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【レビュー】アップグレード(ネタバレあり)

SF映画において、AIはたいてい敵となる存在です。
便利すぎる力は時に危険であることを表現するためなのか、はたまたその方が刺激的で意外性があるからなのかは分かりません。
とはいえ、本来なら人の生活を便利に手助けする存在です。
そんなAI技術をもし人間の体に移植したら……?
そんな夢のようで、あり得そうなSFを実現させたのが、今回レビューする『アップグレード』です。

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ストーリー

自動操縦の車が事故を起こし、そこへ現れた謎の集団によって妻を殺されたグレイ。
彼自身も、謎の集団による襲撃で四肢麻痺となる重傷を負っていた。
苦しむグレイに、過去に仕事で知り合った最先端技術を有する男エロンがある提案をする。
それは、四肢麻痺を直すため、彼にAIチップを移植するという話であった。

【感想】斬新すぎる動きがいっぱいAIアクション!

この作品、もともと劇場で見るつもりで前売り券まで買っていました。(ネットで)
しかし、自分の住んでいる地域では公開されていないとかで見れなかった作品です。
今回は、現在公開中の映画『透明人間』が本作と同じ、リー・ワネル監督ということもあって便乗して見ました。
その感想としては、やはり劇場で見たかった!ということです。

そう思わせた最大の理由が、アクションの見ごたえでした。
本作、主人公グレイがステムという高性能AIチップを体に埋め込んだことから、彼自身には到底できないようなアクションを見せます。
そのロボットのような動きをしたアクションがすごい!
まるで、本当に高性能AIが相手の動きを読んでいるかのように的確に攻撃をかわし、ダメージを与えているんですね。
さらに、演出としてカメラがグレイの動いた方向に傾いたりする(例えば体を90度曲げて攻撃をかわしたらカメラも90度横を向くといった感じ)のが斬新。アクションシーンをより盛り上げていました。(SEの機械音も良かったですし)
また、ホラー映画業界に精通したリー・ワネルが監督を務めているからか、その殺し方が結構エグイのが多いです。
そのグロさは、慈悲も躊躇も一切ないステムの無機質さを感じさせると同時に、リー・ワネル監督に惹かれた一部のホラーファンを楽しませたのではないかと思います。
こうした、斬新スタイリッシュアクションは、ぜひとも劇場のスクリーンで堪能したかったですね。

本作において他にも面白いのが、グレイとステムの関係。
ステムはあくまでグレイの体に埋め込まれたチップにしかすぎません。
そのため、彼を助けるためにアドバイスや荒事の対処などしてくれるんですね。
その力にグレイが調子に乗って「俺は忍者だ!」とか言ったりするのは笑えました。
とはいえ、ステムが密かに画策していた「肉体乗っ取り計画」が本作のどんでん返しでもあります。
友人のような関係になりつつあった二人なのに、実はグレイはただの操り人形だと分かった衝撃は、ショッキングながらも「騙された!」と思いましたね。

とはいえ、よくよく考えてみるとグレイは最初から最後までいいように転がされているんですね。
序盤では「機械になんでもさせたら人間の出来ることがなくなる」と、機械には否定的な反応を見せていました。
しかし、ステムの便利さを知ってからは二言目には「ステム、頼むぞ」なんて言っているのですから滑稽です。
機械に何もかも奪われるという、最もなりたくないと思っていた立場に彼自身がなってしまっていたのですから皮肉な話でした。
しかも、それに気づかずに精神世界に引きこもって幸せだと錯覚しているのですから、なお酷な話ですよ。

そんな、主人公が敗北するエンディングを迎える本作ですが、不思議と嫌悪感はありませんでした。
もし、どこか近くの劇場で再上映があるならおそらく見に行くくらいにはまた見たいと思わせてくれました。
その最大の理由はやはり「騙された!」という痛快さがあるからだと思います。
同じリー・ワネル監督が脚本を手掛けた『SAW』なんかもでしたが、綺麗などんでん返しってバッドエンドでもまた見たくなるんですね。
本作でも上に書いたように、だんだんとステムに依存し始めるグレイの姿や明らかにエロンに容疑の目を向かせるミスリードなんかは、その結果を知っていても丁寧な作りで見ごたえがあります。
そこへ例のアクションシーンが加わるのですから、一回見てたからってなんだという話ですよ。むしろ、劇場で見れるなら二回目を見たいくらいです。
自分がダークなSFがジャンルとして好きなのもあるとは思いますが、こうした感想を抱いた人はおそらく少なくはないでしょう。

というわけで、ぜひ再上映をしてもらいたいです。できれば全国的に。
そうなると、リー・ワネル監督の知名度がもっと上昇する必要があると言えるでしょう。
『透明人間』でも、その知名度を高めていますし、今後も彼の監督する作品には期待していきたいですね。