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【ネタバレあり・レビュー】アンデルセン物語(1952) | 歌って踊るアンデルセンの童話集!

ハンス・クリスチャン・アンデルセンといえば、「裸の王様」や「人魚姫」といった有名童話を数多く作ってきた作家です。
まさにデンマークを代表する作家と呼んで差し支えないでしょう。
そんなアンデルセンの童話をミュージカル仕立てにし、彼の生涯をフィクションとして描いたのが、今回レビューする『アンデルセン物語(1952)』です。

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ストーリー

1805年、デンマーク・オーデンス。
靴職人のハンス・クリスチャン・アンデルセンは、町の子供に創作した童話を話すのを日課としていた。
しかし、子供が話に夢中になるあまり、学校へ遅刻する事が多々あったため、市長は彼を町から追い出すことを決める。
助手であるピーターの機転で追い出される前にコペンハーゲンへと旅立ったアンデルセンは、そこでバレエ団と出会う。
アンデルセンはそのバレエ団のプリマであるドロに一目惚れしてしまう。

実話ではないからこそ面白い物語

タイトルからしててっきり実話だと思っていたこの作品。
実際は冒頭の注釈からもあるように、アンデルセンの童話を盛り込んだフィクションでした。
それは作品を見ていてもなんとなく分かります。
面白い童話を話すあまり、近所の子供が夢中になり過ぎて学校に行かないため村を追放されそうになったり、人妻に恋するあまり、妄想で彼女の恋心を掴んだ気になっていたりと、結構過剰な表現が多かったからです。
デンマークからアンデルセンへのイメージダウンになると怒られて冒頭の注釈が入ったというのも納得でした。
ただ、こうした過剰な表現が面白かったのは事実です。
もし、アンデルセンの物語を聞きに来る子供たちが数人しかいなかったり、意中の相手ドロ(人妻)が不幸だと知っていても「夫婦間のことだから」と不干渉を貫いていたならば、本作はとてもつまらなく見ごたえのないものとなっていたでしょう。
アンデルセンが町中の子供を虜にしてしまう描写や、まるで物語の主人公にでもなったかのようなノリでドロに猛アタックを仕掛けたりするような、物語として、映像としての過剰さがあったからこそ、面白かったと言えるのだと思います。

歌って踊る、映像で楽しめるアンデルセン童話

上の項目で書いた過剰な表現。
これが違和感なく楽しめたのはおそらく本作がミュージカルであったからでしょう。
往々にしてミュージカルは、突然歌って踊り出す不思議な空間が広がっていますからね。(個人の偏見かもしれません)
そのミュージカル要素がおそらく本作の最大の魅力。
粋なのが、きっちりとアンデルセンの童話をなぞりつつ、ミュージカルを展開していたということです。
例えば、「みにくいアヒルの子」では、病気で容姿をイジメられる子に対する励ましの意を込めて歌っていたりといった感じです。
常にアンデルセンが周りからインスピレーションを受けながら、人を幸せにするために童話を作っていることを思わせるミュージカル要素は彼に対するリスペクトを感じさせました。

そのミュージカル要素と同じくらい重要であったのがバレエシーンでした。
おそらく、本編時間112分中30分近くをバレエシーンに使っているというのは、なかなかの衝撃。(しかもセリフは一切なし)
しかし、その2度に渡るバレエシーンがアンデルセンの恋心に始まりと終わりを与えるきっかけともなっているため外せない要素であることも事実なのです。
なにより、バレエに馴染みのない自分からすればバレエシーンは圧巻のひと言。
その凄さに魅了されずにはいられませんでした。
たぶん、ミュージカル映画でなければいきなりバレエシーンをされても、その長さも相まって困惑しかなかったでしょう。
ミュージカル映画というクッションがあったことで、楽しむことのできたシーンであったと言えるでしょう。

靴屋アンデルセンハンス・クリスチャン・アンデルセンになるまで

本作はフィクションといえど、アンデルセン個人にフォーカスした物語でした。
そのため、彼の人間性であったり、成長が見られるのがひとつのポイントであったと思います。
中でも面白かったのが、普段から人にバカにされても明るく陽気に振る舞っていたアンデルセンが実は内心傷ついていたこと。
自身の童話(「みにくいアヒルの子」)が新聞に載ると知ると「町の人たちを見返せる」と言ったり、ダンスの原作に自分が携わっているのを周りの人に知ってもらおうとアピールする姿は非常に人間味に溢れていました。
しかし、周りの人々は原作者など気にも止めていない現実を突きつけられるのですから非情です。
さらにドナのバレエを見ることすらも叶わず失恋をしてしまうのですから、ただただ哀れと言うしかありません。
それでも童話を作ること、子供たちを喜ばせることが残されていることを知り、靴屋アンデルセンとしてではなく、ハンス・クリスチャン・アンデルセンとして元いた町へ戻るのですから旅や恋が無駄ではないことを思わせていました。
ラストのミュージカルシーンは、そんな彼が旅を通して見たもの、聞いたもの、感じたものを全て詰め合わせたような童話のメドレーでした。
本作がまさに「アンデルセン物語」であったことを思わせる素敵なラストシーンとなっていました。


アンデルセンが童話を作る模様をフィクションとして描いていた本作。
童話をミュージカルとして表現するという展開は、子供心をくすぐり楽しい気分にさせてくれました。
まるで童話の世界に入り込んだかのようなワクワクを体験させてくれる作品でした。