【レビュー】春香伝(ネタバレあり)
たいていの場合、どの国にも歴史に残る逸話は存在するものです。
それが人間の本質でもある"愛"の話になると多くの人が興味を持ち、長く語り継がれる傾向にあります。
今回レビューする『春香伝』は、韓国で長く語り継がれてきた歴史に残る愛の物語を映画化した作品です。
ストーリー
南原府使の息子である李夢龍(イ・モンニョン)は、ある日、妓生(キーセン)である成春香(ソン・チュニャン)と出会い一目惚れをする。位の高いモンニョンは、無理やり夫婦の契りを交わすが、日がたつに連れてチュニャンも彼を愛するようになっていった。
しかし、モンニョンの父が都に務めることとなり、二人は引き離される。
感想
いきなりバンゾリという韓国の伝統芸から始まる本作。その後も現代パートが続いて「あれ?もしかしてこれ歴史モノじゃないのか?」と、思っていたら芸を通して回想に入るという形を取っていました。
こうすることによって、韓国での「春香伝」の浸透率、どれだけ愛されているのかなどを感じとることができるわけです。
初めは乗り気でなかった学生たちもバンゾリの芸を見る内に食い入るように見るようになっていて、バンゾリ自体の素晴らしさも表現していました。
こうした映像は、韓国の文化を知る貴重な体験でしたね。
とはいえ、バンゾリはあくまで本作をよりよく見せる演出です。
本筋はモンニョンとチュニャンのラブロマンスにありました。
ストーリーを大まかに言うなら、お互いの身分によって一緒になれない男女という、いわゆる『ロミオとジュリエット』的な話です。
ラブロマンスの障害としては定番中の定番だと言えますね。
逆にユニークに思えたのは、二人のなれそめ。
嫌がるチュニャンをモンニョンが権力を使ってほぼ無理やり結婚し、お互いの心には溝があるかと思いきや、夜の営みを二、三度すればチュニャンもモンニョンを愛するようになっていたのはある意味予想外な展開でした。
そうして結ばれた二人ではありますが、モンニョンの事情で二人は離れることに。
半分捨てられる身となるチュニャンの身の上を嘆く、彼女の母親の必死さは印象的でした。まあ、手塩にかけて育てた娘が捨てられるとなるのですから当然といえば当然。
かつては美人であったチュニャンの母親も同じ経験をしていたという皮肉な話を聞けば、彼女がヒステリックを起こすのも頷くしかなかったですね。
で、ここからがタイトルでもある「春香伝」につながるお話。
チュニャン(春香)の列伝であることから「春香伝」であることは作中でもきっちりと描かれていました。
南原府使であったモンニョンの父の後釜に座った卞(ピョン)がチュニャンを側室にしようとしますが、彼女はそれを頑なに拒否し、モンニョンとの誓いを守るわけです。
いつ帰るかも、本当に正妻にしてくれるかも分からない誓いを守るため、ピョン府使から反逆罪の汚名を着せられ、拷問を受けながらも、その信念を貫き通す彼女の姿は一途で胸が熱くなる思いでした。
一方、モンニョンもチュニャンを迎えに行くために、密使になるために勉強をひたすら続けるという一途さを見せていました。
そんな悲劇を匂わせる展開ではありますが、さすがは長く語られてきた話だけあって最後はハッピーエンドでした。
密使となったモンニョンが、ピョンの不正を暴き大逆転を見せる展開はスッキリ爽快!
チュニャンの信じた愛が報われ、皆が幸せになるのも含めて、そのカタルシスは素晴らしいものでした。
韓国文化バンゾリを交えつつ、韓国に語り継がれる逸話を描いていた本作。
耳でバンゾリを楽しみ、目で風景や人の様子を楽しむ、そんな文化を楽しめる作品でした。