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【レビュー】スパニッシュ・プリズナー(ネタバレあり)

お金というのは人をも変えうる恐ろしいものです。
お金さえあればそれが動機となり人を裏切ることも珍しくありません。
そんなお金の怖さと人の汚さを描いたのが、今回レビューする『スパニッシュ・プリズナー』です。

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ストーリー

会社へ多大な利益をあげる数式"プロセス"を作りだしたジョー・ロスは、そのプレゼンテーションのため、カリブ海のリゾート、エステフェ島を訪れていた。
そこで偶然出会ったジミー・デルという男と親しくなる。
ジョーは、ニューヨークへ戻ったらジミーの妹を含め食事をする約束をした。
別れ際、ジミーはジョーに対して妹への贈り物を預ける。
その贈り物は一冊の本であり、そこには妹に対してジョーを薦める手紙が添えられていた。
ジミーに対する信頼感を高めていくジョーであったが、あることがきっかけで彼が詐欺師であることを疑うようになる。

感想

"亡命してきた男が、妹と財産を国から救い出すためと言って、救出資金を騙しとる"という話が由来である「スパニッシュ・プリズナー」(スペインの虜)
そんな逸話に負けない欲だらけな人間が、主人公ジョーを騙しまくるのが本作の見どころのひとつ。
この「スパニッシュ・プリズナー」の説明をするのもFBIに扮した詐欺師の一人というのですからひどい話です。

そんな本作は、カリブ海を臨む美しいリゾート地エステェフェ島から始まります。
このロケーション、再訪するシーンもないですし初めは「ニューヨークで始めてもいいんじゃないか?」と思っていました。
しかし最後まで見ると、金持ちが集まるこの地にジョーを置いたのはなかなか皮肉が効いていたと思います。
なぜなら周りは人を騙して金を得てきた成金ばかりですからね。
そこにプレゼンテーションで連れてこられたジョーは明らかに場違いで浮いていました。
しかも、周りは敵だらけ。出会う人、見るものすべてが敵によって誘導されていたことが分かると、このエステェフェ島での仕込みが本作の重要なシーンであったことが分かります。



本作は、突出して「面白い!」となる話ではないものの、こうした細かい仕込みがしっかりと描かれていた印象がありました。
例えば、ジョーが入れ替えた本に指紋が残っているような、何気ないシーンであっても後々伏線として回収されるような構成になっているんですね。
また、伏線のひとつとして、ニューヨークに進出している日本人が多いというものがあり、それが捜査官の隠れみのになっているというオチにつながっていました。
ジョーの"プロセス"を狙っているライバル企業として日本人が目の敵にされていたりと、なにかと日本要素が多いのは時代だからなのでしょうか?(本作は1997年の映画。この時期辺りから日本人が渡米して働くのがメジャーになってきていたイメージがあります)
どちらにしても、たびたび日本人が登場しては何か言われる光景は時代を感じさせました。

こうした仕込みが回収されていくのは本作の見どころのひとつなのですが、それらは悲しいことにほとんどジョーが騙されるシーンです。
友人と思っていたジミーは詐欺師で、助けを求めたFBIはジミーが仕込んだ偽物、唯一の友人は殺され、慰めてくれる秘書は金のためにジョーを死に追いやろうとしていたという救いのなさはただただ不憫でした。
最終的に悪人は捕まってめでたしめでたしなのですが、ジョーにはなんの利益も無し。人間不信に陥ってもおかしくないくらいでした。
とはいえ、ジョーが逆襲しようとする度に裏切られ、罠にはめられるのが本作の面白さでもあったのですから皮肉な話です。

そんな裏切りだらけのストーリーなのですが、それが成り立っていたのはジョーがお人よしであったからでした。
ジミーが「妹に会わせる」と言っておきながら三度も姿を見せずドタキャンされているのにその存在を信じていたり、ジミーが詐欺師だと感づいていながらも"プロセス"の本物を持っていってしまったりと、とにかく人がいいんですね。
騙されたと分かっても怒ったりせず「どうしてこんなひどい事を……」と、むしろその原因を知ろうとする人のよさ。秘書であったスーザンに泣き落としされれば同情しかけてしまいますし、まさに詐欺師のカモにされるようなタイプでした。
しかしそれがジョーに対して愚鈍でイラつくイメージを持たせるかといったらそうではありません。
なぜなら彼の人のよさは紳士的であるからです。
序盤のシーンだけでも、秘書のために飛行機のファーストクラスを取ってあげたり、約束をすっぽかされた挙句に悪口まで言われたのに許してしまうような紳士な態度を見せているんですね。
そこにキャンベル・スコット(ジョー役)の温和なイケメン演技が加わればもはや好印象しかありません。
本作の役柄にあったいいキャスティングであったと思います。



人を騙す人間ばかりの中に、人のいい主人公を置いていた本作。
ハラハラさせながらも煩わしさは感じさせない絶妙なキャラクターが面白さを引き立たせていました。