スキマ時間 DE 映画レビュー

【レビュー】バットマン ビギンズ(ネタバレあり)

どんな物語にも始まりというものはあります。
どん底からの始まり、普通の始まり、恵まれた始まり、どんな始まりにしてもそれがあるからこそ、げんざいや未来があるのです。
今回レビューする『バットマン ビギンズ』は、バットマンの始まりをクリストファー・ノーラン監督が手掛けた作品です。

f:id:sparetime-moviereview:20200913025936j:plain

ストーリー

悪のはびこる町、ゴッサムシティ。
ブルース・ウェインは幼い頃、強盗により目の前で両親を殺された。
14年後、犯人が釈放されるの聞いたブルースは彼を殺すために待ち構えていたが、マフィアであるファルコーニに先を越されてしまう。
両親が殺されたのは、ファルコーニが街の治安を下げていたためだと知ったブルースは彼を潰そうとするが、裏の世界を知らない彼には手も足もでなかった。
そこで彼は、裏の世界を知るために旅立ち、チベットの奥地でラーズ・アル・グール率いる"影の同盟"のメンバーとなった。
しかし、ラーズがゴッサムシティの腐敗を除去するため、一度街を破壊する計画を立てていることを知る。

感想

ノーラン版『バットマン』3部作の文字通り「ビギンズ」(始まり)である本作。
お馴染みブルース・ウェインが薄汚れた姿で刑務所にいるというスタートは「???」となりました。
そんな疑問はノーラン監督作ではお約束と言っても過言ではない時系列の入れ換えによって説明されていきます。
そこまでの説明についてはあらすじに書いた通りなので割愛。
いくら始まりの物語とはいえ、よく「ヒマラヤ山脈に拠点を構える忍者集団にブルースが鍛えられる」なんてストーリーを入れたと思いますよ。
しかも、40分くらい時間を掛けて。

しかし、演出の妙があってなのか不思議と退屈には感じないんですよね。
チベットの刑務所にいるブルース→なぜ?→時系列巻き戻し」といった感じで興味を引き続けたのが理由なのかもしれません。
また、慣れ親しまれてきたブルースのキャラクターやヘンリー(リーアム・ニーソン)のミステリアスさなども飽きが来ない利点でした。
なんにせよ、この冒頭の"影の同盟"がラストに掛けて重要になってくるだけに、話に引き込まれる展開となっていたのは良かったですね。



ブルースがゴッサムシティに帰ってからは見ごたえ十分な楽しい時間でした。
屋敷の地下に秘密基地を作ったり、正体がバレないように執事のアルフレッドと思案したり、軍用に作られていたスーツをバットマン仕様に作り替えたりなどなど、バットマンが形になるまでを描いた流れはワクワクしました。
警察に追いかけられてケガを負ってしまうようなミスがあったりするのも、始まりの物語ならでは。
それらをトライ&エラーでスーツの改良、あるいは秘密兵器の追加で対応していくのも見ていて楽しい展開でした。



そんなバットマンが遭遇する敵がスケアクロウでした。
やっていることは小物なのにキリアン・マーフィーが演じているというだけでバットマンと対等に戦えるボスっぽくなるからすごいです。
一度目は不意討ちで勝てても二度目は自分のクスリを浴びせられて発狂しちゃうのですからざまあないですけどね。
とはいえ、嫌らしい敵として程よい活躍を見せてくれていました。

で、真の敵となるのは、本物のラーズ・アル・グールリーアム・ニーソン)です。
ぶっちゃけここはすごい戦闘シーンがあるわけでもなく、単純な殴り合いが主でした。
しかし、彼と戦う2回共(ブルース邸と電車内)、時間制限や周りに気を配らなくてはいけない状況で非常に緊迫感があるんですね。
ただの殴り合いでも格落ち感がないのは、キャラクターへの愛が感じられました。



このキャラクター愛も本作は素晴らしかったです。
特に良かったのが、ブルースの執事アルフレッド。
お茶目でユーモアたっぷり、ブルースの一番の理解者でここぞという時に適格なアドバイスを出す有能さは見ていても好感が持てます。
演じるマイケル・ケインの演技がまた素晴らしく、作品に欠かせない人物でした。

もう一人、ゲイリー・オールドマン演じるゴードン警部もいい味を出していました。
敵か味方かも分からないバットマンの行動に困惑しながらも、正義のために行動を起こす熱血漢っぷりはカッコいいです。
バットモービルで高架を破壊するというコミカルながらも重要な役割も担っており、バットマンのよきサポーターとなっていました。
口ひげ、メガネ、オールバックという見た目も特徴的で、シリーズを通してみてもゴードン=ゲイリーなイメージがすっかりついてしまう魅力だったと思います。

キャラクターへ魅力を持たせつつ、原作コミックへのリスペクトも忘れない描き方は、面白さ以上に感心させられました。



そうした中で、もっともオリジナリティを感じられたのが「ビギンズ」に対するアプローチでした。
本作、始まりの物語と言いつつも、ブルースの持っているものがほとんど全て失われているんですよね。
屋敷は燃え、富豪の仲間たちからは見捨てられ、父の作った鉄道は脱線するといった感じ。
けれど、それによってブルースをウェイン家のレールの上を行く七光りとしてではなく、ブルース・ウェイン個人としての始まりを踏み出しているように見受けられました。
バットマンとしての始まり、ブルース・ウェインとしての始まり、2つの意味で「ビギンズ」だったわけですね。



バットマンの始まりを描いていた本作。
今となっては続編の『ダークナイト』ざ注目されがちですが、本作があるからこそ続編成り立つのだということを忘れてはいけませんね。