【レビュー】ポセイドン・アドベンチャー
「豪華客船が転覆する映画」と聞くと、おそらく真っ先に思い浮かぶのは『タイタニック』でしょう。
しかし、その『タイタニック』に劣らない知名度の「豪華客船が転覆する映画」があります。
それが今回レビューする『ポセイドン・アドベンチャー』です。
感想
テレビでもDVDでも劇場(午前十時の映画祭)でも見たことがあるこの作品。
やはり一番は劇場ですが、テレビで見るのもまたオツなものです。
何度見ても楽しめるのは、やはり本作が名作であるからでしょう。
圧巻の転覆シーン、迫るタイムリミット、こじれる人間関係……
そうした、リアルな状況の中、繰り広げられる脱出劇には目が離せなくなります。
そして、毎回感心させられるのがスコット牧師のまっすぐな信念です。
本来、牧師という立場でパニックに巻き込まれれば、自分のため他人(ヒト)のため神に祈るのが普通でしょう。
しかし、スコット牧師は型破りな性格をしており「祈りなんて届かない!運命に立ち向かうんだ」という考えをしていました。
そのため、作中一度として譲らないしブレることがありません。
それだけに、彼が最期に神に対して「助けてくれとは言わない!邪魔をしないでくれ!」という憤りの声は心に刺さりました。
迷いなき姿と型破りな性格、そしてみんなを引っ張るリーダー気質の頼れる存在は、スコット牧師のことを好きにならずにはいられませんでしたね。
もう一人、魅力的なキャラクターであったのが警察官のロゴでした。
警察官とは思えぬ横暴さと口の悪さからスコット牧師とは何度も衝突をしていました。
とはいえ、彼の立場は結構重要。
脱出劇なのにイエスマンしかいないとあまりにも都合がよすぎるように思えてしまいますからね。
ロゴを通して、その別の道が間違いであったということが示されていたように思います。
そんな、プロレスでいうヒール役のような存在であるロゴではありますが、個人的にはやっかいな奴であっても嫌いにはなれません。というのも、なんだかんだでスコット牧師に従っているし、なにより他の乗客を助けるためにことあるごとに頑張っていたからです。文句はいうけれど、助かるための協力はしっかりする、そんな姿を見せられれば、嫌いになんてなれるわけがありませんでした。
本作のキャラクターがこうして魅力的になっているのは、転覆までの何気ないシーンのおかげだと思います。
というのも、初めて見た時には気づきづらいのですが、転覆までの導入(だいたい20分くらい)の間にスコット牧師初め、脱出組のそれぞれ生き残らなくてはならない理由をちゃんと描いているんですね。
そんなものを見せられれば、転覆後からはほとんどパニックに翻弄されているだけ、というキャラクターでも応援したくなってしまうのが人間の情というもの。
感所移入しハラハラドキドキできるのはこうしてキャラクターがしっかりと根付いているからなのでしょう。
そうした「人」に対するこだわりは然ることながら「もの」に対するこだわりもしっかりとしていました。
中でも目を引いたのが、180度回転した船内の状態でした。
序盤に見られる通常状態の豪華客船の船内だけでも「しっかり作りこんでるなぁ」と感心できるのですが、転覆してからはそれが全てさかさまに。
その作りこみはただスコット牧師たちが歩いているだけでも、そのあべこべさにワクワクさせられました。
また、彼らが脱出のためにいろいろな部屋を通るというのも魅力的。
大ホールのパーティ会場から始まり、厨房、廊下や階段、エアシャフトに機関室と、アドベンチャー感がハンパないです。
死が間近に迫っていない状況であるなら、実際に見て回りたいと思える素敵な空間を作り上げていました。
で、これらをCGなしで仕上げているのですからまたすごい話です。
本物の船っぽさが感じられるセットの作りを見ると、なにもCGがあるからクオリティが高いというわけではないのだなとしみじみ感じさせられました。
沈んだ豪華客船を舞台に、人の生きる力強さを見せてくれていた本作。
その一方で、命の掛かった状況なのに、不思議とワクワクも感じられたのも事実です。
命の掛かったハラハラと、冒険をするワクワク。その両方を感じさせるのですから『ポセイドン・アドベンチャー』というタイトルは秀逸だと言えますね。