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【ネタバレあり・レビュー】黄金のアデーレ 名画の帰還

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ストーリー

1998年、オーストリアにて第二次世界大戦時にナチスユダヤ人から奪った美術品の返還法が制定された。
それを知ったアメリカに暮らすユダヤ人女性マリアは、芸術家クリムトが叔母アデーレを描いた「黄金のアデーレ」の返還を希望する。
しかし"オーストリアモナ・リザ"とまで称されるその作品をオーストリア政府は返還する気がなかった。
マリアは、友人の息子である駆け出しの弁護士ランディに掛け合い「黄金のアデーレ」を取り返すために動き始めるのであった。

感想

公開当時から好評の声を聞いていて見よう見ようと思いつつ、今日まで見る機会がなかったこの作品。
主演を見てみれば、ヘレン・ミレンライアン・レイノルズ。これは見るしかないと思い、4年以上経過してようやく鑑賞しました。

率直に、素敵な作品でした。単純に面白いだけでなく、教養も付くという
まず、期待していた二人の共演。これが素晴らしかったです。
二人の演技力が優れているのは言わずもがな。個人的にヒットしたのは二人の関係でした。
単なる依頼主と弁護士という希薄な関係ではなく、かといって友人や親戚ましてや恋愛関係なんていう近しい関係でもない絶妙な距離。
当てはまるとするなら"同士"というのが一番適切なのかもしれません。志しを同じくし、共に戦うわけですからね。
ただ、"同士"と表現したのはそれだけが理由ではありません。
作中、明かされる話でしたがランディの祖父は第二次世界大戦当時、マリアと同じウィーンに暮らしており、ホロコーストの犠牲者となっていました。
ランディに対して直接的な被害はないものの、彼もまたホロコーストに影響を受けていたわけです。
そうした経緯も考えると、マリアとランディの関係は"同士"と表現するのに適しているかと思います。

さて、そんな二人が挑むのがオーストリア政府との絵画を巡る争いでした。
これがまた面白い話となっていました。
まず、オーストリアで裁判を起こそうとしても多額の費用(180万ドル)が掛かることから訴訟を起こす者が少ないというのが興味深い話でした。
オーストリア政府もそれを加味した上で返還法をチラつかせているのですからなかなかにズルい。
その職員がまた意地の悪いやつで何かにつけてマリアたちに嫌味ったらしいことを言うのも微妙にムカつく所でした。
そんなオーストリア政府をアメリカの土俵で裁判させるため、ランディが奔走するのですから素直に応援したくなりましたね。
まさかアメリカでクリムトの図録を販売していたことからオーストリア政府を引っ張り出すことにつながるとは思いもかけませんでしたが。

裁判シーンはそこまで多くなく、このオーストリア政府をアメリカに引っ張り出すのがメインであったように思います。(最終的にはオーストリアで戦うことになりましたが)
内容としても「敵の発言の穴を突いて大逆転!」なんて爽快なものではなく、ただ事実を述べて正しい判断が下るよう呼び掛けるだけでした。
ただ、本作の騒動が実話であることを考えるとそれが普通なのでしょう。
とはいえ、マリアらを素直に応援したくなる描写が多いだけに、正しい判断が下るよう呼び掛けるだけでも「そうだそうだ」と思わず頷きたくなることが多かったです。
感情移入させられるシーンが多かったおかげで、リアルな裁判描写であっても満足することが出来るようになっていたと思います。

そんな裁判を経て、判決はマリアへの「黄金のアデーレ」返還でした。
映画化している時点でなんとなく結末は分かっていましたが、やはり感動的なんですよね。
その理由は、そこに行き着くまでの二人の苦闘や、マリアの背負ってきた過去などをしっかりと描写されていたからです。
絵が返還されるという結果だけでなく、すべてが報われたということもあって、判決が下されたシーンには感動するしかありませんでした。
「黄金のアデーレ」の返還には、価格や思い出以上の価値があったと言えるのでしょう。