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【レビュー】アングスト/不安(ネタバレあり)

どこの国にも歴史を紐解いていくと凶悪犯が潜んでいるものです。
アメリカのチャールズ・マンソン、イギリスの切り裂きジャック、フランスのジル・ド・レetc...
ある意味、その国を象徴するものともなっています。
そんな凶悪犯はオーストリアにも潜んでいました。
名前はヴェルナー・クニーセク。彼の犯行を追った作品が、今回レビューする『アングスト/不安』です。

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感想

そもそもチラシやポスターを見てホラーだと思っていた本作。
蓋を開けてみればシリアルキラーの動向を追った作品で、面食らいました。
しかし、私はこうした作品は割と好き。
『ヘンリー』や『バニシング 消失』、『ハウス・ジャック・ビルト』、『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』など、いわゆるシリアルキラー視点のサスペンスというのは、彼らの狂った頭の中を垣間見た気になれます。(実話、フィクション問わず)
本作もそうしたジャンルに区分される作品でした。

そんな本作は、主人公Kが見知らぬ老婆に銃をぶっ放すシーンから始まります。
この頭のおかしい行動は、彼の狂気に対する好奇心を沸き上がらせるのに十分でした。
「これから先どんなことをしでかすんだ?」という、冒頭の掴みとしてバッチリな展開を見せていました。

そんな本作で印象的であったのがカメラワーク。
Kを中心に捉えたハンディカメラのような揺れのある映像は、さながらドキュメンタリーのよう。
彼がどうしてシリアルキラーになったのか、子供時代を振り返りその原因を探求する辺りも実にドキュメンタリー風でした。

そしておそろしいのが、彼のことを知れば知るほど純粋な殺意しか持っていないのが分かることです。
自分がなぜシリアルキラーになったのかをモノローグで振り返ったりはしているのですが、あくまでそれは事実を並べ立てているだけ。
「母親たちのせいでこんな生き方しかできない!」とか「家族に愛されなかったから性格が歪んだんだ!」というような激情は特にありませんでした。
その理由は、作中(というかラストに)ナレーションが語っていたように罪の意識がなかったためです。
それを裏付けるように、作中でKが人を殺すのにためらったシーンは一度もなかったのが印象的。
殺しの能力に長けているわけではないKですが、その躊躇のない殺意は恐怖でしかなかったですね。



本作において、なにより怖いのがシリアルキラーであるハズのKに親近感が持ててしまうということ。 それもそのハズで、Kを中心に捉えたカメラワーク、彼がシリアルキラーになったいきさつの事細かな説明など、非常に近い距離で描いているんですね。 さらに彼は、作中で行われる殺人においてかなり多くのミスを犯します。 完璧な作戦を立てたつもりが失敗して、その尻拭いをすることになり、そのドタバタさをセリフもなく、映像だけで見せる――― それは、伝聞で知るよりもずっと人間味を感じてしまいます。 そうすると彼に肩入れしたくなってしまうんですね。「あーなにやってんだよもー!」と思わず言いたくなるほど。 最後の警察官が現れたシーンなんて、私自身は何もしていないのに、なぜか「ヤバいヤバい」と緊張してしまいました。それくらいKに対して感情移入していたわけです。 彼のやることなすことは狂気に満ちていて理解不能ですが(死体を次の被害者に見せようとしたり)、どこか嫌いになれない魅力があるというのは恐ろしいことでした。



シリアルキラーの一晩の狂気を描いていた本作。 まるで、監督自身がそこで全てを目撃していたのではないかと思うほどの再現度には目を見張るものがありました。 ジェラルド・カーグルが生涯唯一監督を務めたというのも納得の力の入った作品でした。