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【ネタバレあり・レビュー】4×4 殺人四駆 | 因果応報?やりすぎ?改造車から逃げ出せないワンシチュエーションスリラー!

人に物を奪われる、それはとても悔しく腹立たしいことです。
もし、その怒りを向ける対象がいればまだマシですが、知らない人間に知らないうちに奪われたりしたらそれは耐え難いことでしょう。
今回レビューする『4×4 殺人四駆』は、その奪う側の人間……車場荒らしが手痛い仕返しを受けるワンシチュエーションスリラーです。
ちなみに、タイトルの「4×4」は車の4WDを指します。

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作品概要

原題:4x4 製作年:2018年(日本公開:2019年)

監督:マリアノ・コーン 脚本:マリアノ・コーン 主演:ピーター・ランサーニ

ストーリー

これまで多くの犯罪を犯してきた男シロは、一台の4WDに目を付ける。
ピッキングで鍵を開け、中の物を一通り盗んだ彼は、車を降りようとするが扉が開かない。
その車は、所有者が仕掛けた罠であったのだ。
防弾・防音・遮光ガラス。中から開かず、外へも助けが呼べない状況下に置かれた彼に一本の電話が鳴る。

感想

タイトルのインパクトだけで見たくなった本作。
変な名前ではあるもののなかなか面白い作品でした。
あらすじにも書いているように、基本は車の中から出られないワンシチュエーション。
こうしたワンシチュエーションものって開始までに2,30分とか掛かることがザラなのに、本作では5分としないうちにシロが閉じ込められるのですから掴みとしては良かったです。
セリフもないまま、10分近くあの手この手を尽くしていく彼の姿はなかなかシュールな光景。
演じたピーター・ランサーニの必死過ぎる演技力もあって見ごたえのあるシーンでした。



とはいえ、本作はシロを閉じ込めておく要素についてはかなり都合よく作られていたと思います。
遮光ガラスは外から人が近づいても全く透けることはありませんし、防弾・防音は叫び声はおろか車体の揺れすら全く発生させない超次元の性能でした。
中でも都合がよすぎたのが携帯電話。妨害電波なんてないフリーの状態なのにちょうど充電切れになるというミラクル。これもう、逃げ出せなくても仕方ないです。
また、車の金具に手を引っ掛けてケガをしたり、防弾ガラスに銃を撃ってその跳弾が足に当たってしまったりと、やること為すこと全てが裏目に出たりしていたのは笑えるくらいの不運でした。



こうした苦闘がある中で、本筋となるのは罠を仕掛けた本人エンリケからの電話。(車に備え付けられたもの)
これまで、20回以上シロのような強盗に車を盗まれてきたことから罠を設置して痛めつけてやろうと考えたと明かされるのです。
つまりは、警察へは引き渡さず私刑を執行しようという心づもりです。病気で余命いくばくかしかないのも含め『SAW』シリーズのジグソウみたいな奴でした



そして本作のテーマともなるのが、この「私刑の妥当性」についてです。
罪を犯した者に対して警察が厳格な対応をしなければ、当然、街の人間は自分たちでどうにかしなくてはと考えます。今回の殺人四駆みたいに。
そうした犯罪者と街の自警団との泥沼な関係は、現実にアルゼンチンで起きていること。
偶然、車泥棒をしようとしたシロを見せしめに殺すべきか、十分に反省したと見て解放すべきなのかを、私たちまで巻き込んで考えさせる展開は面白かったです。
結局、シロを閉じ込めた犯人は自殺という形で、彼に消えない傷を負わせる結末を迎えます。
このもやもやの残る展開は、ワンシチュエーションのすっ飛んだ設定からは考えられない記憶に残るものとなりました。



本作に対して不満な点があるとすれば、やはり尺の問題です。
結局の所、やりたいのは「脱出できない車に閉じ込められた」と「私刑の妥当性がどこにあるのか」の二つ。
そのため、無駄に思えるシーンがいくらかはあるんですよね。
中でも、シロが脱出した夢を見るシーンはかなり無駄がありました。
夢の尺がとにかく長すぎるんですよね。
その割に、なんだかあっさりと終わっちゃうし、見ていて「今の必要だった?」と思わずにはいられないシーンナンバーワンでした。
正直、本編時間92分は楽しく見られるギリギリのラインであったと思いますね。



「車に閉じ込められる」というワンシチュエーションから始まる本作。
しかし、これくらいしないとならない治安の国もあるという現実を突きつけてくる、作品でもありました。
もし、日本で同じ内容の作品を作ったとしたら、おそらく「エンリケが異常者だ」で終わってしまうでしょう。
その国のお国柄が出る作品というのは、見ていて面白いものですね。