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【レビュー】デジャヴ(ネタバレあり)

目の前で起きたことがあたかも一度見たことがあるように感じてしまう現象「デジャヴ」

一見すると意味がないように思える現象ですが、もしそれに意味があったとしたら……

そんな可能性を感じさせる作品が、今回レビューする『デジャヴ』です。



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ストーリー

2006年2月28日、謝肉祭の最終日。

ニューオリンズのカナルストリートで1隻のフェリーが爆発し、大勢の死傷者が出た。

ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)に所属するダグ・カーリンは捜査を開始し、やがて今回の爆発が偶発的なものではなく、人為的なテロであることを突き止めた。

その手腕を買われたダグは、FBI特別捜査班の助っ人として捜査に協力することになる。

その捜査方法は、彼らが有する"スノーホワイト"という未知の装置を用いて、4日と6時間前の不可逆的な映像を見るというものであった。

感想

タイムリープものの、クライムサスペンスというのは決して珍しくありません。

むしろ、映画なら王道というべきなのかも。

「より良い世界を作るために」という壮大さは映画らしい展開ではありますからね。

本作もそんな例に漏れず壮大なタイムリープものでした。

斬新だとすれば、そのタイムリープに至るまで。

本来、タイムリープものといったらその特性をフル活用し、なんなら複数回タイムリープする作品も珍しくはありません。

しかし、本作でそのタイムリープの話が出てくるのは終盤も終盤。打つ手が全てなくなった状況で、倫理にもとる選択肢として挙がる手段でした。

それもそのハズで、本作の題材はタイトルにもあるように「既視感(デジャヴ)」

一度見た風景に「あれ?これって前見なかったっけ?」となることこそがメインの題材でした。







そうして見ると、本作の「デジャヴ」に対するこだわりは素晴らしかったです。

例えば、本作のオリジナルな設定である"スノーホワイト"。

偶然の産物というなんともツッコミどころのある設定ではあるものの、きっかり4日と6時間前をリアルタイムで見ることができるというのは面白いです。

早送りも巻き戻しも出来ないため、過去に起こった事件が起きるのを待たなくてはならないというチグハグさが、「デジャヴ」の感覚を強めていました。

また、この"スノーホワイト"を応用し、遠隔用に改造したゴーグルを用いたカーチェイスもユニーク。

ゴーグルの故障を理由に片目は現在、片目は過去の映像を見せる連続したデジャヴ体験は、ダグと同じように奇妙な感覚に飲み込まれていくようでした。



そして終盤のフェリー救出です。

ここでようやくタイムリープ要素が展開されるわけなのですが、それが始まるまでに言われていたのが「巻き戻っても結末は変わらないのではないか」ということでした。つまり「起こることは起こる」ということですね。

それを前知識として知らされているだけに、ダグがいることで若干の変化があれど、冒頭のフェリー爆破までに見せられたのと似たアングルなんかもあって「あれ?結局失敗に向かってないか?」という不安が拭えませんでした。

先ほどのゴーグルなどの臨場感を通して得られたダグへの感情移入が、そのままラストシーンの緊迫感へとつながっていたのは良かったですね。






で、本作の最も面白い点は、ラストシーンにあります。

"スノーホワイト"を使って4日と6時間前……すなわちフェリー爆破事件当日に戻ってきたダグは、被害者でもあったクレアと共に犯人の思惑を阻止します。

けれど、ダグは爆死。彼に好意を抱いていたクレアは落胆していました。

そこへ現れたのが、その世界に元からいたダグです。つまりは、4日と6時間前のダグですね。

当然、クレアとは面識のない彼ですが、ラストシーンでなにかを思い出したかのような反応を見せて「いやまさか」となっていました。

この反応こそまさに「既視感(デジャヴ)」なわけですが、これが本作に様々な可能性を与えているんですよね。



本編中のダグがタイムリープをする。



ダグが行動を起こしたことで世界線が変わる。



タイムリープ先のダグが「既視感(デジャヴ)」を覚える。



この流れからも分かるように、ダグは同一人物ではあるものの物理的な接点はありません。

けれど、なぜか記憶が引き継がれている(気がする)わけです。



ここで、本編中のダグ(タイムリープ元)の行動を振り返ってみます。

彼は、やたらフェリー爆破事件の証拠をスムーズに集めていました。

これも「既視感(デジャヴ)」による影響ではないかと私は思いました。

単に有能なのもあるかもしれませんが、爆弾の破片や飛び散った薬品の軌道まで加味した場所を特定しているのは、かなり偶然も要します。

それをまるで知っているかのように探し当てるのは、何かしらの直感が働いていたからだと言えるでしょう。



もうひとつ「既視感(デジャヴ)」の影響を受けていたであろうことがクレアです。

ダグは面識もないクレアにやたら惹かれており、死んだ彼女に対してまるで生きているかのような愛を見せていました。

そもそも、命の危険がある言われているタイムリープをするのにも彼女のためが半分、フェリーの乗客たちのためが半分くらいのノリでしたし、一目惚れでそこまでやっていたとしたら正直異常だと思います。



ダグは"スノーホワイト"を使ってタイムリープをする際に、冗談交じりで「実は2度目かも」と言っていましたが、あながちそれは間違っていないのかも。

むしろ、3度目、4度目であっても驚かないくらいです。

でも自分の知らない自分が実は何度も死んでいるって考えると凄いおそろしい話ですね……







「既視感(デジャヴ)」がタイムリープによる影響によって得られる感覚という斬新な描き方をしていた本作。

"スノーホワイト"という装置があればあるいはあり得てしまう「もしも」の話だけに想像力を刺激される作品でした。