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【ネタバレあり・レビュー】ウォーデン 消えた死刑囚 | 脱獄していない脱獄犯を追う、イラン産の刑務所ミステリー!

中東に存在する国イラン。
そこではイスラム法に則り、死刑制度が定められています。
その基準は非常に厳しく、死刑執行数は中国に次いで二番目だと言われています。(2019年次)
それだけに恐ろしいのは冤罪でしょう。
日本とは異なり、死刑執行までの期間も短く、冤罪の可能性も自ずと高まると言えますからね。
今回レビューする『ウォーデン 消えた死刑囚』では、死刑を言い渡された囚人が消えたことから彼を追うこととなった看守たちの視点で描かれる作品です。

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ストーリー

1950年代、イラン。
刑務所の所長であるジャヘド少佐は、飛行場の建設に伴い、刑務所を移設することとなっていた。
囚人を移送し、すべては順調かに思われたが、囚人の1人アフマドが消えていることに気づく。
彼が旧施設にいることを確信した少佐は部下たちを総動員し、捜索に当たらせる。
しかし、アフマドの弁護士であるカリミは、彼の無罪を主張する。

感想

脱獄映画は数あれど、それを追う看守視点はなかなか珍しいのではないかと思います。
少なくともイランの刑務所を舞台とした作品は初めて見ました。

率直な感想としては面白かったです。
まず、本編すべてを刑務所とその周辺で収めていたというだけでもなかなか好印象でした。
常に、死刑囚アフマドを追うシリアスが展開されていましたからね。

そんなアフマドを探すのが本作のメインストリーであるわけですが、本当に見つからない。
結構な数の所員が総動員されて屋根裏から床下まで探しても見つからないのは、「一体どうやってやり過ごしているんだ?」と興味を抱かせました。
また、ジャヘドが脅しをかけたり、燻り出しを目論んだり、ひと芝居うって誘導させようとしたりと、あの手この手を試してアフマドを捕まえようとするのも面白かったですね。
ラストシーンではアフマドがどこに隠れていたのかが明かされます。
「死刑囚がそこに隠れるのか!」と、皮肉の効いた隠れ場所には素直に感心しました。
最後までアフマドがどんな容姿をしているのか分からないというのも、面白い演出であったと思います。

そうしたジャヘドの奔走が面白い作品ですが、見つける、見つけない以外にも問題は山積みでした。
それがアフマドの弁護士カリミです。
彼女は、アフマドの冤罪を信じており、実際に証拠なども持っています。
しかし、証言者が出廷しなかったことから裁判で負けてアフマドは死刑囚に。
そこで彼女は、男女の関係に発展しそうなジャヘドに対して、アフマドの脱走を見逃すよう頼むんですね。
単純に思ったのが「それを刑務所所長に頼むなよ」ということでした。
たしかにアフマドの冤罪は可哀想ではありますが、それを見逃せと刑務所所長に言ってもそんなの受け入れられるわけがありません。
しかも、証言者まで連れてきて「頼むから見逃してやってくれ」と懇願までさせる始末。
私なら間違いなく「自分に言わないでくれ」とキレてるでしょう。
しかし、作中からも見てとれるようにジャヘドはかなりのお人好しです。
最終的に、アフマドを見つけながらも逃がすという選択を取ってしまいます。
正直、この選択には納得いきませんでしたが、一番損をするジャヘドがそうしたいと改心したのであるなら仕方がないのでしょう。
そうして見ると、本作はジャヘドがアフマドを見逃す心変わりをするまでの物語であったと言えるのかもしれませんね。


イランの刑務所を舞台に、脱獄犯(厳密には出ていませんが)を追う看守たちの姿を描いていた本作。
1950年代、しかもイランの刑務所内という薄暗い環境は、見ているだけでもスリルがあって良かったです。
エンドロールが100%ペルシア語(イランの公用語)でまったく読めなかったことからも感じたのですが、本作はイラン国内に向けての作品であったと言えます。
過激な死刑制度を持つ、イランの国の人々が本作をどのように捉えたのか、気になる所でした。