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【レビュー】オー・パン・クぺ(ネタバレあり)

人は少なからず恋をするものです。

しかし、その全てが上手く行くなんてことはことはなく、むしろ悲惨な結末を迎えることの方が多いと言っても過言ではありません。

そんな悲惨な恋の結末をフランス流に描いたのが、今回レビューする『オー・パン・クぺ』です。(1967年の映画)



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ストーリー

恋人ジャンと付き合っていたジャンヌは突然彼に振られた。

彼への愛が冷めないジャンヌであったが、彼はその場に留まることを嫌い、行方を眩ました。

ジャンヌはそんな彼の事が忘れられず、生活の至るところで彼との思い出に浸るようになっていた。

ジャンが行方を眩ました先で命を落としていることも知らずに……

感想

ストーリーはほとんど上に書いた通りの内容。

恋人ジャンに振られた傷心のジャンヌが時折、思い出を振り返りつつ暮らす様が描かれているだけというなんとも感傷的な作品でした。

特徴的だとすればフランス映画らしい表現がそこかしこにあるということ。

ジャンヌが暮らす街並みであったり、風景であったりを写真のように切り取った幾つかのカットは「フランス映画的手法」と聞いたときにイメージする演出そのものでした。

さらに、セリフ回しもフランスだからかオシャレ。

ジャンヌの回想からジャンの失踪の動機が語られていくのですが、独特な語り口ということもあってか、凄く高尚な話をしている雰囲気が漂っていました。

ざっくりと私が受けた印象では「ジャンは周りに馴染めない幼少期を送り、そのまま大人となったことで一人でいることに安心感を覚えている」という感じなのでしょう。

なんにしても、かなり社会と自分との距離感に疲弊していたのは感じ取れました。

このような感じで、映像としても物語としても、油断していると眠気を誘ってしまいそうではありました。

現に、私が劇場で見た時には3人は確実に寝ている人がいました。



ただ、眠気を誘う=駄作かと言ったらもちろんそんなことはありません。

風景を静かに捉えた演出は、本作のテーマでもある「傷心のジャンヌが思い出に生きる」という退廃的な雰囲気を表現するのに効果的であったと言えますからね。

眠気を誘うのはあくまで、作風が切ないものであったからだと思います。



そして、本作最大の見所でもあるカラーと白黒との使い分けは、この作品のテーマをより印象づけていました。

ジャンが去り、空虚になってしまった現在のシーンを白黒に、幸せであった過去の回想シーンをカラーにした演出は美しくも儚い表現です。

同じロケーションにジャンヌを置いて、回想(カラーでジャンが隣にいる)→現在(白黒でジャンヌは一人)にパッと切り替えるような表現には感心しました。

視覚的にジャンヌの荒んだ心情が伝わってくるのは巧みな演出であったと思います。







そんな本作の結末は、劇的さなんてまるでない虚しいものでした。

ジャンが死んでいることは序盤で明かされているのですから当然と言えば当然です。

変化があったとすれば、時間を置くことで、ジャンヌがジャンの死を察したことくらいでしょう。

ラストシーンでは「思い出の中で生きられる?」というセリフを残していますし、パッと見なんだかバッドエンドのようにも思えました。

けれど、よくよく考えてみるとこれは立ち直る前兆とも考えられるような気がしました。

というのも、彼女はこの少し前に、周りからは気が狂ったと言われている老女に出会います。

彼女は息子も娘も側に居ない孤独な状態で思い出の中に生きていました。

それを見た後にジャンヌは「思い出の中で生きられる?」というセリフを吐きます。

それは、老女を反面教師として立ち直ろうとしているように私には思えました。

バッドエンドでないことを前提とした見方なので、実際はどうかは分かりませんが……

もう一回見てみたいですが、古い作品だけに見るチャンスすらほとんどないのが残念でなりません。(今回、鑑賞したのは近くの劇場でたまたまやっていたため)

どちらの解釈にしても、本作が与えてくれるのは生きる希望ではありません。(既にジャンは死んでおり、希望なんてありませんから)

けれど「なぜ生きるのか」ということを考えさせるテーマは見終わった後にも心に残る内容でした。







面白いか否かよりも、その美しい表現に酔いしれることこそが作品の魅力であった本作。

けれど、恋愛はいついかなる時代でも通じるテーマでもあります。

癖の強い映画でありながらも不思議と惹き付けられたのはそうした人間の本質を描いていたからなのかもしれませんね。