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【レビュー】ドミノ 復讐の咆哮(ネタバレあり)

ブライアン・デ・パルマといえば『キャリー』(1976)、『スカーフェイス』(1983)、『アンタッチャブル』(1987)、『ミッション:インポッシブル』(1996)などなど、多くの名作を生み出してきた監督です。
しかし、デ・パルマ監督も2000年代に入ってからはメガホンを取る回数が減ってきていました。
そんな彼による2012年『パッション』以来の新作が、今回レビューする『ドミノ 復讐の咆哮』です。

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ストーリー

デンマークコペンハーゲン
刑事であるクリスチャンは、相棒のラースと共に通報のあった現場へ向かう。
そこでクリスチャンが銃を忘れたことがきっかけとなり、ラースが重傷をおってしまう。
犯人であるタルジの行方を追い始めるクリスチャン。
しかし、タルジはCIAに脅され、国際テロリストを追う仕事をさせられていた。

感想

冒頭でも書いたようにブライアン・デ・パルマ監督による久々の作品。
それだけに、結構期待を持っていました。
しかし、蓋を開けてみればどう贔屓目に見ても駄作。
「いったいどうしたデ・パルマ監督!」と言いたくなる出来でした。
安っぽい演出、内容の薄いストーリー、もっさりとしたアクションetc...
誉める箇所を探すのが難しいくらいに盛り上がりません。



導入はそこまで悪くなかったと思います。
相棒を殺された刑事と追われる殺人犯、それを利用するCIA。
三つ巴の関係がそれぞれの目的を遂げるため、奇しくも国際テロリストを追うことになる流れはサスペンスドラマの王道をいっていました。

悪かったとすればそれらのテンポの悪さでしょう。
足取りを掴むのに異様に時間が掛かっていたり、事件とは関係ないラースの不倫話が割り込んできたりと、とにかく無駄が多い。
普通のアクション映画であれば、そうした無駄なシーンの合間にもアクションシーンが入り盛り上がるのですが、本作はそれもイマイチ。
ケンカのような取っ組み合いしかしていないため、逆にストーリーのテンポの悪さに拍車を掛けてしまっていました。
そんなガッカリアクションをバリエーションも増やさず、最後まで続けるのですからまたひどい。
終盤なんて、それをごまかすためなのか、スローモーションを長々と使用していますからね。
見応えなんて感じられない、引き延ばしのようでした。



さらに緊迫感を薄れさせたのが国際テロ組織(ISIS)のスケールの小ささです。
たしかに、やろうとしていることは過激なのですが、どう見ても合成にしか見えないCGバリバリの襲撃シーンを見せられても「なにがアッラーアクバルだ」と思うしかありません。
さらに酷いのが人員。ボス含めて5人程度しかいないというのは、明らかに人員不足です。
終盤の闘牛場へのテロなんて、自爆する実行犯、ボス、ドローン操作、見張りの4人しかいませんからね。そんなだから2人に制圧されるんですよ。
アクション映画なんかでは、主人公が次から次に沸いてくる敵の部下をなぎ倒す、アクションのためだけのようなシーンが存在しますが、ああして人員が出てくるだけでも組織の強大さをアピールできているのだなとしみじみ思いました。



こうした酷い内容であっても、最後にスッキリ終われるのであれば幾分か救いはあります。
しかし、本作にはそれもありません。
まず、クリスチャンの相棒であったラースは結局死んでしまうこと。
重傷を負いながらも生き残っていたから、最終的に目覚めるか、あるいは手掛かりを残すなりするのかと思っていたら何もせず。普通に、襲撃を受けた後に死んでいてもそこまで違和感はなかったように思えます。
そして、クリスチャンの復讐の相手であったタルジも死んでしまうこと。
タルジ視点で家族思いな所とか見せておきながらあっさりと殺され、残された家族への描写は一切ないという投げやりな対応にはモヤモヤさせられました。
その復讐を果たすのがクリスチャンならまだ納得がいきましたが、実際はラースの愛人だったアレックス(一応刑事)なのですからさらにスッキリしませんでした。
当の本人は「少し気が晴れたわ」とか言っていますがこっちは気が曇りました。

で、ラストシーンは何故か、一度やった質の悪いCGのテロシーン。
ISISによって、動画サイトに挙げられたそれはそのテロ行為がいかに尊い行為なのか説明されていました。
これ、見方によってはISISの行為を称賛しているようにしか見えなかったです。
ブライアン・デ・パルマは生粋のアメリカ人ですし、そんなことはあり得ないですが、アメリカにヘイトを溜めているのかとも思うラストシーンでした。
別にテロの不毛さに対する警鐘にも見えませんし、一体どういう意図で入れたのか……



で、本作なぜここまで質が悪いのかというと、製作費が圧倒的に少ないからです。
780万ドル(約8億2700万円)という数字は、超低予算。邦画でも製作費に10億円出ている作品はありますからね。
近い製作費で作られた有名作を挙げるなら『リトル・ミス・サンシャイン』でしょうか。こちらは、800万ドル(約9億2000万円)で製作されました。 こうした肩身が狭い中で、苦肉の策としてあれやこれやと考えたかと思うと泣けてきます。
万が一、次に見る機会があったらそこら辺を意識しながらダメ出ししたいですね。



過去には「映像の魔術師」とまで呼ばれていたブライアン・デ・パルマ。 本作でもそうした、セリフなくして映像で語るシーンは多く見られました。 しかし、そのほとんどがスベッてしまっていたのは残念でなりません。 次の監督作では、しっかりとした製作費で挑んでほしいものですね。