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【レビュー】A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー(ネタバレあり)

「幽霊とは怖いもの」

ホラー映画をよく見る人こそそんなイメージがあるかと思います。

しかし、幽霊とは未練があるから存在するもの。何も悪さをしたくて現世にとどまっているわけではありません。

そんな幽霊の存在意義を考えさせられるのが、今回レビューする『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』です。


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この作品、公開時に劇場に見に行ったはいいものの、仕事後に行ったために爆睡した悲しき過去を持っています。

そんなわけでリベンジとなった今回。すごい面白かったです!

 

とはいえ、当時の自分が寝てしまったのも確かに納得。

それというのも、本作はかなりの頻度で長回しが多いです。

BGMもセリフない無音の空間で、幽霊がただ突っ立っているだけのシーンが何度もあります。

それを仕事で疲弊した状態で見れば寝てしまいますよ。

 

しかし、寝てしまいやすい=駄作かといえばそうではありません。

例えば、今挙げた幽霊が突っ立っているだけのシーン。

これを普通のホラー映画でやられたら「なんだこれ?」となるでしょう。

しかし、本作は突然死んだ主人公が感傷に浸り、恋人を見守る物語でした。

その切ない物語には、長回しで無音という空間はこれほどにないほどマッチしているんですね。

何も伝えられない中、恋人が自分の死から立ち直っていく様子を見守ることしかできない虚しさが伝わってくるかのようでした。

 

また、この幽霊のヴィジュアルが秀逸。

白い布に2つ穴を開けただけのオーソドックスなものなのですが、それが逆に哀愁を誘うんですね。

カメラアングルや光の入り方次第で布のシワが感情を表しているように見えるのは、錯覚なのか現実なのか……

セリフもないし見た目は布なのに人間味が感じられるのは、細かい動きや目線などがあるからなのでしょう。

 

こうした、説明少なめで進行していくシンプルな本作ですが、ポイントとなっていたのが死後に人間がどうなるのかでした。

中盤、パーティーでとあるグループが、死んだ人間の遺した物は後の世代に受け継がれていくものの、最後には"無"に集束すると語っていました。

しかし、幽霊が見たのは何度も繰り返している世界でした。

遺した物は同じ運命をたどりまた生まれる……俗にいう永劫回帰の世界だったわけです。

実際どうなのかは死んでみないと分かりません。とはいえ、死んだ後にも世界は続いてもらいたいもの。

希望とは言えないかもしれませんが、僅かでも幽霊が救われる展開であったのは良かったです。

ラストシーン、恋人が家に残していったメモの内容は明かされませんでしたが、それで幽霊が満足できたことこそが大切だったのでしょう。

それも含め、幽霊の救われる優しい物語でした。

 

幽霊が登場するものの、ホラー要素は無いに等しい本作。(若干、びっくりさせるシーンもありましたが)

切なくもネガティブではない、暖かな物語は演出の巧みさもあって素晴らしい出来となっていました。