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【レビュー】好きにならずにいられない(ネタバレあり)

人はふとした瞬間に恋に落ちます。

そこに偶然とか必然とか理屈的なものはなく、言い表すなら"運命"なのだと言えるでしょう。

そんな抗いがたい純粋な恋心をタイトルに冠した映画が、今回レビューする『好きにならずにいられない』です。



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ストーリー

冴えない43歳の中年男フーシは、母親と暮らし、母親の恋人に疎まれ、職場で虐められるという生活を送っていた。

楽しみといえばミニチュアを用いて第二次世界対戦の再現をすることであった。

そんなある日、母親とその恋人の薦めでダンスレッスンに参加することになったフーシは一人の女性シェヴンと出会う。

感想

"好きにならずにいられない"(can't help falling in love with you)

エルヴィス・プレスリーの曲にそんなのがあったなぁ」と前々から気になっていた本作。

原題は『Fúsi』

本作の主人公の名前であり、それだけでも彼とその周りの人々の物語であることが分かるタイトルとなっています。

けれど、それは見てみなくては分からないこと。

私のような惹かれ方をする人間もいるわけで……

本作の内容にもピッタリと合致した邦題は上手くできているなという思いでした。







本編ではあらすじにも書いているように、本作ではフーシの恋愛模様が描かれています。

驚きなのは主人公が43歳までろくな恋愛経験をしたことがないというハンデを背負っていたことです。

それどころか人付き合いも悪く、初っ端から人生を諦めてしまっているかのようなフーシに「おいおい大丈夫か?」と心配せずにはいられませんでした。



しかし、それがフーシの魅力でもありました。

好きになった女性シェヴンのために、少しずつ自分を変えていく努力をするんですね。

とはいえ、急に明るくなったり急激に痩せたりなんてことは無く、ありのままの自分でシェヴンにアタックしていきます。ここがまた良かったです。

180度性格も容姿も変わってしまうコメディライクな映画も面白いっちゃ面白いのですが、それはあくまでもフィクションとしての面白さ。そこまで強く共感はできません。

けれど、本作のフーシは自分の境遇も容姿も性格も一切飾らないんですね。

それでありながら、シェヴンの心を掴む優しさを見せるのですから素敵だと思います。

根っからのお人よしさと、好きになった女性には尽くす姿勢は、純愛と呼ぶしかない一途さ。

だからこそ彼に共感し、その恋路を応援したくなったのだと思います。



けれど、周りからすれば未婚で身なりも整えていない43歳の男が、純粋な心を持ったお人よしだなんて知るよしもありません。

そんな偏見によって傷つけられる彼の姿はなかなかに痛々しいです。

そうした境遇に彼が表立って悲嘆することはありませんでしたが、それがまた悲嘆することが無駄であることをこれまでの人生で知ってきたかのようでますます切なかったですね。



シェヴンの鬱描写は、そうしたフーシとの共通点を表しているかのようでした。

これまで、多くの人間からレッテルを貼られ我慢してきたフーシが、同じ境遇に陥っているシェヴンを支えようとする姿は心にくるものがありました。

どこの世界に一度自分をフッた女性の代わりに仕事をする人間がいるのか……

けれど、それを迷いなくやるのですからフーシはすごいやつです。

苦しみを知っているからこそ、多少強引であろうとも近くに居続けようとする男気には、見た目なんて関係ない魅力を感じられました。







けれど、そんなフーシの努力が身を結ばず、二人の距離が少し開いてしまうのが本作のラストでした。

ここでは鬱の根深さを感じさせ、なんとなく二人が疎遠になってしまった感じに見られましたが、よくよく考えると悪くはない幕引きであったようにも思えます。

というのも、これまでフーシは同じ町で同じ仕事を母親と共依存(どたらも自分がいなくてはダメだと思っている状態)を保っていました。

そんな彼が初めて外に飛び立ったのがラストシーンです。

ここにシェヴンがいれば完璧なように思えますがその場合、フーシの共依存の相手が母親からシェヴンに代わっただけになってしまいます。

帰ってきたフーシとシェヴンの関係がどうなろうとも、彼の独り立ちは必ずプラス方向に向くでしょう。

そうした意味でも本作のラストは秀逸であったと思います。



本作はこうした、フーシの今後を想像させるのが上手かったと思います。

そう思ったのは、フーシが関係した人々との関係が悪くなったままであったからです。

仲良くなった近所の少女とは誘拐未遂の容疑で疎遠になってそのままですし、職場の若者とはパーティーで喧嘩別れしたまま、母親とは家を出て行くことを告げて以降登場しないという、なんだか気になる引きを見せていました。

それはひとえにエジプト旅行から戻ってきたフーシがそのあとに彼らとの関係を清算するからではないかと思います。

そこはあくまで個人的な見解ではありますが、なんだか意図的なものを感じさせていました。

彼らが再会する機会があればどのようなドラマを生み出すのか(あるいは描かれていないだけでどんなドラマがあったのか)、そうした想像をさせるストーリーは、よりフーシへの感情移入をさせてくれるものでした。







一人の中年男フーシの恋路を描いていた本作。

彼にフォーカスしたストーリーは、感情移入するのに十分な魅力を感じさせていました。

まさに彼を「好きにならずにいられない」ような作品でした。