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【ネタバレあり・レビュー】マルタの鷹 | これぞハードボイルド!ハンフリー・ボガートが魅せるフィルム・ノワール!

ハードボイルドな主人公というと、冷静沈着で無口な人物というイメージがあります。
しかしハードボイルドとは、ゆで卵などが固くゆでられた状態=そうした感情に流されたりしない固い意志を指しています。
そのため、意志を曲げない強さを持っていればそれはハードボイルドだと言えるんですね。
今回レビューする『マルタの鷹』は、口がよく回り感情豊かな主人公が見せるハードボイルドさが印象的な作品です。

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ストーリー

相棒マイルズと共に探偵事務所を営むサム・スペードは、女性ブリジッド・オショーネシーから駆け落ちした妹をサースビーという男から取り戻してほしいと依頼してくる。
その依頼をマイルズが担当することとなったが、その夜彼は殺されてしまった。
スペードはマイルズを殺した犯人を追い始めるが、警察は彼を犯人に仕立て挙げようと躍起になっていた。
窮地に追い込まれながらも捜査を続けるスペードは、やがて「マルタの鷹」という1つの像の存在に行き着く。

感想

タイトルは幾度か見たことがあったけれど、昔の映画ということもあって見るのを後回しにしていた作品です。(なぜかアルフレッド・ヒッチコック監督作とかんちがいしていましたが、ジョン・ヒューストン監督作でした)
今回、シネマトゥデイのサイトで1週間(11月20日~27日)無料放送があったために鑑賞。これが個人的にはヒットしました。

まず、ハンフリー・ボガートがカッコいい!
彼といえば自分の中では『カサブランカ』(公開は本作の翌年1942年)が真っ先に浮かびます。
あちらの作品での紳士でうっとりとさせてくれるようなボガートも魅力的なのですが、本作では探偵としての威信を賭けて捜査に挑む仕事人なボガートをみせてくれるんですね。
中折れ帽とハンチングコートをトレードマークに、あらゆる人物を疑い、常に余裕を持ったその振る舞いはまさにハードボイルドな探偵でした。

そんなボガート演じるスペードのセリフ量はハンパなものではありませんでした。
話が進んでいくに連れて登場人物が増えていき、そのすべての人間と接するのですから当然です。
依頼主のブリジッド、警察、謎の存在"大男"、元相棒の妻らと、次々にやり取りを交わしていました。
スペードの弁の立つ会話は小気味よくて、見ていて退屈しないというのが作品の強みになっていたと思います。

そして、スペードや"大男"らが追うのが「マルタの鷹」です。
宝石が埋め込まれた鷹の像ということもあって、それを巡り殺しまで起きてしまうのが人間の欲望の汚さを浮き彫りにしていたと思います。
そんな争いの引き金となった像を差して、ラストシーンにスペードは「(「マルタの鷹」は)欲望の固まりさ」と言い放っていました。
(余談ですが、ここのセリフは翻訳家によって訳が違うのかもしれません。私が見た際は「欲望の固まりさ」となっていましたが、本来のセリフは「The stuff that dreams made of. 」であり、翻訳家によっては「夢が詰まっているのさ」と訳しているらしいです。夢を追い求める欲望によって起きた事件について言及したセリフなので意訳として「欲望」となったのかもしれませんね)
まさに、本作の騒動のすべてを指し示しており、「言い得て妙」という言葉を送りたくなるセリフでした。

さて、そんなラストシーンですが、もうひとつ印象的であったのがブリジッドの扱いでした。
本作、スペードは彼女を疑いながらもことあるごとに惹かれていく描写がありました。
その美しいロマンスを見せられれば、おそらく誰もが彼女はヒロインであり最後にスペードと結ばれるのだろうなと思うでしょう。
しかし、ラストで相棒を殺していたことを暴いたスペードは彼女を警察に突き出すんですね。
その際に語る「自分の相棒が殺されたら男は黙っちゃいない」というハードボイルドなセリフは心に刺さりました。
一方で、そこになんの情もなかったかと言えばそうでもないように見受けられました。
最後まで愛を語るブリジッドに「忘れないし忘れられないだろう」と心を乱されながらも、自らの探偵としての職務を全うする姿は、彼の意志の強さを感じさせます。
ハンフリー・ボガートの繊細な演技も相まって、見た者にも忘れられないような名シーンを生み出したラストとなっていました。


ハードボイルドな探偵映画であった本作。
その魅力をハンフリー・ボガートが最大限に表現しており、改めて彼の凄さを思い知らされました。
時代の経過や白黒映画であることを感じさせない探偵モノの魅力を持った作品でした。