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【レビュー】フォロウィング(ネタバレあり)

どんな天才的な才能を持った人物であっても、必ずはじめの一歩というものがあります。 今回レビューする『フォロウィング』は、今では映画界の第一人者とも言えるクリストファー・ノーラン監督による長編初監督作品です。

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感想

超低予算で作られたこの作品。
そうした、限られた状況下でも面白い作品を作っていたのですからクリストファー・ノーランは侮れません。

ストーリーは端的に言えば、強盗コッブとそれを"フォロウィング"(追跡)する主人公ビルとの物語。
一見、ありがちなサスペンスのように思えますが、ノーラン特有の時系列の入れ替えによって本作はひと味もふた味も面白さが変化していました。
例えば、コッブとビルが仲良く(?)強盗をしていたかと思えば、次のシーンではボロボロになり、装いも変えたビルが一人で仕事を始めようとしているなど「どうしてそうなった?」という興味を常に引き続ける風呂敷の広げ方が巧みなんですね。
また、印象的なバーのドア(丸い窓が沢山ついている)であったり、ビルのケガであったりと、鑑賞している私たちにも時系列を推測できるのも上手いです。
そうした展開を通して、だんだんと登場人物たちの思惑が明らかになっていく楽しさ、それがもたらすどんでん返しの衝撃は、騙されたのに爽快さすら感じられます。
人物の動向に注目し、時系列を組み立て始めればもう作品から目を反らせない、そんな魅力がありましたね。



本作、面白さは然ることながら雰囲気も好みでした。
白黒の映像で行われる人と人の騙し合いは、フィルム・ノワールの作品を彷彿とさせます。(ノーラン監督自身、意識して作っていたらしいです)
ヒッチコック監督の作品を現代版で見ているかのような臨場感は、ある意味新感覚でした。



そんな本作、冒頭にも書いたように超低予算(6000ドル)で制作されています。 実は白黒であるのもそれが理由なんだとか。
こうした裏話については、DVD特典についているオーディオコメンタリー(本編時間70分間ノーラン監督が解説をしてくれるという豪華仕様)を見るとよく分かります。
照明が2,3台しかない中で自然光を上手く取り入れた話、撮影許可のない中で自然な街のシーンを撮影した話、エキストラがいないためモブに製作陣を紛れ込ませた話、ノーラン監督の両親の家を使用した話などなど、思わず「なるほど」と言いたくなる制作秘話は、本編と同じくらい面白かったですね。
もし、私が映画を作る機会があるとしたら(まったくそんな予定はありませんが)バイブルとして何度も見直したい内容でした。



今では多大な制作費で壮大な物語を作り上げるようになっているノーラン監督。
そんな彼が予算に追われ、苦節しながら制作したのが本作でした。
しかし、常に新たな発想を取り入れ、観客を驚かせようとする気概は、確実に作品を面白くしていたと思います。
こうした、映画への愛が今のクリストファー・ノーランを形成しているのでしょう。