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【ネタバレあり・レビュー】アルカトラズからの脱出 | クリント・イーストウッドが挑む実際に起きた脱獄劇!

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ストーリー

サンフランシスコ湾に位置するアルカトラズ島刑務所。
アメリカ国内の問題のある犯罪者が集められたその刑務所に、フランク・モリスが収容される。
彼はそこで冷酷な所長と出会い因縁を持つ。
脱獄を決意したモリスは、刑務所内で出会ったおしゃべりな青年チャーリーと、過去に同じ刑務所に服していたアングリン兄弟の4人を仲間に引き入れ準備を始める。

感想

タイトルの通り、アルカトラズの刑務所から逃げ出すことだけを目的としている本作。
「脱獄映画にハズレなし」とはよく聞きますが、まさにその言葉通りの素晴らしい作品でした。

そもそも、脱獄映画は「入念に準備して脱獄を開始するタイプ」と「一発逆転で脱獄するタイプ」(要は準備シーンを客に見せないタイプ)とがあります。
その枠に当てはめるのなら本作は前者。
序盤から終盤にかけて、時間をたっぷりと使い脱出のための下準備を見せていました。

そうした中で面白かったのが、看守の目をかいくぐる攻防でした。
本作は実話がベースとなっており、その残っている事実だけを映像化したならば見る側からしたら感情移入も盛り上がりもないものとなったことでしょう。
そこで生きてくるのが脚色。
モリスたちが脱出のため準備を進めるわけなのですが、いい具合に看守が現れたりします。
「もうバレてしまう!」とハラハラさせた末にセーフという展開は、手に汗握り気づけば作品に熱中している自分がいました。
もしかすると脚色以上にミラクルな出来事も実際にはあったのかもしれませんが、「モリスが屋上までの通路を探す→次のシーンで看守がモリスを起こそうとする→実はもう戻っていました」といった表現は映画だからこそできるもの。
そうした演出が作品をより面白くしていたのは事実でした。


そんな脱出計画が熱い作品ですが、刑務所内の仲間たちとの交流もなかなか面白かったです。
彼らとモリスの関係は、そこまで濃く描かれるわけではないのですが、脱獄計画に影響を与える必要な要素を抑えていました。
例えば、絵描きのドクとネズミを愛するリトマスの場合は、その悲惨な運命からモリスの脱獄への思いをより強めることにつながっているといった感じです。
中でも印象的であったのが、モリスとは喧嘩友達のようになるイングリッシュとの関係。
彼らは白人と黒人であり、互いに相手の人種を尊重しないことから本来なら相容れない存在でした。
しかし、モリスが脱獄を計画していることを知ったイングリッシュは、脱出に必要なアドバイスを送り間接的に脱獄を手助けします。
そこから感じられたのは、受刑者同士の仲間意識でした。
損得など関係なく、脱獄への希望を持った者を手助けする。
それはもしかすると、自らも自由に対する希望を失っていないからなのかもしれません。
なんにせよ、監獄内であれば人種も関係なく助け合うというのは見ていてグッとくる関係でした。


本作を見ていて最も興味深かったのが、モリスを初めとした脱獄者をまるでヒーローのように描いていた事でした。
しかし、もともと彼らは犯罪者。それは冤罪でもなければ情状酌量の余地があるものでもありません。
では、なぜ彼らがヒーローのように思えるのかというと、それは様々な要素が組み合わさった結果だと思います。
まず、主演がクリント・イーストウッドというだけで、勝手にヒーローというイメージが付いていました。
そのイーストウッドが冷酷無慈悲な刑務所長に対立し、確固たる信念の下、脱獄を決意するのですから彼の肩を持ちたくなります。
また、モリスが受刑者仲間を大切にする人情に厚い男としているシーンもあり、彼の方が良い人間に見えるようになっていました。
モリスが逮捕された理由についても作中では触れられておらず、それも彼が犯罪者というイメージを強調させない手段のひとつだったのかもしれません。(ちなみに罪状は強盗の再犯)
ラストシーンでは、生存して逃げ切ったかのような表現もされていましたし、明確にモリスたちに偏向した描き方をしていました。

※実際のところ、3人は溺死という見方の方が強いらしいです。
その根拠として、アルカトラズ収容前は脱獄後に再犯して捕まるという傾向があった3人が全く痕跡を出さないこと、エンジェル島に泳ぎ着くにはアスリートでも条件が揃わないと難しい(水温や潮の流れなど)ことが挙げられています。
とはいえ、死体が上がらない以上はどちらとも言えないのも事実ですが。


アルカトラズからの脱獄を描いていた本作。
イーストウッドを主演に、作品に引き込んでいく数々の手法は見ていて楽しかったです。
「脱獄映画にハズレなし」という俗説を築き上げた金字塔の一角と言えるでしょう。