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【レビュー】ダーク・スター(ネタバレあり)

宇宙にはロマンがあります。

無重力、未知の惑星、未知の生物、未知の現象、etc...

地球では起こりえないことを想像することで人類はロマンを追い求めてきました。

映画監督であるジョン・カーペンターもその内のひとり。

宇宙への果てなき想像力を働かせ、一作の宇宙SF映画を作りました。

それが今回レビューする『ダークスター』です。

彼の初監督作品となります。



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ストーリー

銀河を航行中の宇宙船ダーク・スター号。

そのクルー、ピンバック、ドゥーリトル、ボイラー、タルビーの4人は、惑星の周回軌道から逸れた不安定惑星を破壊して回るミッションに取り組んでいた。

ある日、ヴェール星雲に不安定惑星があることを検知したクルーはその場所へ向かう。

しかしその道中、磁気嵐に遭遇してしまい、宇宙船のシステムは異常をきたし始める。

感想

冒頭にも書いたように、数々のカルト映画を生み出してきたジョン・カーペンターによる鮮烈なデビュー作。いや、鮮烈過ぎなデビュー作と言うべきなのかも。

斬新な設定とユニークな世界観、奇抜なストーリーと、おそらく当時のカーペンター監督がやりたいと思ったであろうことを詰め込んだような内容は、驚きの連続でした。

そんな本作は、地球からダーク・スターへの通信から始まります。

そこから判明するのは地上との通信に大幅なラグがあること、ダーク・スターの船長が命を落としていることでした。

ここだけ見ると、いかにもシリアスな内容っぽいですが、本作の路線としてはコメディ系です。

作中内の設定を生かした、シュールな展開によるギャグは、非常にユニークで見ごたえがありました。

中でも、ピンバックが対峙するペットのエイリアンとの駆け引きはシリアスなのに笑えます。

そもそもエイリアンの見た目がビーチボールのような姿なのですから、それが襲い掛かってきてもどこか引き締まらない構図となるのは必然だと言えるでしょう。

それを相手どるピンバックも箒で叩いたり、足蹴にしたりとなんとも締まらない戦いを繰り広げていました。

その締めは爆発オチとなるのですからコメディとして完成度の高い展開を見せていたのは言うまでもありません。

ジョアキーノ・ロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」の音楽と共に、エレベーターの床に挟まったピンバックのもがく様子を映すという芸術的な演出含め、よく出来ていました。



とはいえ、ピンバック自身にとっては全てが命がけ。

キモかわいいエイリアンではありましたが、隙あらば人間にとって代わろうとするのは『エイリアン』(1979)の走りとも言えるでしょう。(本作は1974年の作品)







このように、本作は一見コミカルな内容なのですが、今の時代でも使われるようなSF要素を取り入れていたのが印象的でした。

特に凄かったのが爆弾とのやり取り。

本作では特に説明もされていませんが、どうやら不安定な惑星を破壊する爆弾に人工知能が搭載されているようでした。

コイツがなかなかに癖のあるやつで、誤送信された命令であっても「命令出たから発射します」と言って命令取り消しを聞かなかったり、ようやく引き下がったかと思ったら「今回で最後ですからね」となんだか不満気な調子で言ったりと、やたら人間味溢れる性格をしていました。

そんな性格なために、本作最大の危機も切り離せない爆弾に中止を交渉するという想像だにしない展開でした。

しかも、その交渉方法が「認識した命令はあくまで現象である」という現象論を用いたものなのですから驚きです。

爆弾が自身の存在を証明するのに「我思う故に我あり」と答えるユーモアは笑えました。



この爆弾しかりですが、本作は宇宙船のクルー4人以外にも個性的なキャラクターがいるんですね。

例えば、クルーたちを支えるメインシステムの人工知能(女性の声)であったり、冷凍保存され意識だけとなってしまった船長であったりです。

姿形なんてほぼないに等しいキャラクターなのですが、存在感としては圧倒的。
こうした、キャラクターのユーモラスさもまた作品の魅力のひとつであったと言えるでしょう。



そんな本作のラストは、ピンバック、ボイラーが爆死し、タルビーが流星群に拐われ、ドゥーリトルがサーフィンするという奇抜なものでした。

本当にどうしてそうなったと言いたくなるような展開です。

面白いのが一応伏線はあるということ。

タルビーがフェニックス流星群に見ることを望んでいたり、ドゥーリトルがサーフィンができていた地球時代を懐かしんだりする描写はありましたが、まさかそれが回収されようとは思いもしませんでした。

とはいえ、そうした伏線があったことにより、少なくともこの二人の死はポジティブであったのが良かったですね。

死=絶望のイメージをロマンに満ち溢れたものとすることでむしろ希望にすら感じさせるラストは、素晴らしいユーモアセンスだったと思います。



他にも、程よくチープな宇宙描写が作風とあっていたり、カーペンター監督自身が作曲したシンセウェイヴな音楽(本作のテーマ曲ベンソン・アリゾナも含め)が素敵だったりと見所は満載。

カルト映画として長く愛されているのも納得の面白さを常に感じさせてくれていました。







ジョン・カーペンター監督のデビュー作であった本作。

各所にちりばめられた斬新な遊び心は素晴らしいの一言につきます。

多くのファンがついたのも頷ける鮮烈な作品でした。