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【レビュー】ナチュラル・ボーン・キラーズ(ネタバレあり)

殺人がには必ず理由(動機)がある。
普通の人間ならそう考えるはずです。
しかし、世の中には理由なき殺人があるのも事実。
そんな異常者がもし身近に居たらと思うとゾッとします。
そんな生まれついての殺人鬼について描いた作品が、今回レビューする『ナチュラル・ボーン・キラーズ』です。

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ストーリー

荒くれ者の男ミッキーは、父親から性的虐待を受けていた少女マロリーを救うため、彼女の父親を殺害した。
二人は逃走するが、行く先々で動機なき殺人を繰り返していく。
やがて二人の話題はマスコミを賑わせ、若者たちは彼らをヒーロー視するようになっていった。
TV番組キャスターのウェイン・ゲールは彼らのスクープを手にするために、作家刑事であるスカグネティ警部は2人を逮捕するために追跡をしていた。

感想

世の中には声を大にして好きだと言うべきでない作品があります。
例えば『ファニーゲーム』であったり『ムカデ人間』であったり、いわゆる悪趣味で見るに耐えない作品です。
たしかに、それらの作品が与える影響などを考えると「よく出来た作品」ではあるかもしれませんが「好きだ」と言い出したら人間性を疑われ兼ねません。

ナチュラル・ボーン・キラーズ』もそんな作品なわけですが、上に挙げたような悪趣味映画と違うのが、スタッフ&キャストの豪華さ。
監督オリバー・ストーン、原案クエンティン・タランティーノ、主演ウディ・ハレルソンというメンツは、一見するとビッグタイトルのようです。(実際、知名度は高いわけで)
しかし、蓋を開けてみればそのバイオレンスさに驚愕させられます。
「有名な監督、俳優が関わっている」という安心感があっただけにその衝撃は結構強かったですね。

そんな本作ですが、衝撃的であったのはバイオレンスさだけではなかったように思えます。
というのも、作中において暴力的な描写は数あれど、生々しい表現やグロテスクな表現というのは非常に少なく、あるとしても「エグい事したんだろうなぁ」と想像させるだけでした。

むしろ注目すべき点はそれらの描き方にあったと思います。
本作、作中の演出が非常に独特で言葉で表すには難しいくらいでした。
無理矢理いうならメタルバンドのミュージックビデオみたいな感じ?スモーク焚いた中の人物を赤いライトで照らしたり、急にアップの顔を映したりとそんなサイケデリックな表現が連発されていました。
実験的かつ刺激的な内容はまさに掴みどころのない殺人鬼ミッキー&マロリーを指しているかのよう。
見ていて意味不明だし、不快感の方が強いのに、彼らを表すには適しているというのが印象的でした。

その独特さにさらに拍車をかけるのが、オリバー・ストーン監督によるメッセージです。
反体制派であることで有名な彼ですが、今回標的としていたのはマスコミ。
己の損得しか考えず、とにかくスクープばかりを狙おうとする悪質なマスコミをロバート・ダウニーJr.演じるウェイン・ゲールを通して描いていたのは痛烈でした。
で、このロバート・ダウニーJr.の演技がマスコミの身勝手さをより強調しているんですよね。
悪意さえ感じられるほどのクセのある役を熱演していたのは見れて良かったと思えました。

このように、本作ではどの登場人物も狂っている奴らばかりでした。
人を殺しまくるミッキー&マロリーはいわずもがな狂っていますし、ウェイン・ゲール(ロバート・ダウニーJr.)のスクープを狙う姿勢、警部スカグネティの相手を徹底的に屈服させようとする自尊心、監獄署長ドワイト(トミー・リー・ジョーンズ)の囚人を見下し人としても扱わない傲慢さ、そしてミッキー&マロリーという殺人鬼に心酔する市民たち。
こうした狂いに狂った登場人物たちの言動は、社会が狂気に満ちていることさえ感じさせる見せ方であったと思います。
作品外の話となりますが、本作が銃撃事件を引き起こしたと訴訟を起こされたエピソードがあります。
結局それは棄却で終わるわけなのですが、なんだか納得できる話でした。見かたによっちゃ犯罪万歳って扇動しちゃってますもの。

そんな危険を孕んでいるこの作品。
最も危険なのは、ミッキー&マロリーを魅力的に描いていることでしょう。
まず、演じるのがウディ・ハレルソンジュリエット・ルイスという時点で魅力的なキャラクターになっているんですよね。
それに加えて「殺人=罪」と思わせないような表現で、彼らの生き様が輝いて見えるようにしているのですからズルいです。
「ただ楽しいから殺す」、「ただムカついたから殺す」、「ただ殺したいから殺す」
そんな生まれついての衝動に抗わずに生きる彼らの姿は、羨ましくさえ思えました。
気づけばラストシーンには彼らの直情的な思いを応援したくすらなってしまい、終始オリバー・ストーン監督の掌で踊らされた感覚でした。


架空のシリアスキラー・ミッキー&マロリーの凄惨な行為を追っていた本作。
しかし、架空であるが故に劇的で与える影響も強い展開を見せていたように思えました。
前衛的な表現も加え、禍々しい思い出をいやでも残される人にオススメしたくない良作でした。