スキマ時間 DE 映画レビュー

【ネタバレあり・レビュー】オリ・マキの人生で最も幸せな日 | フィンランドで初めて世界戦に挑んだボクサーの純愛物語!

スポーツ選手にとって幸せな瞬間。
それは自身の力により勝ちを得た瞬間だと言えるでしょう。
それが世界王者ともなると、その喜びははかり知れません。
しかし、それと同じくらい人間にとって大切なのが"愛"です。
今回レビューする『オリ・マキの人生で最も幸せな日』は、そんな愛と栄光を天秤にかけたボクサー、オリ・マキが運命の一戦に挑むまでを描いた作品です。

f:id:sparetime-moviereview:20201222225745j:plain

ストーリー

1962年、フィンランド
ボクサーであるオリ・マキは、フェザー級世界王者との戦いを控えていた。
しかし、セコンドのエリスはスポンサーやマスコミへの対応ばかりをさせ、オリは減量すらままならない日々が続いていた。
そんな彼の癒しは意中の相手であるライヤとの時間であった。
しかし、エリスは二人の関係にも口を挟んでくる。

感想

「スポーツ映画といったら野球かボクシング」っていうくらい、個人的にボクシングは映画との親和性が高いと思っています。
おそらくそれは『ロッキー』の影響であり、本作を見ているとその作品で耳にした「女は足にくるぞ」というセリフを思い出さずにはいられませんでした。
それくらい本作でのオリ・マキは、意中の相手ライヤにメロメロなんですね。
ライヤにぞっこんになりすぎて、明らかにボクシングよりも優先になっていく姿は、ハラハラさせられるのと同時に、彼女への愛が本物であることを証明していました。
そんな彼に発破をかけるのがセコンド兼マネージャーのエリス。
なんだか彼らのやり取りを見ていると、目指すところは同じでもその過程は、最初から最後まで噛み合っていませんでした。
スポンサーやマスコミにオリを売り込んで世界戦を話題としたいエリスと、静かに黙々と練習して世界戦を終えたいオリの意思の相違は、作品のひとつのテーマともなっていたと思います。
とはいえ、それがメインテーマでなかったことは作中の描写からも明白でした。
あれだけエリスと衝突し、倒れるくらいまで減量に挑んだ末の世界戦は2分程で終わってしまうのですから。

けれど、それがオリにとっての悲劇ではありませんでした。
試合後には、会場からブーイングを受けながらも憑き物が落ちたような表情で退場。マスコミらへの対応も試合の前より意気揚々としており、負けたことに対する後悔はあまり感じていないようでした。
むしろ、印象的なのは試合後にライヤと散歩をするシーン。
二人で幸せを誓い合うこのシーンは、まさに本作のまとめといった感じで、作品の締めでもありました。
試合にはコテンパンにやられたのに、作品のタイトル通り「人生で最も幸せな日」としか受け取ることのできない、文句なしのハッピーエンドであったと言えるでしょう。

そんな知られざるボクサーの裏舞台を描いていたこの作品ですが、面白かったのがその表現の仕方でした。
作中、オリが二度訪れる「的にボールを当てて女性を水に落とすゲーム」(現代でもたまにあるらしいですが正式名称はよく分かりません)
ここへ彼が二度目に訪れた時、落とされる女性の舞台裏を覗き、その容姿を見て失望していました。(真偽は不明ですが、美人の方が狙われやすいため、見た目をよくするのだとか)
この表舞台の華やかさと裏舞台のみすぼらしさはオリ自身と重なる部分があります。
表舞台ではスポンサーやマスコミに対応し、人々から愛される姿を。
しかし裏舞台では、その対応に嫌気が指し、恋人と会えないこと憂う姿を見せていました。
世間の見る目と、等身大の自分との乖離は、オリ・マキにとって大きな悩みのひとつであったと言えるでしょう。
その乖離を象徴するかのような、スーツのモデルとして撮影した写真(踏み台に乗ってモデルの女性より身長が大きいように見せた写真)を眺めるシーンは、一番記憶に残りました。

ここまでオリ・マキについてあれこれと書いてきましたが、彼は実在したボクサーです。
それだけに、上に書いた裏でアレコレと悩み、恋に焦がれる姿はリアリティのあるすがたであったと言えます。
また、本作において印象的であった全編モノクロという表現は、彼の生きた時代を象徴しているかのようでした。
オリ・マキという人物を知り、親近感を抱くのにはうってつけな表現や演出が為されていたと思います。


フィンランドのボクサー、オリ・マキの葛藤と努力と恋の発展を描いていた本作。
そんな彼に対するリスペクトを感じさせる作風は、個人的には満足のいくものとなっていました。
長回しのシーンなんかも多く、彼の私生活からボクサーとしての姿までを追ったリアルドキュメンタリーっぽい作品でした。