【レビュー】クロノス(ネタバレあり)
『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞(監督賞、作品賞)を受賞したギレルモ・デル・トロ。
彼の作風にはダークファンタジーに満ちた世界観というのがあります。
そんな彼の出発点となった作品が、今回レビューする『クロノス』です。
ストーリー
古物商を営む老人ヘススは、孫娘アウロラを大切にしながら日々を過ごしていた。ある日、彼は店に置いていた天使の像の中から金属機械"クロノス"を発見する。
それは1500年代から伝わる死を免れるための装置であった。
その事実を知らなかったヘススは、"クロノス"を使用してしまう。
それと同じ頃、"クロノス"を狙う男アンヘルが現れヘススは窮地に立たされる。
感想
近年のデルトロ作品『パシフィック・リム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』などと比べるとだいぶエンターテイメント性の下がる本作。けれど本作にはロマンがあります。
黄金に輝く金属機械"クロノス"が不死の力を与えるという設定は、それだけでもワクワクさせられました。
時折、"クロノス"内部で起きている機械の動きなんかも描写されているのもなんともロマンチックでした。
その本体は、人の血を利用して生き長らえる寄生虫という何とも不気味な存在ではありましたが、"クロノス"の機械部分だけでもアンティークとして欲しくなりましたね。
そんな、美しくも恐ろしい機械によって、老人ヘススが吸血鬼とされるのが本作のメインストーリー。
吸血鬼化した当初は、年齢よりも若返り生き生きとしていた老人が、やがて血に飢え、肌がボロボロになり、干からびてしまう醜さはなかなかにショッキングな光景でした。
しかも、唯一の利点である不死も痛みはあるし、体へのダメージはそのまま(ヘススが血を吸わなかったから?)という、なんとも救いのない話なのですからムゴいです。
死んだと思われて、傷口を縫合糸やスキンステープラーなどで適当に縫合された痛々しい姿はまるでフランケンシュタインの怪物のようでした。
しかし、そんな彼でも愛してくれるのが
孫娘のアウロラでした。
口数こそ少ないものの、常にヘススに寄り添っていてくれる健気さには心が暖かくなります。
彼がどれだけ醜くなろうとも拒絶しない愛の形は、それこそ『フランケンシュタイン』や『透明人間』、『ドラキュラ』といった往年のモンスター映画を彷彿とさせました。
そんなロマンや感動が強い本作ですが、エンタメ性を与えてくれていたのが、悪党アンヘルでした。
彼は、不死の力を欲する叔父の指令で動いているだけの人間なのですが、ヘススを執拗に追いかけ殺そうとするなど、ノリノリで行動しているヤバい男でした。
演じていたのは若かりし頃のロン・パールマン。
風貌といい性格といい悪党らしさ全開なキャラクターは彼にピッタリでした。
最初から最後まで悪党を貫き通していますが、この作品がただ設定だけが凝った作品とならなかったのは彼のおかげてあったと言えるでしょう。
美しくもダークな設定と、それによって運命を左右された人たちを描いていた本作。
人を選ぶ作品かとは思いますが、ギレルモ・デル・トロ監督の個性が最大限引き出されていた作品であったと思います。