【レビュー】レイニー・デイ・イン・ニューヨーク(ネタバレあり)
雨の日というのは、たいていナーバスな気分になるものです。
じとじとしていて薄暗い感じがそうするのかもしれません。
そんなナーバスな気持ちを吹き飛ばし「雨の日も悪くないかも」と思わせてくれるのが、今回レビューする『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』です。
ストーリー
大学生カップルであるギャッツビーとアシュレーは、とある週末をニューヨークで過ごすことにする。
それは大学新聞を作っているアシュレーが、有名な映画監督へのインタビューをする機会を得たからであった。
週末、ニューヨークに着いた二人。
アシュレーがインタビューをしている間に、ギャッツビーは故郷の街を回り昔の友人たちと再開する。
やがて、アシュレーと合流する時間となるが、彼女はまだ合流できないと告げるのであった。
感想
だいたい1,2年に1作は公開するウディ・アレン監督。
令和一発目から素晴らしい作品を見せてくれました。
"雨"ときて"男女のすれ違い"とくるもんですから、それはそれはナーバスな作品かと思いきやさすがはウディ・アレン。
持ち前のユーモアセンスを生かし、いつも通り質の高いラブコメディに仕上げていました。
で、そんな物語の始まりは、大学校内でのギャッツビーとアシュレーの会話からでした。
もうここからウディ・アレン節が炸裂。
週末のニューヨークでの予定を二人で話しているのですが、会話しているようで噛み合ってないんですよね。
ギャッツビーが「○○というとこに行こう!」とはしゃいでいるのに対してアシュレーは「あの有名な監督にインタビューできるのよ!」と大興奮。開始数分で別れるフラグがビンビンでした。
で、ギャッツビーに店の名前とかで知識自慢をさせているところが実にウディ・アレンっぽいです。
昔から彼の作品では「専門知識を使って自慢をする人間」を皮肉を込めて描いていますが、今作でも顕在でしたね。
そんなウディ・アレン節は、本筋のニューヨークに入ってからも見られました。
中でも、男と女の偶然の出会いは実に彼らしいアプローチ。
圧倒的なセリフ量で交わされるやり取りは、着実に登場人物たちの恋愛観を変えていきます。
そうした、交わした会話ややり取りによって思想が変わっていくのは、実に人間味が感じられました。
で、この人間味こそが作品の面白い大きな理由。
これがあることによって、登場人物たちに共感することができるんですね。
そして、この人間味を加速させるのが"苦悩"です。
本作において、ほとんどの登場人物が苦悩を抱えています。
彼女が浮気をしている疑惑があったり、映画の出来が悪かったり、妻が浮気をしていたりと、様々。
けれど、これがしっかりとキャラクターとして根付くのですから面白いものです。
作中、ギャッツビーが、厳格な母親が昔は娼婦であったことを知って親近感が沸いた、と言っていたのと似た感覚なのかもしれません。
不完全なキャラにこそ感情移入ができる、それが人間というものなのでしょう。
と、こうしていろいろ書きましたが、登場人物に好感が持てるのは、俳優のおかげであるのも確かです。
主演のティモシー・シャラメは、見た目や仕草はカッコいいけど、小心者で知識自慢の変人というなんともクセの強い役を好演しました。
ヒロインであるエル・ファニングは、とにかくキュート。
男を翻弄するナチュラル悪女で普通ならイライラしそうなのにチャーミングなだけですべて許せちゃう魅力をまとっていました。
他にも、ギャツビーとケンカばかりなのに妙に馬があうチャンにセレーナ・ゴメス、悩める監督テッドにジュード・ロウ、魅惑のハンサム俳優ヴェガにディエゴ・ルナと、一癖も二癖もあるキャラクターを、演出、脚本、俳優のあらゆる面から作り上げていました。
そんな濃いメンツが、これでもかとユーモア溢れるセリフを展開してくるのですから面白くないわけがない!
ウディ・アレン監督のキャラクターとそれを演じる俳優へ対する愛が見えるかのようでした。
毎回思いますけど、ウディ・アレンほど映画づくりを楽しんでいる監督もなかなかいないと思います。
そして、作品全体を飾るのが本作のテーマでもある"雨"でした。
雨に濡らせば男女を色っぽく見せ、傘を刺させれば二人の距離を縮めるという万能な舞台装置を本作ではフル活用。
雨が好きだというギャツビーの恋心を分かりやすく表現したかと思えば、雨のニューヨークを視覚的に美しく見せたりと、タイトルに偽りなしの雨の日のニューヨークでした。
ここまで雨を美しく、かつ希望に満ちたものとするのは『雨に唄えば』を連想させましたね。
暖かな光が差すギャツビーとアシュレーの噛み合わないやり取りから始まり、降りしきる雨の中ギャツビーとチャンが愛を伝え終わった本作。
本作を見終わった後に雨が降っていてもラッキーと思えるような、そんな雨の楽しさを感じさせる作品でした。