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【ネタバレあり・レビュー】天国は待ってくれる | 女性に捧げた思い出は美しく……

「死んだ人間は天国か地獄に行く」
その死生観は昔から信じられてきました。
しかし、その世界がどのようなものであるかは、これまでもこれからも分かることはないでしょう。
そんな死後の世界、ある一人の男が抱える後悔から始まる作品が『天国は待ってくれる』です。
 
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ストーリー

老紳士ヘンリーは、あの世の入り口で地獄の閣下と顔合わせする。
彼は多くの女性を傷つけてきたことから、自分は地獄行きだと告げる。
しかし、彼の半生に興味を持った閣下は、彼の70年余りの人生譚を聞くことにした。

感想

タイトルに「天国」というワードが出てくることからも、「死がなにかしら関わってくるのだろうなと」漠然ながらも思ったのが始めの印象でした。
それがまさか死んだところから始まるとは……しかも地獄の入り口という想像の遥か上を行く展開で。
そこから主人公ヘンリーの女性遍歴を回想するわけなのですが、この入りがあったことで作品に一気に引き込まれました。名作の予感がプンプンしましたね。

そんな回想録である本作なのですが、これだけ聞くと単なるドラマで面白みが無さそうに思えますよね。
ただ、そこは多くの名作を生み出してきたエルンスト・ルビッチ監督。巧みに人の感情を煽る物語を作り上げていました。
そこでポイントとなるのが、ヘンリーの赤ん坊時代から死の直前までを振り返っている事。
これによって、ヘンリーがどういう人間であり、どういう意思の下行動しているのか、人となりがだんだんと分かっていくようになっていたんですね。
そのため、序盤から中盤にかけてはヘンリーにあまり好印象を持てませんでした。
紳士とは程遠い無遠慮な態度であったり、口から出まかせで女性をたぶらかすというのが受け入れがたかったからです。
特に、離婚を決意し彼の下を離れたマーサを連れ帰るシーンは上手くいきすぎていて「なんじゃそりゃ」と思わずにはいられませんでした。

その印象が大きく変わり始めるのが、ヘンリーがショーガールに恋をする下りです。
彼はショーガールとお近づきになろうと手を尽くすのですが「古臭い」、「自分の年と釣り合わない」と、打ちのめされてしまうんですね。
それを気にしている姿がなんとも人間味を感じられて好感度が上がりました。
また、この一連の出来事の中でマーサが、ヘンリーのお腹にぜい肉が付いてきてようやく自分だけのものになった気分だ、というセリフを口にしていました。
こうした、年相応の落ち着きを身につけて行くのがおそらく人間味を感じられるのにつながっていたのでしょうね。

そこからは息子の恋路に困惑させられたり、マーサと出会いを振り返ったりと、熟年夫婦の装いを見せており、心暖まるストーリーを展開。
特に二人の出会いに使われた「夫を幸せにする方法」によって、ヘンリーが愛を思い出すシーンは感動的でした。
基本的に女たらしでだらしないヘンリーであっただけに、ふとした瞬間に見せるマーサへの純粋な愛は美しかったと思います。
それだけに、ラストシーンでの閣下が下す決断には納得。その粋な計らいには拍手を送りたくなりましたね。

そうしたストーリー全体を彩るのが美術品の数々でした。
本作、エルンスト・ルビッチ監督の手掛けた初めてのカラー作品ということもあってか、色合いが非常に印象的。
豪華絢爛な内装や服装は見ているだけでも幸福を感じられる美しさがありました。
ヘンリーの回想に吸い込まれるような没入感を、世界観の作り込みによって成り立たせていたのが素晴らしかったですね。


「天国は待ってくれる」というタイトル通り、救いの物語であった本作。
なんとなく結末は分かっていても、ヘンリーという一人の男が人生を振り返り救われるという展開は心暖まりました。
ヘンリーのように、死後振り返っても有意義であったと思える人生を送りたくなる作品でした。