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【レビュー】フランケンシュタイン(1931)(ネタバレあり)

フランケンシュタインは実は博士の名前で怪物の名前ではない」という豆知識は今や多くの人が知るものとなっています。
そんなフランケンシュタインの2回目の映画化作(初めての映画化は1910年)となるのが、今回レビューする『フランケンシュタイン(1931)』です。
このユニバーサル作品はシリーズ化し、この後、5作品目まで続いて行きます。


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ストーリー

科学者であるヘンリー・フランケンシュタインは、助手であるフリッツと共に墓から1体の死体を掘り返す。

ヘンリーの婚約者であるエリザベスは、行方不明となっていた彼の身を案じていた。
彼が研究のため、ある塔にいることを知った彼女は、友人のヴィクターとヘンリーの恩師であるウォルドマンを連れて塔へと向かう。
そこでヘンリーが行っていたのは、死者を甦らせる実験であった。

 

感想

冒頭、ナレーター的人物が、カール・レムリ(昔、有名だった映画人)によって製作された映画であることや「怖い人は見るのをやめるなら今のうち」みたいなメタな発言をしてから始まる本作。
見ていると、なるほど見世物小屋のような楽しさがありました。
醜悪な見た目で、理由なく人を殺し、普通の人間を超越した力を持つ怪物は、どこか怖いのですが見たくなってしまう好奇心が沸いてくるんですね。

その好奇心は、怪物が生まれる前からあると思います。
薄暗い塔の中で研究を続けるヘンリー。彼を囲う無数の謎の機械。時折、電流が流れるそれは見ているだけでも「一体なんの機械なんだ?」と興味を抱かずにはいられません。
そこへ、雷の電気を使って死者を蘇生させるというのですから、不気味さを感じながらもワクワクせずにはいられませんでした。

そして生まれるのが怪物な訳ですが、この初登場シーンの演出がまたニクい。
後ろ姿から振り向いて、醜悪な顔を映すという驚き。
ただでさえデカイ図体が、影によってよりデカく見える不気味さ。
これらによって、怪物の「普通の人間とは違う」というのをひしひしと感じさせられるわけです。
「人間の見た目をしているけれど人間ではない」
その事実こそが、怪物への好奇心を抱かせるのだと思います。

そんなフランケンシュタインの怪物が生まれて、町で大暴れをし、殺されるまでが本作の一連の流れとなっています。
これをたった71分に収めてしまうのですから、そりゃテンポよく話が進みます。
それでも、怪物がとある少女に花を貰って無邪気に遊ぶという「怪物にも心があるのでないか?」と思わせるエピソードをしっかりと入れていたりするのですから、大事なポイントは抑えていると言えるでしょう。
最後には、町中の人から罵声を浴びせられ、燃える風車小屋から逃げることも出来ずその姿を消すのですから因果応報とはいえ切ないです。
少女を湖に投げ込むシーンから見ても、善悪の判断がついていないため、おそらく追われる理由すら分かっていないのが最大の悲劇でしょう。

そんな本作ですが、個人的に面白かったのが、フランケンシュタイン家です。
フランケンシュタイン家の人間は、ヘンリーとその父親フランケンシュタイン男爵が登場します。
ヘンリーは、死者を蘇らせるなんて実験に没頭していることからも分かるように、マッドサイエンティストです。
危険を提唱するウォルドマン博士を前に「危険の限界に挑戦してこそ発明になる」と、聞く耳すら持ちません。
とはいえ、「人間の神秘の一つを解き明かせれば異常者扱いでも構わない」と言っていたように、科学に対する愛は本物のようでもありました。
まあ、殺人鬼の脳みそ入れたことを知って「体の一部にすぎん」とスルーしてしまう辺りやはり狂っていると思いますが……
そんな彼の父親がフランケンシュタイン男爵です。
この人、塔にこもっているヘンリーに「エリザベスをほったらかしにして浮気してるだろ!」と決めつけ押し掛けたりする、厳格にして融通の効かない割と面倒くさい人。
とはいえ、男爵とはやはり凄い人物らしく、市長に対して威張り散らしていたり、息子(ヘンリー)の結婚式なのに自分のパーティーかのように町の人々からチヤホヤされたりと、その権力の強さを感じさせていました。
で、この男爵はストーリー上、特に関わりもないくせにラストシーンを「フランケンシュタイン家反映に乾杯」とか言って締めています。
しかし、このシーンこそが本作の全てだと言えます。
というのも、本作で怪物を生み出したのはヘンリーですが、 そんな彼を「死者の復活」という狂気の実験に走らせたのは男爵の存在があったからでしょう。
父親の高すぎる地位と厳格な性格、そんなプレッシャーの中ヘンリーが父親を見返すため、世紀の発明を成し遂げようと考えるのは不思議な事ではありません。
男爵は、怪物を作った怪物を生み出したのは自分だとつゆ知らず、フランケンシュタイン家の繁栄に乾杯なんてしているのですから皮肉な話です。
とはいえ、そんな彼を作り上げたのも祖父、曾祖父と脈々と受け継がれてのことなのでしょう。(結婚式の際に男爵がヘンリーに代々受け継がれてきた冠を渡すのもそれを意味しているのでしょう)
怪物を作りあげたのがヘンリーでありながらも『フランケンシュタイン』というタイトルになっているのは、フランケンシュタイン家の物語であるからだと言えますね。

フランケンシュタインは実は博士の名前で怪物の名前ではない」
それは、有名な豆知識となっています。
けれど、怪物を作り出したヘンリーを指して言うのなら、フランケンシュタインは怪物で間違いないのかもしれませんね。