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【レビュー】透明人間(1933)(ネタバレあり)

人間の恐怖という感情は、理解しがたいものを前にした時に感じるものらしいです。

そうして考えると、透明人間とはその恐怖に値する存在だと言えるでしょう。

もし目の前に突然なにかが存在していると分かればそれは理解しがたいことですからね。

そんな人間の根本的な恐怖を刺激するのが今回レビューする『透明人間(1933)』です。


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ストーリー

田舎村アイピングに、顔に包帯を巻きサングラスをつけ、帽子を被った男が訪れる。

彼はとあるバーで長期宿泊することだけを告げて閉じ籠ってしまった。

 

数週間後、家賃を滞納しているばかりか態度も悪い男に激怒した家主たちは彼に出ていくように要求する。

しかし、男は激昂し身に付けていた包帯を取り始めた。

透明人間であった彼は、その能力を使い家主たちに怒りをぶつけ始める。

 

感想

新作『透明人間』(2020年版)を見に行こうと思い、それならばと予習のために見た本作。

70分という現代では考えられない尺の作品ではありましたが、よくまとまっていました。

 

透明人間であることの悲劇、少しずつその力に飲まれていく絶望、その力に翻弄される人々の恐怖といった「透明人間映画といえば!」な展開がほどよく詰まっていて退屈しませんでした。

 

本作の中で目を引くのが、透明人間であるジャック・グリフィンです。

彼は初登場時から既に透明人間でした。

そこから宿を借りたかと思えば突然暴れだしたり、なにかとつかみ所のない行動を取るのは不気味でしたね。

あげくに「恐怖政治で人間をひれ伏せさせてやる!」なんて言い出すのですから危ないやつだという認識しかありませんでした。

しかし、ラストシーンでその姿が露になると、彼もまた普通の人間であったことを感じさせます。

途中に、薬の副作用で精神がおかしくなっているという話になんだか納得がいきました。特に改心した描写があるわけでもなかったですけど……

それだけ「姿が見えない」というのは、彼に対する印象を変えてしまっていたのでしょう。声だけ聞くとドスが効いてて悪そうでしたし。

 

そんなジャックが飲んだ薬ですが、一応作中でどんなものか触れられていました。

なんでもインドの草からとれた成分を漂白剤にし、それを薬にして飲んだのだとか。

理屈はよく分かりませんが、古今東西「インド=不思議なスポットがある」という認識は変わらないようですね。

 

そんな透明人間ジャックvs警察官たちの攻防が本作最大の見どころ。

透明なのをいいことに、傷害はおろか殺人まで犯すジャック。

それに対して警察が取ったのは、住民に情報を募り、警察官を総動員する作戦でした。

賞金が出るためか情報が集まること集まること。

「インクをぶっかければいい」とか「床にタールを撒いたらいい」とか、無敵を謳うジャックとは裏腹に、割と攻略法が出ているのは可笑しかったです。

で、実際に警察が取った方法は、目撃情報があった場所に円陣を組んでその円をだんだん縮めるという手段でした。

当然、隙間から抜け出されてしまう予想通りな結果には笑いましたね。

結局、突破口となったのは積もった雪についた足跡でした。

こういう所も昔から確立されているんだなぁと改めて感心しました。

 

そして感心したといえば、透明の表現でした。

当然ながらCGのない時代なのですが、全く違和感なく透明人間の表現をしていたんですね。

物が空中に浮いたり、イスが僅かに沈んだりと、製作陣のこだわりが見えるシーンの数々には感動しました。

いったいどうやっているのかは不明ですが、(人がいるシーンといないシーンを2回取ってつなげてる?)透明人間に対する愛が伝わってくる演出があらゆるところで見られるのは素晴らしかったです。

 

(有名どころとしては)最古の透明人間映画である本作。

いかに本作のネタが後世の作品に影響を与えているのかが読み取れました。

人間は消えても作品の良さは永遠に残って行くのでしょう。