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【レビュー】ジョン・F・ドノヴァンの死と生(ネタバレあり)

芸能人と一般人の関係は片思いに似ています。 一般人がどれだけ親近感や愛着を感じようとも、芸能人からすればただのファンの内の一人でしかありませんからね。 では、もし芸能人から一般人に対するアプローチがあったなら……? そんな夢みたいな物語を、同じ境遇に立つ一人の俳優と一人の少年の視点から描いたのが、今回レビューする『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』です。

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ストーリー

11歳の少年ルパート・タナーは、母サムと共にアメリカからイギリスへと引っ越してきたばかり。 母親とはぎくしゃくし、学校ではイジメに合う日々の中で、彼の心の支えは俳優ジョン・F・ドノヴァンとの秘密の文通であった。 そんなルパートの夢は、俳優となりジョンと共演をすること。 しかし、彼の人生には向き合わなくてはならない障害が幾つもあった。 それと同じころ、ジョンにもまた向き合わなくてはならない障害が訪れていた。

感想

『マイ・マザー』(2009)や『Mommy/マミー』(2014)などのグザヴィエ・ドラン監督最新作ということもあってかなり期待が高かった本作。 その期待に応える素晴らしい作品でした。

なにより驚かされたのが、演出の素晴らしさ。 許容できるギリギリなくらいまで俳優に近づけたカメラアングルは、それだけで彼らの世間に対する息苦しさをそのまま体感させるかのようでした。 さらに光の使い方が独特で、温かみがありながらもセンチメンタルな切ない気持ちにさせ、作品に引き込んできました。 そこにドラン監督の十八番ともいえる母子関係を描いたドラマを入れてくるのですから、これで感情を動かされないわけがありません。 ルパートとサム、ジョンとグレース、年代が違えどその愛が不変であることを感じさせる母子関係は、これまで幾度となくその関係を描いてきたドラン監督だからこそできるアプローチであったと思います。 ルパートとサムが再会し抱擁するシーンでは「Stand By Me」が、グレースがジョン(と兄ジェームズ)を見守るシーンでは「Hanging By A Moment」が音楽として使用されており、リンクした印象的なシーンとなっていました。

このように音楽によるアプローチも割と秀逸。 アデルの曲「Rolling In The Deep」とマッチさせたオープニング&タイトルロゴ表示は、それだけでもセンスを感じます。 エンドロールも本作のジョンの気持ちを歌ったような歌詞になっており、シーンごとのマッチングが素晴らしい選曲がされていた印象が強かったですね。

そんなドラン監督による母子関係を描いた作品ですが、いつもと違ったのがメインテーマはルパートとジョンの手紙のやり取りであることです。 ただ、面白いのは二人は本編開始時に既に手紙のやり取りを5年近く続けており、本作で描かれているのはその終盤だけである事でしょう。 また、肝心な手紙の内容はほとんどが明かされておらず、あくまで二人が手紙によってつながっているという事実だけが重要視されていました。 憶測ではありますが、これはわざと伏せていたのではないかと思います。 本作はそもそも、大人となったルパートの回想という体で物語が展開していました。 そのため、内容は明かすも明かさないも彼の裁量次第であったわけです。 つまり、ルパートはジョンとの手紙の内容を明かす気がなく、二人の秘密として留めておこうとしたのではないでしょうか。 なんにしても、似た境遇に置かれていたルパートとジョンに絆が生まれたこと、手紙によって互いの人生を大きく変えたこと、ルパートの将来がよいものとなったことは作中の表現を見ていても分かります。 ジョンとルパートの面識がないにも関わらず、非常に近しい関係のように思えたのは不思議な感覚でした。

こうした世界観に説得力を与えていたのが俳優陣です。 様々な問題を抱え、人気者でありながらも常に苦悩を抱えているジョン・F・ドノヴァンを演じたキット・ハリントンの情緒豊かな演技。 息子との関係が上手くいかず、時には感情を爆発させてしまうルパートの母サムを演じたナタリー・ポートマンの愛と苦悩に翻弄される演技。 なにより凄いのがルパートを演じたジェイコブ・トレンブレイです。 『ルーム』(2015)や『ワンダー 君は太陽』(2017)、『ザ・プレデター』(2018)、『グッド・ボーイズ』(2019)など、弱冠13歳にして数多くの作品で重要な演技を見せているジェイコブ。 その演技力の高さは、おそらく本作を見た人ならだれもが感じたことでしょう。 セリフの抑圧から、体を使っての感情表現、涙の流し方の自然さなど、大人顔負けの演技には作中何度も驚かされました。 このままいけば間違いなく大物俳優になれることが予想できる期待の子役です。

グザヴィエ・ドラン監督が初めてハリウッドに進出して作られた本作。 その評価はあまり著しくなく「ドラン監督のキャリアワースト作品」なんて言われたりもしたそうです。 とはいえ、母子関係の描き方や演出はいかにもドラン監督らしさが出ており、別に腕が落ちた印象はありませんでした。 本作を経て、よりよい新たな作品が作られるのを期待しましょう。