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【レビュー】マイ・リトル・サンシャイン(ネタバレあり)

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ストーリー

同性愛による痴情のもつれから自殺未遂を起こしてしまったフランク・ギンスバーグは、妹夫婦フーヴァー家に引き取られる。
シェリルは彼を心配するものの、義理の弟リチャードらの対応は冷たかった。
そんな折、フーヴァー家の長女オリーブに、少女たちのミスコン"リトル・ミス・サンシャイン"への参加の話が舞い込む。
ミスコンがカリフォルニア州で行われることを知ったリチャードらは、オリーブを参加させるべく一家総勢で出発する。

感想

名作と名高い作品ということもあって、ハードル高めで見ることとなった本作。
しかし、それを悠々と超えてきたのですから侮れません。
やっていることはおおまかにいえばロードムービーです。
車内で色々話して、旅先で人と出会い、時にはトラブルに見舞われる……そんな、慌ただしくも貴重な時間は見ているだけでも心が温かくなります。
中でも味を出しているのが、彼らの使うバスでした。
本作のトレードマークとも呼べるこの黄色いバス。
もともとボロボロではあるのですが、旅を続けるうち、エンジンの掛かりが悪くなり、クラクションが鳴り続け、ドアが取れてしまうようになります。
中でも、エンジンの掛かりの悪さは致命的で、車を押しながらギアを入れなくてはならないというなんとも不便な仕様に。
けれど、家族総出で恥も外見もなく全力で押して、全力疾走で飛び乗るというのは破天荒な一家らしいわちゃわちゃとした展開でした。



で、このわちゃわちゃとした展開こそ本作の醍醐味であったと言えます。
オリーブを置いて出発をしてしまったり、亡くなったエドウィンの死体を病院から持ち出したり、警察に止められたりと、次々と巻き起こるトラブルに行き当たりばったりに対応していくのは見ていて楽しめるコミカルな内容でした。
エドウィンの死でさえ、暗い気持ちにさせることなくコミカルで温かい雰囲気を維持し続けたのは素晴らしかったです。
あれなら死んだ人間も報われるというものですよ。



本作でよく話されていたのが勝ち組と負け組についてでした。
フーヴァー家は、勝ち組になることを目指している人間ばかりです。しかし実際は(社会的に)負け組ばかりなんですね。
リチャードは本の出版に失敗し、シェリルはそんな夫に振り回されています。フランクは恋人も専門知識の権威を失い、ドウェーンは夢に破れ、エドウィンはクスリ漬けの日々でした。
唯一、負け組へ入っていないのはオリーブだけで、それゆえに家族たちは彼女がコンテストへ出ることを止めていました。
しかし、本作で語られる勝ち組は、勝ち負けなど関係なく挑戦することから逃げ出さないこと。ありのままの自分を全力で表現することだったんでした。
それをエドウィンから教えられていたオリーブがコンテストで全力を尽くし、それを見た家族たちも後に続くのですから感動的です。
愛があって情熱があって笑いがある。そんなフーヴァー家(とフランク)の姿は、羨ましいほどの勝ち組であると思えるのですから、本作はよく出来ていると言うしかありませんね。



ちなみに、私の個人的なハイライトシーンは、ドウェーンが空軍に入れないことを知り落ち込むのをオリーブが慰めるシーンです。
あのシーンの奥行きを生かして家族全員がドウェーンを心配していることが見て取れる映像と、オリーブがハグすることで言葉なくドウェーンが立ち直る愛の深さにはグッときました。(その少し前に、病院でドウェーンが母親を慰めるため、オリーブにハグするように伝えていた優しが、彼自身に返ってきているのがまた素敵)
様々なトラブル、衝突がありながらも(エドウィンの死体含め)誰一人欠けることなく、目的地までたどり着いたのは、何気ないことでも絆の強い家族であることを感じさせていましたね。



家族の愛の不変さと、生き方を変える成長との反比例な関係をユーモアたっぷりで描いていた本作。
最後には、フーヴァー家の家族たちが羨ましく思え、その生きざまを真似したくなる心境の変化を与える辺り、本作が名作であることを物語っていると言えるでしょう。