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【レビュー】リトル・フォレスト 春夏秋冬(ネタバレあり)

ものを食べること。それは人にとって欠かすことのできない行為です。

栄養を取ることができれば美味しい、不味いは関係ありません。

けれど、せっかく食べるのならば美味しいものの方がいいですよね。

そんな食の大切さを故郷の尊さと共に描いたのが、今回レビューする『リトル・フォレスト 春夏秋冬』です。



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ストーリー

教員を目指しソウルへ上京をしていたヘウォンは、教職員試験に失敗したことから故郷である田舎村ミソンへと戻ってきた。

そこで女友達ウンスクや男友達ジェハと再会する。

ウンスクは、生まれてからずっと村内にいていつか都会で暮らすことを夢見ていた。

ジェハは、都会で会社員として働いていたが、仕事を辞めて故郷にであるミソン村へ戻り農業を始めていた。

そんな二人と共に過ごすことで、ヘウォンは自身の生き方を見直す。

感想

映画はその国の文化を伝えるのにうってつけなものだと思います。

視覚的に情報を仕入れることができますし、ストーリーがあることで楽しみながら見ることができますからね。

本作は、その中でも韓国の食文化を色濃く見せていました。



で、これが凄くいい感じなんですね。

本作はもともと日本のコミックが原作となっているらしく、日本では2部作構成として映画化もされています。

そちらの内容は見ていないのでよく分からないのですが、少なくとも本作は韓国の文化を程よく取り入れていました。

例えば、ヘウォンが返ってきた初日には韓国風のスープ(トッポギ入り)を作っていたり、ウンスクが失恋した時には激辛料理スンドゥブ(たぶん)を作っていました。飲み会をする際にはマッコリを醸造するなど、韓国らしい料理が作られるのはおそらく韓国制作の映画ならではの要素であったと思います。



もちろん韓国以外の料理も作られており、キャベツの天ぷらやら玉ねぎの詰め物っぽいもの、ジャガイモパンなど、野菜を使った料理が印象的。

素材をそのまま食べるシーンなんかもあって、農業の素晴らしさを映像を通して伝えていました。

でも一番美味しそうに見えたのはパスタに花を散らしたものでした。(料理名は紹介されないのでよく分かりません)

オシャレかつ食べられるという見てよし食べてよしな料理には興味をそそられました。



また、これらの料理は調理する過程も描かれていて、料理をする楽しさなんかも伝えています。

そこでヘウォンに大きな影響を与えていたのが母親でした。

突然、家からいなくなった母親に釈然としない思いを抱いているヘウォンではありましたが、彼女が作る料理はすべて母親譲りであることからもそこに愛があることが見てとれました。

ヘウォンの母親のセリフに「料理は心を映す鏡」というのがありましたが、ヘウォンが料理を楽しんでいることが常に感じられるのがすべてのように思えましたね。







ちょうど鑑賞したのがご飯前だったからか、料理シーンが特に印象に残った本作ですが、あくまで本作のメインテーマはヘウォンが田舎の故郷で暮らすのか、都会へ戻るかの選択をすることでした。

そこで重要な役割を果たすのが2人の友人。

冒頭のストーリーの所でも書いていますが、女友達のウンスクは村から一度も出たことがなくて都会に憧れており、男友達のジェハは一度都会に出て戻ってきています。

その2人の生き方を参考に、自身がどうしたいのかを考えるヘウォンの姿は、20代でありながらも青春ドラマのよう。

時には真面目に、時にはふざけながらも故郷での経験を通して将来を決めていく若者らしさはなんだかほほえましく映りました。



そんな彼女が選択したのは、一度都会に戻った後、故郷に定住するというものでした。

この行動をなんの説明もなしに描写されると「なんで一回都会戻ったの?」となりますが、玉ねぎの定植を例に挙げて説明していたのがよかったです。

農業要素を抑えつつ、彼女の行動に納得できる上手い例えだと思いました。







本作の見所のひとつとでもあったのが、この農業要素。

春夏秋冬、季節ごとに野菜の種まきから成長、収穫までを描いていたのがとても魅力的でした。

それらを描いた上で、野菜を生かした料理を作るのですから、数倍美味しそうに見えるのも錯覚ではないのでしょう。

また、季節の経過を通してヘウォンたちの関係も進展を見せていたのも印象的。

季節が巡るのと同様に、彼らの時間も経過していることをしっかりと実感することができました。







自分で野菜を作り、調理し、食べる。
まさに絵にかいたような自給自足を見せていた本作。

田舎の暮らしには苦労もあることを見せつつ、魅力的な生活のように感じさせていたのはひとえに作品のできが良かったからなのでしょう。

「田舎で暮らしたい!」と決断するまでとはいかないまでも、自分で料理をして美味しいものを作れるようにはなりたくなるような作品でした。