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【レビュー】めぐり逢えたら(ネタバレあり)

運命の出会いのひとつに一目惚れがあります。
目と目があった時運命を感じた、というアレです。
しかし、運命とは複雑怪奇なもので、出会っていなくても惹かれ合うなんてこともありえます。
そんな運命に惹かれ合う二人の恋を描いた作品が、今回レビューする『めぐり逢えたら』です。

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ストーリー

シカゴで暮らす建築技師サムは、1年半前に妻を亡くし意気消沈としていた。
そんな父の姿を見ていた8歳の息子ジョナは、相談を受け付けているラジオ番組に電話をし、父の再婚相手を探す。

一方、ボルチモアに暮らす新聞記者アニーは、婚約者こそいるものの、その出会いに運命的なものを感じられずにいた。
そんな折、息子の電話がきっかけでラジオ出演をしていたサムの亡き妻への思いを聞いてアニーは心惹かれるようになる。

感想

1957年の映画に『めぐり逢い』という作品があります。
それと非常に似たタイトルである本作『めぐり逢えたら』
原題は前者が『An Affair to Remember』で後者が『Sleepless in Seattle』なのでまったく違うわけなのですが、共通点はあります。
というのも、作中この『めぐり逢い』がいかに素晴らしい作品なのかを登場人物が語るシーンがあるんですね。(ここで男と女の映画における価値観の違いが見えるのは面白かったです)
また、『めぐり逢い』のストーリーになぞらえるかのように、主人公サムとヒロイン・アニーの出会いの場をエンパイアステートビルにするといった、リスペクトがされていました。
そんな感じで本作を100%楽しむためには『めぐり逢い』は、欠かせない作品であったわけです。

で、私はその『めぐり逢い』からさらに遡ること18年前、1939年のリメイク元となる作品『邂逅』を見たことがありました。
結論としては、リメイク元だけ見ていても楽しめます。
『めぐり逢い』の主演がケーリー・グラントであることをネタにした会話以外はネタを楽しみながら見ることができました。


そんな『めぐり逢い』を下敷きにしていた本作。
あちらの作品では、二人の男女が長い期間を経て再開する巡り合わせを美しく描いていました。
対して本作では、長い距離による巡り合わせを美しく描いていました。
その距離アメリカのシアトルからボルチモアまで。ほぼアメリカ大陸横断です。国内なのに移動手段が飛行機ばかりであったのが印象的でした。(日本でも珍しい光景ではありませんが)
そんな距離の広さもあってか、作中ラストシーンを除いてほとんど二人が顔合わせをするシーンがありませんでした。
一度だけ途中でアニーがサムに逢いに行くのですが、まさかの「Hi」という挨拶を交わすのみという……
中学生のような初々しさすら感じられるやり取りはむず痒くなるかのようでした。

このように、終盤までほとんどめぐり逢うことがなかった二人。
けれど、作中で彼らが疎遠に感じられなかったというのが個人的な印象でした。
それはなぜなのかというと、演出の妙があったからだと思います。
まず、本作は二人の視点を交互に描いていました。
それを通して感じられるのが、二人が無意識ながらも少しずつ近づいていっていることなのですね。
さらに加えて描かれるのが二人の奇妙な共通点。
運命の愛を求めている心境であったり、運命を信じ始めるまでの道のりであったりと、似たような出来事で似たような境遇に置かれていきます。
冒頭に挙げた『めぐり逢い』もまた、その共通点のひとつとして描かれていたのが面白い所でした。
奇妙な偶然の連続によって惹き寄せられていく二人。それは一見するとご都合主義に見えるかもしれません。
けれど、それこそが作中で言われる「運命の"マジック"」なのでしょう。
ご都合主義をご都合主義と言わせない、なんともロマンチックな言い回しでした。

サムとアニー、二人の恋路をアシストするのがサムの息子ジョナです。
8歳とは思えない聡明さで自ら行動を起こし、サムの再婚を誘導する姿は大人顔負け。
サムとは親子でありながら友人のような関係を築いており、常に対等な関係であったのが印象的でした。
一方で、分からないことはサムに教えを貰ったり、一人でNYに出向いた際には寂しさを露わにするなど年相応な反応を見せるのが微笑ましくもありました。
運命の出会いを信じられない大人の恋路を、子供らしい無邪気さと賢さで上手くアシストさせており、非常に好感の持てるキャラクターとなっていました。

このように本作は基本的にいい人間しかおらず、どのキャラクターにも好感が持てたのもストレスフリーで見られる良い点であったと思います。
普通、婚約者のいるアニーが「運命の愛」にフラフラしていたら誰かしら皮肉のひとつは言いそうなものですが、完全に応援していますからね。
恋敵となるハズのアニーの婚約者でさえ、彼女の運命の愛を信じる思いを汲んで身を引くというもの分かりの良さを見せていました。アンタは聖人かと。
まるで、二人がくっつくことを誰もが祝福しているかのような優しい世界は、フィクションだからこそ出来る美しい展開であったと思います。


「運命の愛」をテーマに、容姿すらも知らない二人が運命的にめぐり逢うのを描いていた本作。
人の優しさや偶然などがもたらすロマンチックさに満ち溢れた内容は、まさに「運命の"マジック"」と呼ぶに値するものであったと言えます。
ラブロマンス映画とはこうあるべきだ、と改めて思える作品でした。