スキマ時間 DE 映画レビュー

【ネタバレあり・レビュー】アバウト・ア・ボーイ

人は一人では生きていけないというフレーズはよく耳にするかと思います。
実際その通りで、全てのことを一人でこなし、誰にも迷惑を掛けずに生きていくことはできません。
そんなかかわり合うことの素晴らしさを描いた作品が、今回レビューする『アバウト・ア・ボーイ』です。

f:id:sparetime-moviereview:20201216224240j:plain

ストーリー

ウィル・フリーマンは、38歳になっても父親の印税を頼りに働かずに過ごす日々を送っていた。
ある日、シングルマザーと付き合いたいと思い立った彼は、シングルペアレントの会に参加する。
そこで出会った女性とデートの約束を取り付けたウィルであったが、当日その女性は友人の息子12歳のマーカスを連れてきていた。
マーカスの母親フィオナはうつ病を患っており、彼は母をこれ以上一人にしないようパートナーとなる人物を探す。
そのパートナーとして、マーカスはウィルを選び彼の家へ通い始める。

感想

本作を見るに当たって期待していたもの、それがキャスト陣でした。
ヒュー・グラントが主演で、共演にトニ・コレット、ヒロイン役にはレイチェル・ワイズとまさに豪華絢爛。
なにより、注目していたのがまだ子役であったニコラス・ホルトがキーパーソンとなる12歳の少年マーカスを演じている事でした。
そんな高すぎる期待を持っていたこの作品でしたが、それに完全に応えてくれていたと思います。
その理由となるのが、どの俳優にも見せ場があり、好感の持てるキャラクターとしていたからです。

カッコイイのにダメ人間、でも振る舞いはエレガントなウィル(ヒュー・グラント)。
見た目はボーイッシュでうつ病を患いながらも子育てを続けるフィオナ(トニ・コレット)。
美しさを持ちつつもシングルマザーとして子育てに苦闘するレイチェル(レイチェル・ワイズ)。
学校でイジメに合いながらも、母フィオナを支えようとするマーカス(ニコラス・ホルト)。

見てもらうと分かるように、どの人物もそれぞれ問題を抱えており、不完全。
その個性を俳優がしっかりと表現し、親近感を抱かせることで、より作品に入り込めるようになっていました。

こうした俳優たちによる作品へのアプローチが素晴らしかった一方、ストーリーも素敵でした。
自由奔放無責任なウィルがマーカスと接することで、いじめられっ子であったマーカスが前を向き始めると同時に、母親も救ってほしいと思うように。
しかしそれは、これまでの人生で責任を追うことを避けてきたウィルにそれは重過ぎるため、関係を切ろうとします。
けれど既にマーカスと親密になっていたウィルはそれが出来ずに、少しずつ彼らと向き合い始めるというのがとてもハートフルでした。

また、ここで効果的であったのがウィルとマーカス、二人のモノローグを入れていた事です。
これを通して、彼らの置かれた状況や心情、信頼度が高まるのを分かりやすく伝えていました。
このモノローグで印象的なのがウィルが自身を「島」と表現する下り。
冒頭ミリオネア的なクイズ番組で「No man is an island」(「人は孤島ではない」)と言ったのは誰かという問題を聞いたウィルは、自分は孤島(イビサ島)であるとモノローグで言っていました。
しかし、ラストシーンではその考えを改め、「孤島であっても海底でひとつにつながっている」とモノローグで言うんですね。
このセリフがなんともオシャレ。ウィルが初めに例えた「島」の考えは変わっていないものの、少し前向きになったことが分かるこのセリフは素敵でした。

このモノローグの下りを見ていて思ったのが「小説でも行けそうな内容だな」という感想でした。
と、思っていたらこの作品もともとは、ニック・ホーンビィ著の同名小説が原作となっていました。そりゃ小説っぽいわけです。
とはいえ、作品の魅力とも言えるウィルとマーカスの関係が築かれるまでを、ヒュー・グラントニコラス・ホルトが巧みに表現していたのは言うまでもありません。
原作の魅力が伝わってくると同時に、映画の良さを感じられる二度おいしい内容に仕上がっていたと思います。


人のつながりを必要としない男と、誰かの助けを必要とする少年とのつながりを描いていた本作。
ただ自由であることだけが幸せではないのだと教えてくれる作品でした。