【レビュー】ロスト・バケーション(ネタバレあり)
サーファーにとって恐れるもののひとつ、それがサメです。
海水浴場とは異なり、サメへの対策がされていない沖での行動は時折危険を孕みます。
特に海外でサメに襲われる可能性というのは無視できないものとなっています。
そんなサメの恐怖を一つの岩礁の上というシチュエーションで描いた作品が、今回レビューする『ロスト・バケーション』です。
ストーリー
休暇を用いて亡き母が教えてくれた秘密のビーチに訪れたナンシーは、サーフィン中にサメと遭遇する。近くの岩場へと避難したナンシーであったが、サメは彼女を執拗に追ってきていた。
その場から動けないナンシーに少しずつ満潮の時間が迫ってきていた。
感想
私はサーフィンはしたことがありませんし、今後もする予定は特にありません。けれど、(だからこそというべき?)映画の中で軽快に波に乗るサーファーたちの姿に憧れたりはします。
そんな印象的なサーフィンシーンから始まるこの作品。
特にサーファーであることによって、ナンシーがサメから逃げるのに役だったりすることはないのですが、美しい海で美女が優雅にサーフィンをするのはセクシー&クールでした。
そのセクシーさもクールさもぶち壊すのがサメによる容赦ない攻撃でした。
その導入ともなる、美しかった海が急に不気味に見え始める不穏な演出などはサスペンス映画を手掛けてきたジャウム・コレット=セラ監督らしいと思います。(この監督のサスペンス映画は毎回安定していて好きです。21年には『ジャングル・クルーズ』で新境地を切り開きそうで楽しみです)
時折、挿入される水中からの視点は、"何か"がナンシーに迫る緊張感も与えており、事が起こる前から海の良さも怖さも感じさせていました。
で、その"何か"の正体であるサメの襲撃により、いきなりナンシーが足に大ケガを負うのですからセクシーさもクールさもどこへやらでした。
自らの医学知識を生かして、止血をするシーンは痛々しいながらもリアル路線。本作が、B級サメ映画のような勢いで行くのではなく、サスペンス調で緊迫感ありありな路線でいくことを確定付けていたと思います。
そこから始まるのが本作の売りでもあるワンシチュエーション、岩礁の上での攻防でした。
このロケーション、個人的にはすごくよく出来ていたと思います。
というのも、安全な場所である砂浜が常に見えているからです。
常に助かるかもしれない希望を見せつつ、決して辿り着くことのできない絶望を突きつけるのは残酷ながらも見ごたえがありました。
こうした希望と絶望の緩急は、作中何度も見ることになっており、(気づいてもらえたと思ったら裏切られたり、助けが来たかと思ったらサメに食われたり)その度にくじけては立ち上がるナンシーの力強い姿は素直に応援したくなる魅力がありましたね。
その魅力をより高めていたのがナンシーを演じたブレイク・ライヴリーでした。
セクシーさや美しさは然ることながら、死力を尽くしていることが伝わる全力の演技は素晴らしかったです。
また、彼女が衰弱していくごとに顔色や艶が無くなっていくのもリアル。
時に絶望して落ち込み、時に希望を抱き命を燃やす……そんな極限下での精神状態を見事に表現していました。
ここまでナンシーや彼女の置かれた状況について書いていきましたが、本作はサメ映画。サメ要素に対するアプローチについても書いていきます。
登場するのは巨大なホオジロザメ。そいつが牙をむき出しにして襲い掛かってくるのは、まさに王道サメ映画でした。
上の方でも書いた水中からの視点であったり、ブイを食いちぎるサメに応戦する中でサメに火を引火させたりなど『ジョーズ』といった往年のサメ映画に対するリスペクトが見られたのは面白かったです。
一方で、本来ならサメの主戦場である水中に潜ってトドメを刺すといった、型にはまらない斬新な発想でサメ映画をより面白くしていたのが印象的でした。
斬新つながりでいうと、スマートフォンや時計のディスプレイを画面に映す演出が作中にありました。
映像だけでも状況を分かりやすく表現するこの演出は、作品への没入感をより強めていました。
サスペンス性を重視するセラ監督らしい演出だったと言えるでしょう。(似た演出を『フライト・ゲーム』(2014)でも使っていたのが印象的です)
近年、奇抜な設定が次々と加えられていっているサメ映画。
しかし本作はシチュエーションを大事にし、サメの純粋な恐ろしさを演出した、まさに原点回帰のサメ映画であったと言えるでしょう。
シチュエーションひとつで面白くなる、サメ映画の可能性をまだまだ感じさせてくれる作品でした。