【レビュー】15年後のラブソング(ネタバレあり)
15年後の自分が何をしているかと考えると途方もなく思えます。
けれど15年前ならどうでしょうか?
「あっという間だった」と思う人も少なくはないはずです。
そんな「失われた15年」を振り返りつつ、現在とこれからについて考えさせる作品が今回レビューする『15年後のラブソング』です。
この作品、私はイーサン・ホークが目当てで見に行きました。
その満足度はと言うと……大満足でした!
まあ、イーサン目当てで見に行っている時点で、扱いが悪いとかでもない限りは肯定しちゃうんですけどね。
本作で彼が演じたのが、数十年前に引退したミュージシャン、タッカー・クロウでした。
イギリスの港町で暮らす主人公アニー(ローズ・バーン)とは、タッカーの行方を追いかける夫ダンカンのファンサイトがきっかけで出会うことになります。
ファンサイトのコメントから始まり、携帯メールでのやり取りを経て対面という流れで距離を縮めてくため、登場は中盤になってからでした。
とはいえ、存在感は十分。
前半は、アニーにアドバイスを送るミステリアスなミュージシャンを、後半からは息子ジャクソンを愛する気さくな父親を見事に演じていました。
過去の浮気性な性格が災いして、腹違いの娘、息子たちからキツく当たられたりと、なかなかの苦労人な姿を見せていたのが印象的でした。
そうした、過去に過ちを犯してきたミュージシャンという立ち位置であっただけに、見た目からもいつものイーサンらしい「スマート、カッコイイ」とはかけ離れたものとなっていました。
無精ひげを生やし、白髪交じったボサボサ髪は、普通のおっさんがやれば浮浪者にしか見えなくなるでしょう。
それをカッコイイと思わせるのですからさすがと言うしかありません。あんなオッサンになれるなら年を取るのも悪くないと思いますね。
そんな渋いイーサンが見られる作品であるだけに、結構な年の差を感じさせるラブロマンスもなかなか楽しめました。
あまり生々しい描写もなく、お互いの悩みを交わしていくうちに距離を縮めていく理解者としての信頼を高めていく流れは個人的にストライクでした。
イーサンの歌唱シーンがあるのもファンには嬉しいです。
また、タッカーに息子がいるというのが、ラブロマンスとしてはなかなか異色だったと思います。
どこへ行くにも息子ジャクソンがついてきているのですが、ストーリーの邪魔にならないのが良かったです。
むしろ、二人の仲を縮めていたり、場の空気を和やかにさせたりと、子供としての役割をうまいこと果たしてくれるかわいらしい存在でいい仕事をしていました。
ある意味でいい仕事をしていたのが、アニーの夫であるダンカンです。
彼は、基本ウザい。
ですが、アニーとタッカーを引合わせ、噛ませ犬として作品を盛り上げる存在としては不可欠でした。
彼がいなければ確実に本作は凡作となってしまっていたでしょう。
ウザい存在ではありましたが、嫌いになれないキャラでした。
無駄にしてしまった15年を振り返り、時には共感し、時にはアドバイスを送り合うことでラブロマンスを成立させていた本作。
見ている自分からしても共感したり、「そういう考え方もあるのか」と学になったりと、楽しめる内容でした。(特に二人の間で交わされる子供との接し方「親業」については、子供を持たないアニーと、腹違いの子供がたくさんいるタッカーの両極端な意見が交わされていて面白かったです)
ラストは二人の将来について考えさせられる幕引きにもなっており、見終わった後にもしっかりと記憶に残るような作品でした。