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【レビュー】チリ33人 希望の軌跡(ネタバレあり)

実話を映画化というのは映画業界では珍しくない風潮ですよね。 普通の暮らしをしていても、何かしら劇的な事件に巻き込まれれば、私のような一般人でも映画の主人公になるかと思うとロマンがあります。 今回レビューする『チリ33人 希望の軌跡』では、2010年に発生した「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にした作品です。

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ストーリー

2010年8月5日。 チリのサンホセ鉱山に派遣された33人の炭鉱作業員たちはその日も作業に取り組んでいた。 安全管理担当のルチョは、山が脆くなっていることから危険を会社に訴えかけるも、それは封殺されてしまう。 やがて、鉱山は崩落を始め33人は避難所に取り残されてしまった。 地下700m、食料は僅かな中、33人は互いに協力し、救助を待つ。

感想

アマゾンプライムにおすすめされて興味を持った作品。 けれど、残酷かなあらすじに「33人の男たちが、69日後に奇跡的に生還した~」と書いてあるではありませんか! 「やってくれたなアマゾンプライム!」と思いつつ、見るのを止めようかとも考えましたが、主演にアントニオ・バンデラスジェームズ・ホーナーの準遺作ということを知り、やっぱり見ることに。(ジェームズ・ホーナーの遺作は『マグニフィセント・セブン』。けれど本作にも追悼文がエンドロールにありました)

で、感想。やはり見て良かった! たしかにあらすじで全員助かることが分かっていましたが、それでもハラハラドキドキできたのですからすごいです。 崩落事故の緊迫感、食料がなくなっていく焦燥感、助けが来る気配のない絶望感…… 33人を演じた俳優たちの生々しい演技と息苦しさが伝わってくるかのような環境によってそれらを感じとることができたんですね。

そんな俳優陣の中でもひときわ輝いていたのが、リーダーシップのあるマリオを演じたアントニオ・バンデラスでした。 みんなからの信頼が厚いがゆえに食料番を任され、自ずとまとめ役までするようになり、精神的に疲弊したメンバーのサポートまでするというなんとも忙しい人物です。 時には地上で勝手に「スーパーマリオ」なんて呼ばれて、それがきっかけで仲間と揉めるなんてシーンもありました。 そんな感情豊かな鉱夫の役は、ザ・渋い男であり、かつ多くの作品に出演してきたバンデラスだからこそできた役柄だと思います。

本作、面白いのが地下の33人の動向だけでなく、救助を目論む地上の人々のごたごたも描いていることです。 キーパーソンとなるのが、鉱山大臣であるロレンス。 彼はチリの首相から「チリ全土が注目してるんだから絶対成功させろ」と言われたり、鉱夫の救助を待つ家族たちから「早く助けろ!」と言われたりと、なかなかの苦労人。 それでも名誉とか関係なく、ただ助けたいという意思のもと行動する彼の姿には好感が持てました。 彼含め、現場にいる人々が、打算的な考えなく動いていたのが純粋に応援したくなる展開につながっていたと思います。

地上の視点でもう一つ見どころであったのが、市民たちの動向でした。 被害者家族たちは常に神妙な面持ちで救助作業を見守っているのですが、周りの人たちからすれば日常に舞い込んできた一種のイベントのようになっているんですね。 屋台を出したり、グッズを売ったり……33人の生存が分かっているとはいえ、なかなか考えさせられる光景でした。 しかし、こうしたシーンはあくまで「チリ国民の多くが注目していた」という事実を伝えるためであり、別に悪い意味で描かれているわけではありません。 むしろ、イベントとして楽しめていたのは彼らが助かるという希望が持てていたからこそ。 それが分かる歓喜に沸くシーンは、見ている方まで嬉しくなってしまう力強さがありました。国民が一体となれるって素晴らしいことです。

地下と地上の両面から「コピアポ鉱山落盤事故」を描いていた本作。 最後には本人たちも出演させており、彼らに対するリスペクトも感じられました。 起きたこと事態は悲劇でしたが、それが希望の物語となったのですから素敵な話ですね。