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【レビュー】TENET テネット(ネタバレあり)

時間は不可逆的に進んでいくもの。それが世界のルールです。

もし、そのルールを無視して時間を戻すことができたなら、必ずどこかで異常が発生するでしょう。

今回レビューする『TENET テネット』は、そんな禁忌が巻き起こす最悪なシナリオを止めるため奔走する者たちの物語です。



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ストーリー

CIA工作員である男は、オペラハウスでの任務中、ロシア人に正体を見破られたことから自殺用のピルを使用する。

しかし、それはある組織の入団テストのために作られた偽物であった。

男は"TENET"という合言葉と共にある任務を託される。

その任務とは、未来に起きるであろう第三次世界大戦以上の災厄を止めることであった。

感想

鑑賞前から既に「1回見ただけでは分からない」とか「複数回見るのが前提」だのと色々な噂を聞いていました。

ノーラン監督作を全部見ていた私は「おいおい皆予習が足りないんじゃないの?」と余裕を噛ましていましたが、うん、1回見ただけでは分かりませんね。
まだ序盤はいいんです。

オシャレなスーツを着て、イギリス人諜報員(ノーランお気に入りのマイケル・ケイン)と、小粋なトークを交わしつつ情報交換をしたりする「007」染みたスパイ物語が展開される複雑ながらも理解できる内容でした予想不可能な展開に入り込むのは後半から。

ケネス・ブラナー演じるセイターが何やら変な話し方("逆行"しながらの話し方)をしたかと思ったら回転扉に入って消えて、再び出てきて……もう訳が分かりません。

けれど、時間は不可逆。あれよあれよという間に物語は進行して行ってジョン・デヴィッド・ワシントン演じる「主人公」が逆行の世界に。

なるほどこれがやりたかったかノーラン監督!

そう思わざるを得ない、見事な"逆行"の世界を表現していました。

後ろに進む鳥たち、逆に吹く風、戻っていく水たまりの波紋……たったの数秒で見ている者の興味と想像力を焚きつける映像表現はさすがノーラン監督でした。

その後も、分からない点がチラホラ見られるものの、前半では謎に包まれていた逆行者の挙動の辻褄があっていくのが面白いです。

横転していた車も、戦っていた謎の人物も全て自分だったという展開は、時間を弄る作品ではお約束の展開。

でも、そこに"逆行"の表現がアクセントとして加わるだけでも面白いのですから発想の勝利と言えるでしょう。







今しがた「時間を弄る作品」という表現を使いましたが、本作でユニークなのが、この"逆行"はタイムリープではないという事。

作中、「主人公」たちは平気で数日間"逆行"していましたが(演出としてもあっさりと目的の日付まで遡っていましたが)、これはなかなかに大変に思えます。

例えば、3日間遡ろうと思ったら3日間"逆行"の世界にいないといけないわけですからね。

作中では、"逆行"用の施設なんかも整っていて過ごしやすそうでしたが、もしこれが個人的にだったらと思うと……

そうして考えると(おそらく)早い段階から長期間遡ってきたであろうニールの精神力は凄いですね。



で、"逆行"の設定でもうひとつユニークなのが、"逆行"を行うと必ず世界にもう一人の自分が生まれてしまうことです。

作中で「青い部屋("逆行"の部屋)から出た時に赤い部屋("順行"の部屋)へ入っていく("逆行"視点からすれば出ていく)自分の姿が見えないと外に出たらダメ」という説明があることからも、もう一人の自分が生まれてしまうことは避けられません。。

これ、考えるともの凄いヤバいことだと思います。

なぜなら"順行"に戻す→"逆行"にするを繰り返していけば、実質複製機となってしまうわけですから。(この辺りは同監督作の『プレステージ』を思い起こさせました)

ニールが同時期に二つの場所に居合わせたりもしていたことから、遭遇さえしなけれ問題はないことは明らかですが、もし同じ時間に過去の自分がいると考えると頭がおかしくなりそうです。

"テネット"入団のテスト(偽物ピル)では、そうした精神力も見ているのかなと思ったりもしました。

以下、自分なりの解釈をまとめてみました。(間違いがあったら指摘いただけると助かります)





A→B(通常通りの時間の流れ、B地点到着時には体感時間で1時間経過)



"回転扉"に入り"逆行"の世界へ



B←A(電車内には巻き戻し状態の自分がいる。電車自体もバックで進む。A地点に戻った時は体感時間で2時間経過)



"回転扉"に入り"順行"の世界へ



A→B(この時、通常通りの時間の流れの自分(0時間~1時間)と"逆行"の自分(巻き戻し状態に見える)がいる状態となる。B地点に到着時には体感時間で3時間経過)



こうして、見ると"回転扉"に入る時点を超えると(上の例だと最初の自分がB地点に到着して"回転扉"に入るまで)を超えると自分の人数は1人に戻れるのかもしれません。(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマーティーがテロリストに追われて過去に戻る自分を見届けてその世界に合流したのと似た原理?)

なんにしても、自分と遭遇する確率をどんどん上げてしまうヤバい事をしていることには変わりありませんね。







本作は、複雑な設定もあることから複数回見るのが楽しいノーラン作品の中でも、トップクラスに複数回見るのが楽しい作品となっていました。

私は2回見たのですが、2回目のスッキリさがハンパじゃなかったです。

1回目の鑑賞時には気づけなかった(というか、"逆行"の設定を知らないと気づけない)要素があちこちに散りばめられていて「なるほど、ここはそういう意味だったのか!」という2回目にして謎が解けることが多々ありました。

初回を見終えた時には「なんか凄いものを見せられた」と呆然となったのが、2回目では「よく出来ていた!」と言い切れるくらいには楽しめました。

"逆行"に入る前から"逆行"を匂わせる粋な演出("バンジー跳び"や、前後に進む貨物電車など)なんかもあったりしましたし、DVDとBlu-rayが発売された暁には本編を逆再生するという楽しみ方もできそうです。

きっと3度目、4度目で新たに発見できるる要素もありそうですし、機会があればまだまだ見てみたいですね。

幸い、2D版、IMAX版、4DX版とバリエーションもあるため、エンターテイメントとしても退屈することはないでしょう。(個人的には、1回目を2D版でチンプンカンプンながらもそれなりに楽しんで、2回目をIMAX版で理解しながら映像と音響を堪能し、3回目を4DX版で体感しながら楽しむ、というのがベストなのかもしれません)







クリストファー・ノーラン監督史上最も難解であった本作。

しかし、キャラクターの魅力やストーリーの壮大さに注目すれば、分からないながらも楽しむことはできました。(2回見ればさらに楽しめました)

まさに「考えるな、感じろ」を地で行く作品であったと言えますね。