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【レビュー】プレステージ(ネタバレあり)

マジックとはおそろしいものです。
タネがバレてしまえばそのマジックは2度と使えませんし、もしバレなくても何度もやっていれば飽きられてしまいます。
そうなると、自ずと見栄えがよい派手なマジックが必要となり、時にはリスクも負わなくてはなりません。
そんなマジシャンたちの苦悩と危険を二人のマジシャンの関係を通して描いたのが、今回レビューする『プレステージ』です。

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ストーリー

19世紀末のロンドン。
1人のマジシャン、ロバート・アンジャーは命を落とし、もう1人のマジシャン、アルフレッド・ボーデンは容疑者として逮捕された。
ボーデンに下された判決は絞首刑であった。
アンジャーが瞬間移動マジックの最中に死亡したことから、同じく瞬間移動マジックを目玉としていたボーデンは、タネを明かすことで判決を覆せる可能性もあったが彼はそれを拒否した。
彼らの間になにがあったのか、その確執は数年前に遡る。

感想

バットマン ビギンズ』(2005)と『ダークナイト』(2008)の間に挟まれる形で公開された本作。(2006年公開)
それだけに、演出や話の盛り上げ方なんかも、だいぶ手慣れた感があるのが印象的です。
そんな物語の始まりは、『バットマン ビギンズ』ですっかりお気に入りになったマイケル・ケインの語りから始まります。
その内容は、マジックの三段階「確認(プレッジ)」、「展開(ターン)」、「偉業(プレステージ)」の説明。
正直、この段階から「???」なわけなのですが、映画のタイトルにもなっている「プレステージ」というワードが出てくるだけでも忘れてはいけない大事な話だということだけは分かりました。
題名が『イリュージョンVS』なんてふざけた題名じゃなくて良かった!(公開前はこのタイトルの予定だったらしいです)

そうして本編に入るわけなのですが、驚きなのがいきなりヒュー・ジャックマン(アンジャー)が死んでしまう事。
クリスチャン・ベール(ボーデン)が唖然としていましたが、唖然としたいのはこちらの方です。
とはいえ、これはノーラン作品。毎度のごとく時系列が複雑に入り組んでおり、物語は二人の過去の話へ。当然、ヒューも生きています。



ここで、面白いのがマジシャンの攻防です。
水中マジックで妻を失ったアンジャーが、ボーデンに疑惑(縄抜けの縄を2重結びにしたのではないか)を向けていることからかつて仲間だった二人は敵対関係に。
アンジャーがボーデンの「銃弾つかみ」のマジックに細工をして指を吹っ飛ばすエゲつない復讐から始まる攻防は、端から見る分には面白いです。
ボーデンが大観衆の前でアンジャーの瞬間移動マジックを嘲笑したり、アンジャーがボーデンのパートナーであるファロンを生き埋めにしたりと、だんだんやることがエスカレートしていくのは、冒頭の事件に至るまでの二人の確執が紐解かれていくようでした。

こうした人間関係のこじれがある一方で、マジシャンの苦闘が見られるのがまた楽しめました。
例えば、それまで鳩を机の下に潰して押し込む(殺す)という形で成立させていた鳩が消えるマジックを、服の下にゲージを瞬時に収納する機材を作ることで殺さず成立させるという進歩は興味深かったです。(結局ボーデンの妨害で鳩は殺されちゃうのが悲しい)
19世紀後半のマジシャンたちがあの手この手でマジックを思いつき、より良いものに発展させていこうとする姿勢には、感心させられました。

そうしたマジックに革命を起こすのが、ニコラ・テスラでした。
電撃の中から登場するシーンから超カッコイイ彼を演じたのは、デヴィッド・ボウイ
作品の鍵を握るミステリアスな人物として、ボウイのシンガー兼俳優という異色な立ち位置が合っていたと思います。
おそらく、みなさんご存じの通りニコラ・テスラは実在した人物。エジソンとの確執も有名です。
しかし、本作ではオカルト染みた研究をしており、実際に「物質を増やす装置」を発明してしまいます。エジソンもびっくり仰天です。

それを使ってアンジャーは、自分を増やす→殺すを繰り返すことで瞬間移動マジックを成立させるわけなのですが、これの理屈を考えると本当に怖い。
たしかにアンジャーという人物も思想も魂も現実に存在しているのですが、コピー元のアンジャーは死んでいるわけで……
アンジャー自身も語っていましたが、自分が死ぬアンジャーなのか、それとも現れるアンジャーなのか、想像しただけでも頭がおかしくなりそうです。
「そこまでするか!?」と思えるような犠牲さえ払う辺り、マジシャンとしての誇りが感じられました。

そんな誇りはボーデンにもありました。 彼は瞬間移動のトリックに双子を用いていました。
ボーデンのパートナーであったファロンが実は変装していたんですね。
そして、おそろしいのがボーデン=ファロンを悟られないために指を切り落としていたこと。(アンジャーによってボーデンの指が吹き飛ばされていたため)
いったいどんな覚悟があればそんなことが出来るのか……
お互いに妻サラ、助手オリヴィアとの人生を犠牲にしていますし、アンジャーに劣らない自己犠牲をしていました。



双子トリックはラストシーンで衝撃の事実という形で明らかにされますが、おそらく気づく人は多いハズ。(私も途中から薄々気づきました)
ただ、これは記憶力のいい人ほど騙されやすいトリックだとも思いました。
というのも、細かい点を突き詰めていくと、ボーデン=ファロンというのはなかなか成立しづらいからです。
例えば、指。ボーデンはアンジャーのせいで指を吹き飛ばされますがファロンは五指揃っています。
そしてその点は、瞬間移動マジックの解説で「替え玉は使っていない」とミスリードもされていました。
まさか指を詰めているなんて想像もできませんし、これらの事実を覚えている人ほど騙されたのではないかと思います。



このラストシーンのどんでん返しからも分かりますが、本作はアンジャーとボーデンの攻防を描きつつ、鑑賞する私たちにアプローチを掛けたノーラン流のマジックになっているように思えました。

アンジャーが死にボーデンが容疑者として捕まったという「確認(プレッジ)」 実はアンジャーが生きており、彼にマウントを取り続けていたボーデンは娘まで取られる逆転を食らう「展開(ターン)」 死んだボーデンと現れたファロンが双子だった事実の明かされる「偉業(プレステージ)」
こうして、マジック三段階に作品の構成を当てはめることが出来ることからも狙って作っているのではないかと考えられます。
「人は見たいものしか見ない」というセリフで締めるのは、表面上だけ見ればボーデンの目論見が成功し、ファロンが娘を助けたというハッピーエンドを指しているのではないかと。綺麗な終わりに思えても結果アンジャーもボーデンも死んでいる事実は変わらないわけですからね。
ラストシーンに死んでいった、たくさんのアンジャーを映すのは「誰も消える者など気にしない」という作中のセリフをより印象付けさせるかのようでもありました。
アンジャーに対してでもボーデンに対してでもないミスリードなんかを取り入れている辺り、私たち観客に向けて作られていることは事実だと思いますね。(ノーラン監督はやたらと観客を巻き込む作風にしていますし)

ド派手な演出で見る者を魅了し、楽しませてくれた本作。
俳優たちの演技力も相まって、質の高い内容となっていました。
まるで、マジックを見たような体験には終わったあとに拍手を送りたくなりましたね。