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【レビュー】サボタージュ(1936)(ネタバレあり)

日本で「サボり」というと「面倒くさくてやらなくてはいけないことをやらない」ことを指しますよね。
この語源は「サボタージュ」から。
しかし、語源であるフランス語では「サボタージュ」の意味は少し違います。
「大衆や企業に不安や警告を与えるため意志を持ち 建物や機械を破壊する行為」
そんな語源の説明から始まるのが今回レビューする『サボタージュ(1936)』です。

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ストーリー

ある夜、ロンドン中が停電に陥った。「サボタージュ」による影響である。
犯人である映画館を営むヴァーロックは、妻とその弟スティーヴィーにバレないようひっそりと自宅に戻った。
その様子を目撃していたのは、ヴァーロックを見張るため映画館の隣にある果物屋に潜入しているスペンサーであった。

翌日、ヴァーロックは依頼主と面会する。
依頼主は、サボタージュの結果にロンドン市民が危機感を抱いていないことを不満に思っていた。
ヴァーロックに出された次なる依頼は、ロンドン市内の爆破行為であった。

感想

数多くの作品を手掛けてきたアルフレッド・ヒッチコック
前知識として、彼はもともとイギリス人。そのため彼の監督作は大きく「イギリス時代」(1925-1939)と「アメリカ時代」(1940-1976)に分かれます。
そんな中、今回の『サボタージュ』は、イギリス時代でも後期の作品。(1936年) 既に面白い映画の作り方を熟知しているのか、安定した面白さがありました。

印象的なのが時代の傾向が現れているという事。
本作のテーマでもあるサボタージュ行為は、市民の視線を国外へ向けさせないためであると作中で語られていました。
で、本作は第一次世界大戦から第二次世界大戦の狭間の作品。第二次世界大戦に向けて世界情勢がひりつきだしている時期です。
明確には描かれていませんが、そこら辺の情勢を意識して、サボタージュを題材に選んでいたのかもしれません。当時の人にセンセーショナルな印象を受けたのか、ぜひ聞いてみたいものですね。

とはいえ、本作はそこまでサボタージュによる影響は描かれていません。
ヴァーロックは金欲しさにサボタージュ行為を行いますし、夫人はそれに振り回されているだけ。スペンサーはその夫人の身を案じ、やがては恋愛関係に発展しますからね。
そこまでサボタージュ行為の大義名分については触れられていなかったように思えます。
時代背景の中で、ためになる知識があるとすれば、映画のフィルムは可燃性なため公共交通機関に持ち込み出来ないという事くらいでした。(ここで出てくる『絞殺魔』って実在する映画なのでしょうか?)

ともあれ、本作はお金が欲しいヴァーロックと警察スペンサーの攻防がメインストーリー。
基本的に映画館周り(隣の果物屋)でストーリーが展開されていくのは、狭い世界観である印象を受けました。
しかし、物語は「ロンドンの危機」と壮大で見ごたえがありました。
正体を知られるわけにいかないスペンサーの監視と、やろうとしていることがバレるわけにはいかないヴァーロックのヒリヒリとした緊張感には目が離せませんでした。

スペンサーを出し抜くためヴァーロックが妻の弟スティーヴィーに爆弾を持たせるというのがまた面白い。
なにも知らない少年ゆえに、市長就任パレードでごたついている街中で寄り道したりする緊張感は凄まじかったです。
セリフもなく刻一刻と時間が迫るのを表現した演出は実にヒッチコックらしい。どんどんと作品に引き込まれていきました。
そして、衝撃的なのがスティーヴィーがこの爆破によって命を落とすという事。 これを受けてヴァーロック夫人がアニメーション映画『誰がコック・ロビンを殺したの?』を見ていたのが印象的です。
果たして殺したのはヴァーロックなのか、彼を邪魔した警察なのか、それともサボタージュを仕組んだ依頼人か……それを考えさせるようでした。
しかし、ヴァーロックは開き直って言い訳を並べ立てるのですから本当に救いようがありません。
金で首が回らなくなり、サボタージュに参加せざるを得なくなった可哀想な人かと思いましたが、スティーヴィーに爆弾を持たせる時点でうすうす気づきますがやはりロクデナシでしたね。
あの口ぶりでは、夫人から刺されるのも因果応報ですよ。

夫人がヴァーロックを刺殺してからはロマンス展開に。
絶望に苛まれる夫人をスペンサーが助けていい感じになるのは、それまでのサスペンス展開とはうって変わって美しさすらあります。
サスペンスとロマンスの融合、これも実にヒッチコックらしいです。
意外であったとすれば、夫人の殺したヴァーロックの死体が爆弾によって吹き飛ばされて夫人の犯行が隠ぺいされたことでしょう。
これによって夫人の犯行はうやむやに。スペンサーと共にいられるハッピーエンドとなっていました。
しかし、これ本当にハッピーエンドなのか少々疑問も残ります。
なぜなら曲がりなりにも夫人は人を殺していますからね。それを隠ぺいして「バレなかったからよかった」で済ますのはどうなのかと……
そんな疑問が若干残るラストシーンでもありました。まあ、見方はひとそれぞれなのでしょう。

実にヒッチコックらしいサスペンスと若干のロマンスを描いていた本作。
よく出来た作品ではありますが、夫人の弟が死に、ヴァーロックも死ぬという死の連鎖は、なんだか見終わっても虚しさが残りました。