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【考察】『新感染半島 ファイナル・ステージ』ヨン・サンホ監督は続編でこれがしたかった!?作品から読み取れた10個のポイント!

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現在公開中の映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』
こちらのサイトでも感想もどきのレビューを書いたのですが、別の視点で作品を追ってみたいなと思い今回の記事を書いてみました。


↓ちなみにそのレビュー記事
sparetime-moviereview.hatenadiary.com


テーマは「今回の続編でヨン・サンホ監督がやりたかったこと」についての考察です。
あくまで個人的な推察なので成否については不明なので悪しからず。
また、今作『新感染半島 ファイナル・ステージ』、前作『新感染 ファイナル・エクスプレスどちらのネタバレもあるためお気をつけ下さい。


①軍人を主人公とした作品

今作の主人公ジョンソクは、パンデミック発生時(本編の4年前)、軍に所属していました。
その経験は4年後にも生かされており、戦闘能力はもちろんのこと、サバイバル能力の高さ、緊急時の冷静さなど、
パンデミック後の世界でも生かされることに。
ここに、監督の新たな取り組みがあったと思います。

前作の主人公ソグの場合、武器なし、逃げ場なし、娘を守らなくてはいけないという状況もあって、基本的には逃げることしかできませんでした。
しかし、ジョンソクの場合は、逃げるにしても守るにしてもゾンビを倒すことを主体として動かすことができるわけです。
そこから生まれるのがゾンビを倒していく爽快感。
銃や体術を使った本格的なコンバットアクションを盛り込むことで、作品に対する新たな刺激を加える狙いがあったのではないかと考えられます。

②韓国人としてのプライド

パンデミックから4年後、ジョンソク(とチョルミン)は香港で暮らしていました。
しかし、彼らはそこで現地民から、感染者に等しい扱いを受けているんですね。
オマケに間もなく難民認定されるなんていう噂まで飛び交っており、韓国人はまさに厄介者扱いをされている状況でした。
そこでジョンソクはドルを回収するために韓国へ乗り込むことを決意。
それは、感染者扱いされる底辺の暮らしから脱するためでした。
誇りを汚される日々を変えるため、リスクを冒してでも戦いに挑むジョンソクの姿からは、韓国人としてのプライドを感じさせていました。

③4年後の韓国

本作で最もインパクトを残すのが、パンデミックから4年後の韓国の街です。
その変化は荒廃した様子やゾンビの数の多さからしても分かりますが、残った人間たちの対応からもそれが感じ取れました。
ゾンビの対処法を学んだ彼らは、ゾンビの弱点を逆手に取った行動を見せてきます。
まるでひとつのギミックのように使うその様子は、4年の月日を感じさせるに足る要素であったと言えるでしょう。
また、631部隊が結成され独裁国家のように振舞っているのも4年の月日があればこそ。
助けが来ないことを悟り、武力がものをいうようになるのに4年という時間は適切でした。

続編を作るに当たり、前作の直後の世界観でもよい中、あえてリアルタイムと同じ4年後を描いたというのは、ヨン・サンホ監督自身のなみなみならぬ思いを感じましたね。

④夜間でのゾンビとの戦い

今作と前作で大きく変わっていたのが時間帯でした。
前作は、日中であったのに対し、今作ではほとんどが夜間なんですね。
それもそのハズで、前作は突然のパンデミックということで、明るい中で逃げなくてはいけませんでした。
対して今作は、人間側から動く時間帯を決めることができます。
そうなると、当然ゾンビが苦手とする夜間が勝負時になるわけです。

ただし、それでゾンビが行動不能とならない所が今作の見所です。
音や光を使い、巧みにゾンビを操るスタイリッシュさは逆に夜でなくては実現しないアクションシーン
あえてゾンビの苦手とする夜間を舞台としたのは、ヨン・サンホ監督が取り組んだチャレンジだと言えるでしょう。

⑤人間の恐ろしさ

今作、ゾンビとの戦いと同じくらい色濃く描写されていたのが、人間の恐ろしさでした。
前作でも、安全な場所にいた人々が危険な場所から来た人間を隔離するという人間の負の面を見せていましたが今作ではより過激に。
631部隊に所属する悪漢どもは私利私欲のために独裁政権を築き、部隊に所属していない生存者を"野良犬"狩りと称して捕まえていました。
「負の面を持つ人間が生き残った場合にどうなるのか?」
前作で描ききれなかった疑問を今作で描写しているかのようでした。

⑥ゾンビを使ったデス・ゲーム

631部隊が娯楽のために行っているのが、ゾンビを使った"かくれんぼ"でした。
悪趣味極まるこのゲームは、チョルミンが参加させられる訳なのですが、まるで彼の視点に立たされたかのような臨場感あふれる撮影手法にはこだわりが感じられました。
本編中でも結構な時間を割いて描かれており、監督の力の入れようが伝わってくるようでした。

⑦二人の悪党

今作の中でもかなり印象深いキャラクターであるのが、悪党であるファン軍曹とソ大尉でした。
「生き残るために身勝手な行動をする」という点では、前作のヨンソク(バス会社の幹部の男)と共通しているのですが、彼はあくまで生き残りたい一心で身勝手な行動をしていました。

そうして見ると、今作の二人はより危険かと思います。
「生き残るためなら殺しても仕方がない」ではなく「使えないなら殺しても構わない」というスタンスですからね。
さらに、この二人は同じ631部隊に所属していながらも互いを信用していません。
いざというときには裏切ることを念頭に置いて行動をしています。
その関係は"仲間"というよりも"利害の一致した他人"といった感じ。
そんな彼らの薄っぺらい関係を描くことで、ジョンソクらの絆を強調する狙いがあったのかもしれませんね。

⑧エンタメ性を追求したアクション

本作でヨン・サンホ監督が最もやりたかったのであろうことが、このエンタメ性重視のアクションシーンでしょう。
その最たる盛り上がりを誇るのが、終盤でのジョンソク&ジュニvsファン軍曹のカーチェイスでした。
そのゾンビを絡めたクレイジーな発想とスピード感あふれる展開の数々は、監督が生き生きと作品に臨んでいたのが感じられるよう。。
自由奔放なアイデアを詰め込んだアクションシーンは、それだけのために続編を作ったと言われても信じてしまうほど力が入っていました。

⑨主人公の変化

前作では、人を見捨てることをよしとしていた主人公ソグが、パンデミックを通して人を思いやることができるようになるという成長を見せていました。

本作は成長というよりも過去の清算と言った方が適切かもしれません。
過去にミンジョンら家族を見捨てたことを悔やんでいたジョンソクが、最後にはその家族を救うわけですから。
とはいえ、主人公が良い方向へと変化を見せたのは前作と共通しています。
過酷な環境下でも人は変わることができるというのは、ヨン・サンホ監督の伝えたいことではないかと考えられますね。

⑩前作とは異なるハッピーエンド

前作で印象的なシーンといえば、やはり主人公ソグと娘スアンとの別れでした。
スアン自身は最終的に生き残る訳ですが、夫を失ったソンギョンと二人きりという状況は、ハッピーエンドとは言い切れない状態であったと言えます。
そうして見ると、本作は主人公であるジョンソクを初め、ミンジョンと二人の子供たちが生き残る本作はかなり理想的なハッピーエンドだと言えるでしょう。
一方で、師団長(おじいちゃん)が命を落とすことで理不尽な世界観を演出もしていました。
どちらにしても、親子が無事に済むというのは、多くの人が受け入れやすい結末。
もしかすると、前作のヒットを受けてヨン・サンホ監督が、より温かさのあるラストにしたかったのかもしれませんね。


まとめ

ここまで、ヨン・サンホ監督が『新感染半島 ファイナル・ステージ』を通して描きたかったことについて、10個のポイントを挙げました。
書いてみて分かったのは、アクションや世界観については新たな視点からドラマについては前作と共通したテーマで描いていたことです。
世界観や時代は変わったものの、作品に対するアプローチはブレないヨン・サンホ監督らしい作品だったと言えますね。