【レビュー】メメント(ネタバレあり)
人生は不可逆的に時間が経過していきます。決して戻ることはありません。
そのため、映画でも多少の回想などはあったとしても、そのルールに縛られてしまいがちです。
しかし、何も絶対にそのルールを守る必要なんてありません。
今回レビューする『メメント』は、そんなルールに縛られない結末から始まりへ遡っていく作品です。
ストーリー
レナードはジョン・Gを殺して復讐を果たした。
その男は自らをテディと名乗っていたが、レナードが集めた情報では、彼の妻をレイプした末に殺した犯人の一人であることが判明していた。
その情報をレナードに渡したナタリーは、恋人を奪われた境遇が彼と同じであったことから協力を申し出たのだ。
しかし、レナードは新しい記憶を取り入れる度、直近の記憶が消えていく前向性健忘を患っていた。
彼の記憶をつかさどるのは、記憶が消える前に彼自身が残したメモであった。
感想
「クリストファー・ノーラン監督の傑作」と噂は聞いていましたが、なかなか見る機会のなかった本作。
本当に「すごい」としか言いようがありません。開いた口が塞がらないとはまさにこのことです。
ノーラン監督といえば「時間」をテーマにしていることは有名ですが、その中でも本作は群を抜いていると思いました。
だって「巻き戻し」ですからね。普通なら考えついても実行できないor一部のシーンだけで妥協するものです。
それを最初から最後までやるのですから凄いとしか言いようがありませんよ。
さらに凄いのが、ジョン・Gを殺した時間軸の巻き戻しの時間軸と並行して、冒頭に当たる部分も並行して進めていること。
つまり、ラストシーンが⑩だとすれば、⑩→①→⑨→②……といった感じで、冒頭のシーンへたどり着くようにしているんですね。
その区別もしっかりとつくようになっており、遡っていくシーンはカラーで、冒頭のシーンへ向かうシーンはモノクロで表現していました。(上の番号で表すなら⑩と⑨はカラー、①と②はモノクロといった感じ)
たしかに初見では混乱しますし、難解と呼ばれるのも分かりますが、それがつながった時の快感は想像を絶するもの。
こうした観客にも考えさせ、謎を解かせようとするのが本作の面白さのひとつだったと言えるでしょう。
本作の時系列がバラバラでも受け入れられるのはひとえにレナードが記憶障害を患っているためです。
冒頭からジョン・Gに対する復讐を果たしたものの、その過程は一切覚えていないというのは、記憶を保持していたら成立しない話ですからね。
テディにしてもナタリーにしても基本的に、レナードの記憶障害を都合よく使っていた辺りが、人間の嫌な本性を見せているようでした。
とはいえ、レナード自身も記憶障害を逆手どって復讐を生きがいとしていたのですから業が深いです。
それが判明するストーリーのスタート地点が、同時にオチにもなっているという構成は設定を生かした驚きの展開でした。
そして、ここでも言えるのが観客に対するアプローチです。
突然、ラストシーンから始まりちんぷんかんぷんになるわけですが、その感覚はレナード自身が味わっている感覚そのもの。
同じ感覚を体感しながら、だんだんとレナードのことを知っていく流れは、彼に感情移入せずにはいられませんでしたね。
それだけに、彼自身が自らを裏切っていたという展開にも、同じようにショックを受けました。
ラストのオチにふさわしいインパクトは、私たち観客に向けてのアプローチがあったからこそだと言えるでしょう。
こうした観客へのアプローチ……というより、個人的に取っつきやすかったのは登場人物の分かりやすさでした。
本作、主な登場人物はレナード、テディ、ナタリーの3人しかいません。
さらに、彼らの個性は強く、レナードには体中に大量の刺青が、テディにはメガネに口ひげ、ナタリーには初登場時に顔に大きなアザ(あと作品の紅一点)と、それぞれに特徴があります。
それだけに、逆行する物語であっても人物を追いやすいという利点があったんですね。
レナードとナタリーにしては、その特徴(刺青とアザ)がなぜ刻まれたかについての理由がストーリーの一部となっているのですから面白いです。
視覚的に登場人物の特徴を掴みやすくなっており、3人を中心にストーリーを展開(逆行するので収束?)するスッキリとまとまった人間関係は、困惑することなく見れました。
時系列トリックを巧みに利用した実にクリストファー・ノーランらしいアプローチで作られていた本作。
今でこそ、万人受けするような見栄え重視の作品が多いですが、本作のようなやりたいことをやりたいようにやった作品もまた見てみたいものですね。