非常に少なく、会話するシーンに絞れば5分にも満たないのではないかと思うほどやり取りは少ないです。
しかし、彼らの正反対ながらも似通った性格やウィンドブルドン開催直後からお互いをライバル視していたことなどもあってか、そこまで関係が希薄には感じられませんでした。
また、彼らの過去を描く際に、共通点を意識した構成となっていることも彼らの距離を近しいものに感じさせていたのかもしれません。(例えば、ボルグがレナートに支えられる反面、マッケンローは両親との溝が開いてしまうような構成)

なにより2人が距離を縮めていたのがウィンドブルドン決勝の試合でしょう。
彼らが試合を通して互いを認め合っていく様子は、スポ根映画でも見ているかのような熱い展開でした。
それまで自身のプレーに葛藤していたボルグが伸び伸びとプレーが出来ていたり、審判のジャッジに悪態を吐くのが常であったマッケンローがプレーに没頭していたりといった変化が見られるのもまた熱かったです。
彼らの過去をそれまでのストーリーで知っていた分、試合への感情移入もまったく違ってきていたと思います。
実話とは到底思えないような怒涛の点の取り合いは、それだけでも十分に楽しめるという、大きな利点があったのも良かったですね。

 

スポーツ映画としても、伝記映画としても秀逸な作品であった本作。

ボルグとマッケンロー、2人の試合の模様は映像でも残っているらしいです。

本作ではダイジェスト風味であっただけに、フルでの試合も見てみたいものですね。