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【レビュー】死の追跡(ネタバレあり)

西部劇には悪党に身内を殺され、銃をその手に復讐を果たす作品は数多くあります。

しかし、いつの時代だって法は存在しています。

「人を殺したら罰を受ける」それは当然のことなのです。

そんな西部時代の法に翻弄される保安官の姿を描いたのが、今回レビューする『死の追跡』です。



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ストーリー

リオ・グランデ河にほど近い町サンタ・ローザ。
アイルランド人の保安官キルパトリックは、そこで悪党であっても人を殺さないことを自らのルールとして課していた。
そのキルパトリックの収める町にブランド率いる強盗団が押し入る。
キルパトリックは彼らを追いつめるが、息子を盾に逃走され、さらには妻子の命までも奪われてしまう。
復讐心に駆られたキルパトリックは、ブランドたちを殺すため彼らの行方を追い始める。

感想

見る前から後味の悪い作品だと聞いていたこの作品。

そんな噂が広まるのも納得のなかなかに酷な内容でした。







まず話の導入が、悪党に妻と息子を殺されるというエグさ。

颯爽と現れ、悪党を逮捕するため町の人々をまとめあげるキルパトリックはかっこいいのに、一気に敵のペースにさせられるのはなんとも歯痒さを感じさせました。

そんな鬱憤をはらすかのように怒濤の復讐劇を展開させるわけなのですが、それもスッキリするというよりも、なんだか悲劇的。

それもそのはずで、本作の主人公キルパトリックは、保安官として「人を殺さないこと」を自らのルールとして定めており、それを誇りとしていました。

そんな彼が、ただただ復讐心を満たすために悪党を殺していくのですから痛々しいことこの上ありません。

悪党の一人を殴り倒して刺し殺し、悪党の一人を底なし沼に沈め、一人の悪党を酒場で蜂の巣にする容赦のない仕打ちは、少しずつキルパトリック自身も傷つき壊れていくような感じさえしました。







そんなキルパトリック役を演じたのが、リチャード・ハリスです。

ハリー・ポッター』の1作目と2作目でダンブルドア校長を演じていたのが最も記憶に残っている俳優です。

けれど、本作では若々しく、黒いスーツに黒いハット帽、若干ウェーブした金髪が印象的でした。

そんな彼が見せる演技はなんとも哀愁が漂っていていい味を出していました。

まるで、復讐が終われば死んでもいいとでも言わんばかりの人生を悲観した顔つきは、彼の復讐の痛々しさをより感じさせていたと思います。







その彼を止めようとする唯一の味方がグティエレスでした。

メキシコの保安官で、国境を超えてまで復讐を果たしに来たキルパトリックを止めようとするのですが、この人が本当にいい人なんです。

まず、初対面でいきなり「復讐を辞める」と言ったキルパトリックに思い切り殴られるという裏切り行為を受けるのですが不問に。むしろ、ブランドに殺されそうになっていたキルパトリックを助けさえしてくれていました。

なのにまた裏切られ、今度はバーの窓ガラスにぶん投げられます。

でも、小言のひとつも言わずに不問に。

その後、一時的に目の見えなくなったキルパトリックが銃を乱射して殺されかけられますが、これもジョークでスルー。

最後は、目が見えていないと嘘を突き通したキルパトリックを信じた所を裏切られ、撤退することとなっていました。



これだけされても敵意を向けたりしないのですからマジでいい人です。

暴走しがちなキルパトリックのブレーキ役として必要不可欠な存在でしたね。







そんなキルパトリックとグティエレスの関係を通して描かれるのが、正義感と法の関係でした。

ブランドを追い詰めたキルパトリックは、保安官としての正義感を取り戻し、彼を法で裁くことを決意。けれどグティエレスが出した決断は証拠不十分による釈放でした。

それを聞いたキルパトリックはグティエレスの前でブランドを射殺。

罪を背負った彼はグティエレスに射殺されるという結末を迎えていました。

結局、法に従ったキルパトリックが法に殺されるという皮肉な展開は、なんとも後味の悪いものでした。

けれど、よくよく考えるとこれはリアルな話であったのかもしれません。

法も秩序も不安定であった西部時代で、証拠が残る事件なんてそうそうあったとは思えません。

そうなると悪党の人殺しを明らかにできるのは目撃者の証言のみ。

けれど、死人に口なし。悪党が目撃者を殺してしまえばすべては闇に葬られてしまいます。

そんな、理不尽な時代を感じさせるには十分すぎるくらいのインパクトがラストシーンにはありました。

切なくも儚い物語を通して、西部時代のの真実の姿を描いていたのかもしれませんね。







銃撃戦の臨場感や展開の分かりやすさなど、西部劇としてはなかなか楽しめた本作。

けれど、あのラストシーンを見るとなんだかモヤモヤの残る思いでした。

けれど、正義とは何か、法とはどうあるべきかを考えさせられる深い作品であったと思います。